冒険者に有利な不具合は修正が早い
タトルの大森林で哨戒中のアーニーは、見つけてしまった。
冒険者の遺体を。これで二回目だ。
今回は複数だ。
見せしめのように木に吊され掲げられている。
「マスター…… これって」
同行していたジャンヌが呟く。
「ああ。わかってる」
アーニーが嘆息した。
「早くウリカを差し出せっていう、敵のメッセージだ。ウリカには内緒だぞ、いいな」
ジャンヌは唇をかみしめ、頷いた。
町に戻ったアーニーはマレックに報告した。
「ということは交戦は近いな」
「ああ」
冒険者に直接手を出してきたのだ。
敵が仕掛けてくるとみたほうがいいだろう。
「向こうも時間がないということか?」
「世界の修正があったのが影響したかもしれないな。召喚系の制限が入ったであろう?」
先日冒険者組合より、最新環境報告があったばかりだ。
「神々も修正が早い。できれば【使徒】そのものを防いで欲しかったが」
「俺たちに不利益な不具合は遅く、有利な不具合は修正が早い。いつもはこうなんだがな」
予想以上に早い神々の動きをみても、今回の一件はかなりやばい案件であるのは間違いないんだろう。
「本当に修正が早いよな。強化魔法は昔、乗算だったのが加算に変更された」
「ルートボックスもな。出やすい時間帯というのがあったんだが、その時間しか回さなくなってな。すぐに修正されたよ」
「神々なんて『簡単にクリアされたら悔しい』とか言い放ったらしいからな」
略して簡悔である。ひとしきり神々への毒を吐く。これぐらいは許されるのだ。
「で、どうする。アーニー。ウリカを。探索に連れ出すかね?」
「いや、今まで通りだ。相手に手土産もっていっても仕方ないだろ」
向こうもウリカを連れ出すとは思ってはいないだろう。
「冷静だな。私としては安心だが」
「相手の勝利条件を考えれば、な。ウリカには知らせていない。責任を感じてついてくるって言い出すに決まってる」
「亡くなった冒険者は復活可能か?」
「ダメだった。祖霊付の守護有りはいなかった」
復活呪文は受ける側にも条件がある。祖霊の守護が必須なのだ。
「そうか……」
ウリカはきっと気にするだろう。マレックはそれがわかっていた。
「敵の目的は俺だと思う。俺を処分したあと、ウリカ拉致を検討するんだろう」
すでに【使徒】は捕らえたのだ。向こうもなんらかの手を打ってくるはずだ。
「昼に無力な自分が恨めしいよ」
「そのかわり夜は盤石だろ。どれだけ安心できると思っているんだ」
アーニーたちが夜、安心できるのもマレックの力のおかげだ。
「そういってもらえると助かるがね」
「敵の仕掛けがどんなものか想像つかないのが難点だ。【古代召喚】は厄介すぎる」
「何かわかったことがあるのかね?」
「祖霊が言うには【古代召喚】のなかでも古い術式らしい。【選択規則 】がかなり古いとか俺ではわからんことを言っていた」
「選択規則が古い? 確かに不明だな」
永い年月を生きた吸血鬼公にも心当たりはなかった。
「【古代召喚】の戦闘は、時期によって細かく選択できる呪文が変わるらしい。そして新しい呪文を得るためにルートボックスみたいなものを引かないと手に入らないそうだ」
「今もろくでもないが、古代もろくなもんじゃないな」
「同意しておく。そして【選択規則 】の選択規則が古いほど、戦闘の展開が早いとのことだ」
「決着がすぐにつく、という意味か?」
「ニュアンスの問題だから分かりづらいんだよな…… 長引けばどんどん魔力が強大になり、手遅れになるとは聞いた。どうやら【古代召喚】はいかに自分の必勝パターンに入るかが重要らしい」
「ふむ。皆目見当がつかん」
【古代召喚】は、千年前のマレックの時代にしても、すでに過去の遺物だった。
強大な力ゆえに徹底的に痕跡を消されていたのだ。
「手探りだ」
不死者ですらわからない情報なのだ。アーニーとしても、色々試すしかない。
「相手が一対一できてくれたら楽なんだけどな」
「無理だろうな」
「同じ場所を同時に襲ってくることはないらしいぞ。もともとは魔術師同士の決闘ルールらしいからな。ただ、戦場の同時展開はありうる」
「詳しいな。お前の祖霊、つくづく変わっている」
「俺のような変人につくんだ。変わりもの以外いないだろ」
「違いない」
美形の青年の目元が緩んだ。
「用意して欲しいものがあれば言ってくれ。できるだけのことはしよう」
「助かる」
戦争前夜を思わせる二人の会話だった。




