大地鳴動
光柱に向かって走る二人。
「エルゼ、下がれ」
森の奥から敵の気配。光柱にはまだ遠い。
その声とともに、彼らの前方から二人の人影が現れた。
「なんですか…… あれ……」
エルゼが絶句した。
「ヒャッハー!」
二人の人影はエルフの男だった。
髪はモヒカンで、肩パッドをつけている。槍と斧をそれぞれ持っていた。
『あれは【ヒャッハーなエルフ】だ! 凶暴な上に魔力の扱いに優れている、異世界のエルフ』
祖霊の声に緊張が走る。
『あいつが現れるとなると生命と炎ってことだな。トリッキーな戦術じゃない。力押しだ』
祖霊が敵の戦力を分析する。
「あれがエルフだと認めたくありませんね」
エルゼが冷たいまなざしを送る。
あの肩パッド、恥ずかしくないのか、と言いたいのをぐっと堪える。
「そこまでだ冒険者」
森の奥から、また一人の男が現れた。まだ年若い男だが、肌が大理石のように白い。
目から怪しい光を発している。人間ではないのは明白だった。
「邪神の【使徒】か」
これで二人目だ。一人目はマレックが始末したようだった。
「あの方の手を煩わせるまでもない。死ね。【業火】」
爆炎がアーニーを襲う。初手が精霊魔法とは思わなかったが、攻撃方法の一つとしては想定にされていた。
【古代召喚】の直接攻撃魔法の多くが、精霊魔法に組み込まれているのだ。
「くっ」
魔法を回避することは出来ない。なんとか耐えきった。
【ヒャッハーなエルフ】も続けて迫ってくる。
蛇のように長い舌がおぞましい。
「まだまだ行くぞ。そら、お前たちも来い」
森の奥から巨大な象と大蛇が現れる。
「なんてこと…… 【古式召喚】のモンスターがあんなに……」
エルゼもアーニーを支援するべく、呪曲を奏でる。現在はフルートに持ち替え、美しい旋律を奏でる。
対峙するアーニーは落ち着いていた。
『アーニー! あれだ!』
「わかってる!」
アーニーは祖霊との打ち合わせで用意していた精霊魔法を使う。
「一気にでてきてくれて助かった。――大地よ、火炎よ、力を貸せ。【大地鳴動】」
手のひらを地面を叩き付け、呼びかける。
大地が鳴動し、あたり一体の地面が激しく揺れる。
エルゼは大木に捕まってなんとか体を支えた。
「ひぃ! 地面が揺れる!」
「うわー! もうダメだ!」
【ヒャッハーエルフ】がおびただしい量の吐血。そのまま地面に倒れ込む。
「PAOOOOOOOOOON!」
「SYAAAAAAA」
象と大蛇ものうたうちまわって、動かなくなった。
――召喚された存在は全員死んだ。
「え?」
【使徒】が愕然とした。
「え?」
エルゼも呆然とした。横たわったまま動かない異次元のエルフ、象。そして大蛇。
確かに死んでいる。
確かに地面は激しく揺れたけれど……揺れだけで死ぬ?
エルゼは【使徒】をみた。【使徒】も同じ視線をこちらに向けていた。
「地面が揺れるとびっくりするよな。俺もちょっと吐き気がする」
「確かに。私たちもダメージ受けてますね」
地面の揺れは長めであった。
「そういう問題じゃなくない?」
【使徒】は現状が把握できないようだ。
本当に死んだのか、おそるおそる大蛇に触っている。死んでいるようだった。
『空飛ぶモンスターじゃ無くて助かった。炎は俺も好きな色だぜ? 全体攻撃の地面呪文は必須だろ。幸い精霊魔法には存在するんだな、これが』
祖霊が笑っていた。
「なんで死ぬの?」
【使徒】が不条理を訴えている。
「俺に聞くなよ…… 地面が揺れるのに弱いんだろ」
『この世界のモンスターなら、あの程度では死なない。精霊魔法に弱い【古代召喚】の、地を這う連中限定だ。3点……もといこっちでは魔力は30ばかりでいい。攻撃力特化のモンスターが仇になったな』
祖霊が種明かしをする。
祖霊に聞いていたアーニーは、たくさんのモンスターを召喚し、速攻を仕掛けてくるタイプの戦術を聞いていた。
対策を聞いたとき、この呪文を教えてもらったのだ。
「俺も?」
「ああ」
【使徒】の首を跳ね飛ばす。連れ帰る時間はないのだ。
その遺体も火炎魔法で燃やしてしまう。
「いくぞ、エルゼ」
「はい」
釈然としないものを感じているのは、エルゼも同じだった。




