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あなたと一緒にガチャしたい

 町の中央広場にまできて、アーニーは立ち止まった。

 人がまばらに往来するなかで後ろを振り返る。


「俺に何か用か?」

 尾行されていることには気付いていた。


「お姿を見かけまして。アーニーさん」

 外套をかぶった人物。折れそうなほど華奢な体付きは少年のようにも見える。


 皮鎧に小剣で武装している。冒険者なのは間違いがない。

 どことなく見覚えがある。


「以前、石竜の迷宮で置いていかれたところを助けていただいたヒーラーです」

「ん? ああ、半年前の君か」

 彼は迷宮でよく人助けはしている。置いていかれたヒーラーは珍しいので覚えていた。


「改めて名乗らせていただきます。私はウリカ。前は名前も聞いてくれなかったですからね」

「ん。へんな状況で女性に貸しを作りたくなかっただけだ」

「気遣い上手なんですね」

「余計なトラブルに巻き込まれたくないだけだよ」

 ややうんざりした口調に、ウリカがクスっと笑みを漏らす。

 何か過去にあったのだろうか。


「大切なこと、たくさん教えてくれました。そして命も。返せない程の借りです」

「大げさだ」 

 ウリカは(かぶり)を振った。


「私には祖霊の加護がありません。復活魔法対象外なのです。あのままだと終わっていました。決して大げさではありません」

「まあ、なんだ。あまり気にされると困る。それに、どうやら礼だけではなさそうだ」

 貸しに入らない出来事だ。命があって感謝してくれるなら、それでいい。


「今日はお礼と、お誘いです。たまたま冒険者組合に、アーニーさん指定で依頼を出そうと思ったら、明日には出られると聞いて。探しました」

「タイミング悪かったな。その通り、町を出る」

「よかった。町に出る前に話しかけることができて」

「俺に用なんて思いつかないんだが……」

 アーニーは基本、冒険者組合の冒険者とは接点がない。

 ソロ専であり、他人にあまり興味がないからだ。


「行き先は決まっていますか?」

「いや、まだだな」

 まず町を出る。そして迷宮の多い町へ移動しようとしていたのだ。


「――私と一緒にタトルの大森林へ行きませんか」

 ウリカが切り出した。


「遙か昔、古代帝国があったとされる大森林か」

 アーニーも聞いたことがある。


 かつて魔法帝国が栄えたが、神の怒りを買い一夜にして崩壊。大森林が発生したと言われる地。

 魔神が封印されているとも言われている。

 しかし、近年あまたの迷宮、遺跡が眠っているとの話が広がり、各国が森林の周囲をこぞって開拓し始めているという。

 強力なモンスターが徘徊し、それなりの軍備もいる。


 それが仇となり、遺跡や開拓地を巡って、町や砦同士の紛争まで勃発しているようだ。


「かなり遠いですが、攻略する価値のある迷宮があるのです」

「しかし、その迷宮は二人で攻略できるようなものでもないだろう?」

 彼女の実力はわからないが、二人で迷宮は厳しい。


「戦力不足なら、現地で仲間を探すという手もあります」

「それは別にいいが…… 何故俺なんだ。俺のことを探していたなら、俺の噂も聞いているだろう」

 自分がこの町の冒険者の中では有名人という自覚はある。


「もちろん知っていますとも。無類のルートボックス好きと」

 ウリカも知っていたようだ。肯定する。


「ああ。効率のためにいつも一人だ」

 本当は別に理由があるのだが、そういうことにしたほうがいいのだ。


「そんな変人に声をかけるなんて、酔狂にもほどがある」

「酔狂でも物好きでもありません。ちゃんと理由があるんですよ」

「理由?」


 ウリカの口下に笑みが浮かんだ。


「理由。――あなたと一緒にガチャしたい、です」

「ん?」

「あなたと回したいルートボックスがある。それが誘う理由です」


 アーニーが固まった。


「理由になりませんか?」

「なるが…… 告白?」

 そんなわけはない。わかっている。


「なんでそうなるんですか!」

「破壊力ありすぎだろ」

「え、あ」

 ウリカの外套から覗かせる口下部分が真っ赤だ。


「ま、まあ。そこらの解釈はお任せします。強い否定はしませんです。はい」

 かなり慌てている。


「冗談だ。落ち着け」

 こんな美少女がいきなり告白してくるわけがない。

 わかっている。


「えっと……それはそれで不本意です」

  何故か抗議される。


「ウリカ?」

「うー」

 ウリカの語彙力が低下していく。


「そ、それはともかく。アーニーさんは教えてくれました。『私』を必要としてくれる人を。もしくは『私』が冒険したい人を。私は貴方と一緒に迷宮を攻略したい。だから私はアーニーさんを……」

「わかった」

「いいんですか?」

「俺が言ったことだからな」

 

 必要といってくれる人と一緒にいたい。彼の本音だった。先のことは分からないが、一緒に旅をするぐらいはいいだろう。

 ガチャしたいと言ってくれた人間など、今までいなかったのだから。


「ありがとうございます。では話しましょう、目的の地のことを」

 ウリカは外套を脱いだ。


 輝くような金髪が舞う。細い顔立ちの美しい少女がそこにいた。

 セミロングがよく似合う、幼さが残るも透き通るような肌の白さが印象に残る。


 ――そして目を引く、紅の瞳孔。見る者を魅了する、強い意志。


「魔人の末裔たる、一族に伝わる迷宮の話を。この瞳が、その証拠なのです」

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