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待っている人たちがいる

 異空間が消失した。

 

 タリルの大森林が姿を現す。


『よくやってくれたアーニー。お守りが役に立って良かった』

 祖霊のねぎらいの言葉が聞こえてくる。


「何がお守りだ。切り札そのものじゃないか」

 絶大な魔法だった。多分古代の召喚戦争においても猛威を揮ったのは予想できた。 

 アーニーはその恐ろしさを思い知った。


『ははは。お気に入りの魔法だ』

 

 そして別の存在が、アーニーのもとに向かってきた。


『アーニー! 私を追放するなんて! ひどいよぉ』

 水の精霊がアーニーに抗議する。


 アーニーが代替支払いに使った魔法を担当していた精霊だった。


『水の魔法一つを追放する、か。なら対処は簡単だ』

 祖霊が教えてくれた。小難しい記述だが、単に覚えた魔法を忘れるということだ。


『水の魔法一つの権利を永続に失う、ってテキストではなくて本当によかった』

 テキストの文章一行で解釈に劇的に変わるのが、【古代召喚】の魔法だった。


「ごめんごめん。すぐ、迎えに行くよ。一日待ってくれ」

 アーニーは精霊に謝った。


 水の魔法の一つを追放した彼はこの精霊が担当していた魔法はもう使えない。

 しかし、再度習得できないという縛りはない。 


 覚え直せばいいだけなのだ。

 

 ちなみに代替支払いに充てた水魔法は【水面に魚が跳ねる(ジヤンプフィツシユ)】というものだ。

 覚え直すのにゴブリン五匹分の経験値があればお釣りがくる。


『りょ! まってるからすぐきてねー』

「おう」

 その返事に安心したのか、機嫌を直した精霊は消えていった。


『俺も行くよ。ゴタゴタは残ってるだろうがそこは俺の管轄外だ。がんばれ』

「あんたがいなかったら間違いなく死んでたさ。もうやりたくねえ」

 疲れを隠しきれず、ため息をついて大木に背を預け、座り込んだ。


『俺は楽しかったけどな? またな』

「俺はごめんだよ。――ありがとう……ございました」

 目を瞑り、祖霊に対して心から感謝した。

 伝わっているはず、だ。


 祖霊がいなければ町は破壊され、ウリカは守れず、勝てなかった。


 しばらく風にあたったあと、立ち上がった。

 待つ人々がいる、彼の町へ帰るために。





 破壊された壁の外。

 彼の帰りを待つ者たちがいた。


 森の中からアーニーが姿を現す。

 とぼとぼと歩いて帰ってきたが、顔は自信に満ちあふれた笑みを浮かべていた。


 彼を待つ人の輪に近づく。飛び込みたくてうずうずしていたウリカが、一番最初にアーニーの胸のなかへ飛び込んだ。


「アーニーさん!」

「ウリカ。終わったからな」

 優しく声をかける。


 ウリカは無言でこくこく頷いていた。


 皆はそんな二人を暖かく見詰めていた。


 ウリカが落ち着くのをまって、二人で人の輪に近付く。

「みんなありがとう。――終わったよ」

 

 歓声が上がった。


「次は私です」

 エルゼがまっすぐに飛び込んできて受け止める。


「私もいっちゃおーかな」

 ポーラも飛び込んできた。二人の体を支え、抱きしめる。


「エルゼ、ポーラ。おつかれさま。ありがとう」

 二人は頷いた。

 ポーラは離れ、ウリカをその場所に押しつける。


「ぽ、ポーラさん?」

「いいからいいから」

 にししと笑う。


「私、甲冑ですから飛び込めないっすねえ」

 ジャンヌが苦笑を浮かべて、物欲しそうにしている。


「ジャンヌ。よくやってくれた。がんばったな」

 ジャンヌに近付いて、頭をぽんぽんし、撫でる。

 慈しむような視線を感じ、ジャンヌは顔が真っ赤になった。


「うひゃ、やっぱりこれはレジストできない破壊力」

 照れるあまり口調が乱れている。


「頭ぽんぽん枠はジャンヌさん限定?」

 ウリカがちょっと拗ねた。


「よっし、いい子いい子枠は渡しません!」

 ジャンヌが笑いながら宣言した。


「本当に助かった。ありがとう」

 集まっている四天王に礼を述べた。


「いいってことよ。俺様珍しく大活躍できたしな」

 ニックが笑う。


「同じくです。竜戦もらえないと私、出番ないし」

 竜戦士パイロンも槍を杖代わりに体を預けながら、会話に参加する。


「おっちゃんも忙しかったけど、役に立てたみたい。良かった」

 大司教カミシロが一番忙しかった。

 町に戻ってからも、ウリカとエルゼにMP回復してもらいながら、人々の治療、復活に勤しんでいたからだ。


「うぅ、俺が一番面目ない」

 恐怖騎士のラルフだけ目が死んでいた。


「何言っている。皆の勝利だ。やることはやっていた。そうだろ?」

 ラルフ以外全員が頷いた。


「みんな、ありがとな」

 ラルフが礼を言う。


「礼を言うのは俺のほうだっての。さあ、戻ろうか。しばらく忙しくなるかもしれないけれど、今日はゆっくり休もう」

 アーニーの言葉に、全員が頷いた。

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