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二面攻撃

 早朝、慌ただしくアーニー宅に訪問者が現れた。

 砦方面入り口の門番だ。


「アーニーさん、大変だ!」

「どうした!」

 哨戒準備をしていたアーニーが出た。


「櫓で見張りをしていたら…… とにかくきてくれ」

 門番と一緒に砦の櫓に向かう。


「あれだ。見えるか」

「【三十四式・遠望】」

 アーニーは魔法を使って、言われた方向をみる。


 巨大なドラゴンがそこにいた。


「あっちにも」

 もう一方には、天を衝くほどの光の柱が立っていた。


「教えてくれてありがとう」

 アーニーは一気に櫓を飛び降り、自宅に戻る。


 自宅にはすでにウリカとエルゼとジャンヌ、そして四天王がいた。


「皆様を呼んで参りました」

 エルゼが言う。アーニーは手を上げて礼を示す。


「祭りか?」

 ニックがおどけて言う。


「そうだ。すぐ編成して向かって欲しい。相手は――ドラゴンだ」

「ほう?」

 竜戦士のパイロンが眉を上げて聞き返す。


「もう一つは光柱。こっちが本命とみる」

「呼んでるってことか。二面攻撃、ね」

「俺をな」

 見え見えの仕掛だ。しかし、乗ってやるしかない。


「ドラゴンは陽動?」

 ウリカが聞いてくる。


「間違いなく。襲ってくるならとっくにきているだろ? しかも放置できない」

「朝っぱらから嫌らしいな」

「朝だから、ですね。夜になるとマレックの力で守りが鉄壁になります」

 ウリカも冷静に分析する。


「予想通りだ。待っていたらこの町に被害がでる。迎撃にでるぞ」

 全員が頷いた。


「ジャンヌ。竜を押さえてくれ!」

「お任せあれ!」

 ジャンヌがどんと胸を叩いた。

 危険な任務だというのに、朗らかに笑っている。


 待ちに待った、強敵との戦い。心から望んだ、戦いがようやく始まるのだ。

 ルートボックスから呼び出されて初なのである。


「ジャンヌにはおっちゃんとパイロン、頼んだ」

「了解」

 短く答えたその言葉に、パイロンの気迫が籠もっていた。

 竜特攻を持つ職――欠点があった。竜と戦う機会があまりないのだ。通常の戦闘でも格段弱いわけではないが、それでも竜と戦う機会を得ることができる。

 まさに望外の戦場だ。


「わかりました」

 おっちゃんはいつもの通りである。ただ、激戦は予感しているのだろう。穏やかな笑みは姿を消していた。


 聖騎士、竜戦士、大司教。守り重点の編成だがパイロンは竜特攻を持っている。

 ジャンヌはSSRで騎士にしては火力が高い。おっちゃんのMPさえ持てば竜は完封できるだろう。


 これがただの戦士や騎士なら、もう二人は欲しいところだ。

 少数精鋭の強みがあった。


「俺とエルゼが光柱に向かう。エルゼは危機を感じたら全速力で離脱」

「はい」

 エルゼも気合い十分だ。これほど重要な戦いにアーニーとペアだ。ウリカの分まで頑張らねばならない。


 アーニー一人で探索も考えたが、エルゼの支援呪曲は移動速度を上昇させ、MP回復にも優れる。

 戦場の転戦を考えれば、二人のほうが身軽だ。

 相手は召喚中心の魔術師。重装備同士の戦士の戦いではこうはいくまい。


「あの……私は……」

 ウリカがおそるおそる聞いてきた。

 答えはわかっている。それでも聞かずにはおられなかった。


「この町の防衛だ。ニック、ラルフ。一緒に頼んだ。ウリカを狙って仕掛けてくることは容易に想像できる」

「おうよ」

 ニックは剣を掲げた。頼んだと言われたら成し遂げなければならない。


「任された」

 恐怖騎士も頷いた。街の人間を守る。誉れの任務なのだ。


 ウリカは顔を伏せる。自分が狙いなのだから仕方ないのだが、やはり一緒に戦いたかった。


「待つって……辛いですね」

 できるのは祈るだけ。本来なら出来るはずの支援もできない。


「心配するな。俺は臆病でダメ人間だからな。勝てそうにないならさっさとウリカを拉致してこの町から出る」

「今からさらってくれてもいいんですけどね?」

 力ない笑みを浮かべ、ウリカは呟いた。


「そういうわけにもいかないさ。ウリカの故郷で、俺が住んでいる町だからな。今俺たちがいなくなってもこの攻勢が止むとは限らない」

「ですよね。浅はかでした――ごめんなさい」

 自分とアーニーのことしか考えていなかったことをウリカは恥じた。

 まだ十五の少女なのだ。


「気にするな。さっさと片付けてこのメンバーで宴会だな」

「いいね、それ!」

 ジャンヌが名乗りを上げる。


「ディーターさんやドワーフさんたちも呼ばないと拗ねますよ!」

 ウリカは騒がしい町の仲間を思い出した。


「ドワーフはともかく兄は呼んで欲しいです」

 呼ばれなかったら兄は一週間は拗ねるだろう。確信があった。


「わかったわかった。さあ、行こうか!」

 皆が気合いを入れた。

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