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定点狩りとハムスターマラソン

 森を駆ける三人。

 アーニーが先頭だった。


「もう…… 今日だけで12回目ぐらい?」

 エルゼが呟く。


「エルゼのおかげでな!」

 目的地に着いた。

 

 ウリカはすぐさまアーニーへ支援魔法を掛ける。


 もう何度目になるだろう。森のちょっとした広場。ここではジャック君が大量に沸くのだ。


 そこでアーニーは動かず、ひたすら魔法の矢と魔法の槍を飛ばして乱獲する。


 まず場所が大事だ。

 湧きポイントは大量に湧くだけでは無く、湧き速度も大事だ。

 その見極めが効率を左右する。


 次にスキルの使い方。

 魔法は詠唱に必要な時間と、再使用時間がくるまでの時間、いわゆるディレイに分かれる。

 スキルの場合は発動時間と再使用時間。このコンマの時間の見極めが実力差につながる。


 魔法の矢のディレイ中に魔法の槍を撃ち、交互に使うことで時間を短縮しているのだ。 

 魔法の矢自体、詠唱もディレイも極めて少ない呪文ではあるのだが、魔法の槍を挟むのは効率を追求した結果だ。


「こんな戦い方ありなの?」

「アーニーさんですから!」

 

 ウリカもアーニーへMP提供に忙しい。

 それでも少しでも多くのかぼちゃを回収する。


 転がり出たかぼちゃはエルゼが回収していく。


「これなら確かに私でも十分役立てますね」

 呆れながら言った。

 こんな勢いで狩り続けたら何往復することになるやら、と。


「エルゼがきてくれて助かりました。私たち二人だと本当にすぐにいっぱいで」

 ウリカもエルゼに感謝していた。


 そうしている間にもぽこぽこ沸いてくるジャック君たち。

 ウリカは座ってMPを回復している。


 もぐらたたきのように現れるジャック君たちを風船のように破裂させ、アーニーたちは狩り続けた。

 アーニーは一切動かない。せわしなく周囲を索敵し、次々に敵を破裂させていった。


「これぞ! 祖霊より授かった定点狩り!」

 動かず、湧きを待ち、攻撃に専念する狩りだ。


「……アーニーさんの祖霊ってひょっとしなくても効率厨なんですよね……」

 顔に縦線が入りながら、ウリカが呟いた。


 効率厨も祖霊世界のスラングである。

 行動の最適解を追い求め、動作の無駄を嫌い、時間単位における費用対効果を追求する祖霊のことを指す。


「アーニー様。かぼちゃが限界です」

 巨大なバックパックにかぼちゃいっぱい詰め込んでいる。二つはアーニーとウリカの足下に置かれ、エルゼは最後の袋にたくさんのかぼちゃを詰め込んだ。


「よし戻るぞ。演奏頼む」

「はい」

 三人は再び町に向かって走り出す。


「睡眠時間や食事の必要な時間まで削るわけにはいかない以上、時間に対する費用対効果は大事なんだ」

「どういうことです?」

「狩りにでた時間に対してどれだけカボチャを得るかってこと!」


 これでもう、12回目の帰還であった。


「あ、あなたたち、限度ありますからね」

 引きつった顔で冒険者組合の受付嬢が呟く。


「かぼちゃのカウントはしておいてくれ」

「ちょっとは待ちなさい」

「ごめん! かぼちゃが呼んでいる!」

「呼んでねー!」

 受付嬢がキれた。


「んじゃもういっちょ行ってくる!」

「え、ちょっと待ちなさい。待てったら!」

 制止も聞かず、アーニーたちはまた町の外に走り出す。


「イベント最中のランナーズ・ハイね」

「限度があるんだけど」

 ひそひそと受付嬢同士が会話する。ランナーズ・ハイはもちろんスラングだ。


 土煙差あげながら、三人は姿を消した。


「なんだ、あいつら……」

「アーニーさんたちだろ? 三人でこの量って尋常じゃないぜ」

 組合に積まれたかぼちゃの山。アーニーたちの仕業だ。

 裏庭にも大量のかぼちゃ。置き場がない。受付が冒険者組合なので、預かるしかないのだ。


「あれだろ、聞いたことあるぜ。祖霊世界で言う、ハムスターマラソンだろ」

「なによそれ」

 男女の冒険者が、組合の片隅に山積みされたかぼちゃをみながら会話している。


「小さな齧歯類用のおもちゃにホイールってのがあってだな。それを延々回し続けるんだ。齧歯類は頭が悪いから何も考えず、地面が動いていると思って……」

「罰ゲーム?」

「ハムスター可愛いんだけどな」

「でもこの量って、ノウシシュウ……」

「しっ! それは禁句だ」

 男が遮った。それもまたスラングだ。


 彼らもイベントをやっているが、あくまで冒険のついでだ。専念することはない。

 ルートボックスは美味しいが、それだけでは食べていけないのだ。

 

 受付嬢たちは非番の者までかり出された。

 朝から必死にかぼちゃを集計している。


 ようやく数え終わったそのときだった。

 受付嬢は卒倒しそうになった。

 また大量にかぼちゃを抱えたアーニーたちの姿が遠目に見えたのだ。


「今から農業組合に卸に行くから。もう本当無理。置き場ない。手押し車の手配を!」


 奥からギルドマスターも応援に駆けつける。

 かぼちゃ処理を巡った戦争が今始まろうとしていた。

ランナーズ・ハイは怖いですよね。ええ、もう時間効率が気になって。

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