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地雷を踏む(物理)

「大丈夫か!」

 アーニーが駆け戻ってきた。凄まじい俊足だ。


 気が気では無かった。破壊され尽くした砦に、外にいるウリカとポーラ。

 ニックとラルフは少し離れたところで話し込んでいる。


「ああ。ウリカちゃんは無事だよ、アーニーさん」

 紅い瞳を真っ赤に腫らして、泣きじゃくるウリカを抱きしめていたポーラ。


「ありがとう、ポーラ。ウリカ、大丈夫なんだな」

「ポーラさんが…… ポーラさんが一人であのでっかい化け物に立ち向かって助けてくれました……」

 まじまじとポーラを見る。


 ポーラは照れたように首を振った。

「ウリカちゃんこそ、この町を守るために犠牲になろうとしてたじゃないか」

「お前ら、無理するなよ…… ポーラ、本当にありがとう」

「ポーラさん本当に凄かったです。たった一人、立ち向かって。ゴーレムの左腕破壊して…… 死ぬつもりで」

「……ポーラ」

 ウリカが泣いていた理由がわかった。


「助かったからいいじゃないか」

「何したんだよ」

「全祝全弾全力さ♪」

 照れ隠しに笑うポーラをみて、自分の罪深さを呪った。

 胸元に水晶がちらりと見える。


「それ復活不可の自爆水晶じゃないか。お前、相打ちに持ち込むつもりだったのか」

 アーニーは古代魔法が使える。知識として知っていた。


「へへ♪」

「ポーラさん!」

 ごまかすように笑うポーラ。照れているのだ。ウリカは知らなったのだろう。蒼白だった。

 

 特攻と同義。復活さえ許さないのだ。覚悟がないと出来ない全力。


 アーニーはポーラを抱きしめた。

 びっくりしたように固まるポーラ。


「無茶しやがって…… お前に何かあると俺が悲しまないとでも思うのか?」

「……でもウリカちゃんが」

「それでも、だ」

 ポーラがアーニーを突き放す。


 ポーラはニカっと笑った。


「アーニーさんは優しすぎるんだよ。今のは役得だね」

「おい」

「ふふん。それにね。私一人じゃない。ニックが凄かったんだ」

「俺に振るなよ?」

 いきなり話を振られたニックが振り向いた。


「はい。ニックさんも凄かったです。危機一髪のところでポーラさんを救い、巨大ゴーレムの右腕を一人で破壊し、ポーラさんと二人で手玉に取ってました」

「手玉は手玉でもお手玉だけどなー」

 褒められることになれていない。照れているのだ。うまいごまかしができなかった。


「ありがとうニック。ラルフも――って」

「あいつは今そっとしておいてやってくれ」

「お、おう。――三人ともよくやってくれた」

「領主様もね。最後はメテオぶちかましてくれた」

「マレック、昼間から無茶しやがって」

「怒り狂ってたね、間違いなく」

「俺も同じだけどな。――今から、あのサソリ型ゴーレムを追跡する」

 ポーラが目を丸くした。


「連戦してるんじゃないの? あんたこそ無茶しないでよ!」

「大丈夫だ。いってくる」

「待って、【MP譲渡】」

 ウリカがMPを分けてくる。


「アーニー、これ祝別ダメージクリスタル。使って」

「ありがとう。帰ったら返すよ」

「おうさ。必ず返してね」

「わかった。いってくる」

 アーニーは姿勢を低くし走り出す。


「終わったら、ポーラさんも一緒に祝勝会しましょうね」

「いいねー。ニックにも言われたしね」

「おうとも。みんなで食うぞー」


 盛り上がっている三人のよそに、さらに暗黒を深め、遠くを見詰めている男がいた。





 走り出したアーニーはすぐにサソリ型ゴーレムに落ち着いた。

 背面は破壊され、両手のハサミはそれぞれ全壊。


 腹を地面につき、ひきずるように歩いている。

 哀れともいえる体勢だ。


『こいつは人工物だ。【スーパードレッドノート・スコーピオン】という召喚モンスターだな。大量の生け贄が必要なはずだが…… 知性ある大型のチャリオットみたいなもんだ』

「ということは?」

『工作術式は大変有効ということだな!』


 皆がここまで追い詰めた。

 彼らの努力を無駄にしてはいけない。確実にここで止めを刺す。


 彼もまた全力で挑む。


 走っているゴーレムに乗り移り、呪文を唱える。


「【七十五式・破甲爆雷呪】」


 亀甲形の円盤が四個現れる。

 二個ずつ重ね、背面にセットした。ぴたりと吸着する。 

 起動型呪文だ。彼の合図で発動し大爆発が起きる。


 すぐさまゴーレムから飛び降り、森に駆け込む。

 そしてゴーレムを追い抜き、進行方向を目指す。


「祝別クリスタルを使わせてもらうよ、ポーラ。【八十二式・爆熱地雷呪】」

 手に持ったクリスタルが輝く。地面に魔方陣が発生し、そして消える。


 目印になる小さな突起が一つだけ見えるだけだ。


 文字通りの地雷だ。踏めば大爆発が起きる。一定の重さがある相手にしか使えない呪文だが、サソリ型ゴーレムには十分だった。


 アーニーはすぐさまその場から走り出す。


 遠目でみても巨体がかなり小さくなったそのとき、【スーパードレッドノート・スコーピオン】は【八十二式・爆熱地雷】を踏んだ。


 魔方陣が現れ、発光し、爆発する。


「【七十五式破甲爆雷呪・起動】」

 仕掛けた呪文を同時に起動させた。


 火柱が天を貫く。


 爆風がアーニーのもとまで届く。


 木々が悲鳴を上げ、爆風で様々なものが吹き飛んでいく。

 アーニー自身も吹き飛ばされないよう、木にしがみついたほどだった。


 爆心地には、大きなクレーターが空き、サソリ型ゴーレムの手足であろう部品が転がっているだけだった。

 熱くて近づけない。


「祝別クリスタルと俺の魔力倍化か――やりすぎた……」


 自分が行ったことにもかかわらず、想定外の威力に呆然とした。

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