閑話 ノッチ
「緊急会議に集まってもらったのはほかでもない」
緊急の天界が始まった。
魔人を含むいつもの神々が勢揃していた。
「邪神が復活しそう」
長い沈黙が降りた。
「冗談では済まされないぞ主神」
魔神が呆然とした表情で呟いた。
それに続いて神々が騒いで
「てめーの一番重要な仕事じゃねーか主神!」
「主神様。何故そんなことに? 我々の力はほぼ邪神封印に使われているはずなのに!」
「主神手抜きすぎ」
「仕事してたの? 主神」
「このノッチ、正気?」
「最後のはアウトじゃ! 誰が言ったか」
女性陣からの声であったが、反応はない。
「ノッチは禁句」
「そうだ。魔神が反乱のとき、切欠きの呪いを主神にかけたことで、魔神は未来永劫封印されることになったのだ……」
「まだ気にしてたのか……」
「ノッチのことをM字ヘアっていうのやめろよ!」
「主神、逆! 逆です!」
はっと主神は息を飲む。ごまかすように咳払いをした。
「魔神。そろそろ呪いを解除していいんじゃよ」
「ごめん無理。解き方わかんない」
「だからなんでそんな呪法を儂に使うかな?!」
「良かれと思ったんだよ。祖霊世界では大人気なんだぞ。最新のこの世界への干渉する手鏡は皆切欠きありなんだぞ。みんな切欠きの手鏡を手に入れるのに夢中だ。喜んでもらえると思ったんだよ」
「じゃあお前も切欠きになれよ」
魔神は目を逸らした。
「……いやです」
「ヘアーハラスメントじゃ! もういい。呪い解けるまで永劫牢獄だから。お前がノッチヘアにするなら、永劫牢獄の期間短くするよ?」
「永劫牢獄でいいです」
「ふぉー!」
怒りのあまり声がでない主神。
「そもそも切欠きありで、我々がいかに祖霊世界で苦労しているか。アスペクト比変態ばかりじゃ。そんなにお前ら映画みるんか。切欠き込みで手鏡映像作らないといけないんだぞ!」
「アスペクト比とかいうな。流行の18:9でいいだろうが」
「16:9のほうがやりやすいわい。古い手鏡が基本だろう! 運用機構のほうでのスケーリングも限度があるし……」
「そこまでにしてください、主神、魔神殿」
ため息をこらえながら、美の女神が割って入った。
「邪神の詳細、詳しく」
「そうじゃ、邪神だ」
主神が思い出したように言う。
「まだ完全復活はしとらん。あやつは特殊だからな」
「そう簡単に主神や我含めての封印が解けてたまるか」
魔神が吐き捨てた。
「だが、配下のものは何人か復活している節がある」
「何故追跡できなかった?」
「法則をすり替えよったわ」
「法則?」
戦の神が問いただす。
「知っての通り、この世界は祖霊世界の創造したビジョンを投影して構築されておる」
「ああ」
「そうだな。いうなれば幻想――手鏡や鏡台に写るビジョン…… それらがもとで法則が構築されておる」
「ルートボックスはその影響だからな」
「うむ」
ルートボックスは祖霊世界とこの世界をつなぐ手段である。
「だが、邪神は祖霊世界でも、違う法則を見いだしたのじゃ」
「なんだそれは」
「祖霊世界では卓上遊戯……と呼ばれておる」
神々は再度沈黙した。
「卓上遊戯……というと二千年前の召喚戦争の元となった遊戯ではないか」
「そうじゃ。様々なモンスターを札に封印しハンシで集め、召喚し戦わせる。召喚戦争の大本になったのが卓上遊戯の一種だ。そう、交換手札ぢゃ!」
くわっと目を見開き、主神が吼える。
「そのシステムを利用して、ハンシを集め、この世界へ再帰還を果たした、と?」
「儂はそう予測しておる。基本我々がハンシを集める手段は、ルートボックスじゃ。ルートボックスに干渉するなら、すぐ分かる」
「裏技抜け道、邪神は大好きだからな。確かに主神が見落としても責められまい。我が兄ながら情けない……」
魔神も嘆息が抑えられない。
「そうじゃ。邪神――かつての欲望の神。最強の力を持ちながら、最も弱者に成りすまし、他人の作ったシステムに寄生し勢力を拡大する恐るべき神」
「我が作った法則もいつの間にか乗っ取られた。その最たるものが魔王のシステムの悪用だ」
魔神は人間の可能性の神。魔力もまた魔神の力。
魔物たちの可能性を作り上げた魔王というシステムを、利用されたことがあるのだ。
「きゃつめは自らで事を成そうとしないからな。人を動かし、陰謀を蜘蛛の糸のごとく張り巡らせ、勢力を拡大していく。仕様の穴をつき、絶大な力を手に入れておる」
「あの時ばかりは我もおぬしらに力を貸した。何せ自分以外すべての神を滅ぼす予定だったのだからな」
「殺すにも殺せぬほどの絶大な力よ。あれを封じる権限をもって儂もまた主神を名乗っているのだから」
主神もまた苦悩していた。邪神の復活など考えたくもない事態だ。
鍛冶の神が呟いた。
「まずいな。実にまずい。あれらは武器があまり効かん。なんでもかんでも召喚しちまうからな」
「かといって二千年前ほどの魔力を維持するのは難しい。あれはまさにハンシのバブル。もうすでに弾けた」
戦の神が指摘する。
「卓上遊戯は召喚戦争だけではない。賽を振って冒険者の行く末を決める、運命操作系の力もある」
「賽だけで運命を決めるだと! どれほど結果を省略したらそんなことができるのだ!」
「迷宮支配主が魔法帝国時代にいたじゃろ。それの起源らしい」
神々は卓上遊戯の恐ろしさに顔を見合わせた。
「どの法則を利用するかまだ不明なのですよね? おそらくは召喚戦争の法則かと。予想されるは主神が仰った、【交換手札】――【古代召喚】あたりですかね」
「じゃろうな。あのままの召喚モンスターがきたら、この世界はあっという間に蹂躙されるじゃろうが。冒険者に対抗できるかは……」
「かなり厳ししそうですね」
自然の女神が言う。
「あの時代の直接攻撃魔法は、現在の精霊魔法システムに取り組んであります。かなり衰退はしましたが……」
「精霊魔法の使い手は減った。確かに苦戦しそうだ。古代魔法は【古代召喚】で召喚される魔物に対しては効力が落ちる」
「そもそも魔力の源たる我が封印されているからな」
「お前の権能だだ漏れじゃん」
「そうか? 学問化しすぎて、使い手が減ったのもある」
魔神は魔力の源であり、モンスターの神でもある。モンスターとは可能性の権限でもあるのだ。
「元々召喚戦争の【交換手札】が、ルートボックスのオリジナルでもある。苦戦は必至だ」
「ルートボックスのアイテムで対抗は難しいですよね。ルートボックスに召喚獣を入れたらどれほど楽なことか」
しかし、その道は二千年前に閉ざされている。
「冒険者が【古代召喚】の召喚獣を使うことはできない。そもそもMPしか持っていない。【古代召喚】は様々な精霊そのものの魔力を使うからな」
「炎の魔力や闇の魔力そのものなど、使わせんわい。精霊魔法もMPリソースにしたのは、単純化が目的じゃからな」
「召喚戦争の知識を持つ祖霊がいるなら、あるいは精霊魔法で発動し、対抗できるやもしれん」
魔神が考え付く手段などそれぐらいしかなかった。
「そんな祖霊が……今どれほどいるやら」
自然の神がつぶやいた、
「祈るしかない。我らもまた祖霊と同じく、直接手出しはできぬのだ」
主神が言った。この話の解決策は見いだせそうになかった。
ノッチ端末であるのはいいんだけど、アスペクト比18;9は結局画面が小さくなっちゃって。
選択肢なくなってきちゃう。黒帯やスーパーゲームボーイとかアプリ側の苦労が忍ばれます。
「最近の端末高杉」
「ノッチよりモノラルスピーカーやイヤホンジャック無しが嫌だ」
「続きが読みたい」
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