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施設作成・高炉と精錬炉

「アーニーさん、毎日帰りが遅いです~」

 夕暮れに帰宅すると、ウリカに泣かれた。


「う、ごめん」

 自覚はある。


「遊んでないのはわかってます。町にいないので。でも、もう少し早く、ね」

「ああ」

「それか私も連れてってください」

「ウリカといっしょに冒険するための下準備なんだよ」

「本当に?」

「本当だとも!」

 これは嘘ではない。

 多数ある迷宮の精査で、毎日アーニーは森林を駆けずり回っている。


「明日ドワーフたちと会議のため酒場集合なんだが」

「ただの飲みじゃないですか!」

「俺があまり酒が好きじゃないの知ってるだろ?」

「それはそうですけど」

「ウリカが来てくれてもいいんだけど、死ぬほどつまらないだろうな、って。髭のおっさんだらけだし酒場に若い子連れてくの、俺がやだし」

 冒険者組合と併設の酒場ではない。冒険者組合の併設酒場はどちらかというと、待合や打ち合わせ、休憩所の意味合いが強い。

 待ち合わせの酒場は一般施設だ。一般人もいれば酔っ払いもいる。 


「行きます!」

「やはりそう言うか……」

「人間のおっさんなら変なちょっかいだされるかもしれませんが、ドワーフですからね」

「ドワーフも絶対とは言えないぞ」

 とはいえ、ウリカお嬢様に手を出すという暴挙を行う心配はかなり少ない。ドワーフはとくに。


「それに、ずっと家でお留守番のほうが、辛いです。わりとまじで」

 声に力が入る。


「そうだよなあ」

「私のことは気にせずに。酒場のおじさんも私のことは知っているので大丈夫ですって」

「わかった。一緒にいこう!」

「わーい!」

 飛び跳ねて喜んだ。


 もうちょっと一緒にいよう。そう思うアーニーだった。


「こっちじゃこっち!」

 酒場に着いたら、ドワーフ兄弟たちが陣取っていた。


 酒場にはドワーフやエルフ、人間たちがそれぞれ飲んでいる。


「お嬢もか! 安心しなよ、アーニー殿は浮気なんぞしとらせん」

「エルフっ子が多いから心配なんですよー」

 美形が多いエルフが多いので、ウリカの心配もあながち的外れではない。


「エルフじゃと! はん! それなら間違いなく儂たちと一緒にいるほうが長いな。うん。すまない、お嬢。おぬしの婿殿が凄すぎるんじゃ」

「自慢の婿です」

「まだ早いっての」

「じゃああと少しだの」

「えへへー」

 外堀が完全に埋まっていることを実感する。


「さて。アーニー殿。かねてよりの相談とは。ここまで色々手伝ってもらったんじゃ。遠慮なく言って欲しい。儂らは決して恩知らずではないのだ」

「酒飲みだけどな。――うん、材木の運搬まで手伝ってもらって、神降臨じゃよ」

「筏流し凄かったな!」

「何それアーニーさん、私聞いてない」

 ドワーフのグラオが説明する。


  大きな丸太を数本使って、一気に川下りの要領で運ぶのだ。彼らは泳げないので一本一本皆で町まで運んでいた。

 それを数回。二ヶ月の仕事が数日で終わってしまった。


「木を乾かしたりしないといけないから、凄いってわけでもないんだが」

「いやいや、凄すぎじゃろ。その間、別の仕事ができるわけじゃ」

「筏流し楽しかったしな!」

「あれだけで客呼べそうなぐらいぐらい楽しいよな。川の激流さえも一気に川下り!」

 盛り上がるドワーフたち。

 そして生まれる暗黒の雰囲気。


 なにそれ超楽しそう。なのに私お留守番?


 ウリカが大きく見開いた死んだ瞳で、裏切られたという顔でこっちをみていた。


「ウリカ。今度一緒にやろう」

 耐えきれず、アーニーが切り出した。


「明日?」

 かすれた声で首をかしげてくる。

 すぐに遊びたいらしい。


「ドワーフたちの都合もあるから、明日は…… 悪かった。その目はやめて」

「明日は無理でも明後日やりましょう。ウリカお嬢」

 木こりのグリューンが笑いながら言った。


「はい!  明後日ですね! お弁当作りますからね! 雨天決行で!」

「雨天は中……。だからその目はやめて}


(グリューン、すまん)

(いや、こっちこそすまぬ。もうワンセット追加はこっちも助かるのでな)

 アイコンタクトはばっちりだ。


「アーニー殿もお嬢にかかっては形無しじゃな」

 長兄のブラオも入る。


「居候だからな。基本俺の立場は」

「惚れた弱みではないのか」

「否定はしない」

「惚れた弱み…… ふふふ……」

 機嫌が良くなった。


(ナイスフォロー!)

(任せよ!)


「ところで相談というのはなんじゃ」

「ああ、手間と場所がかかる話でな。断ってもらってもかまわないんだが……」

「いうてみい」

「川沿いに大きな施設を作って欲しい。一つは、鍛冶用だな。炉が欲しい」

「儂の窯みたことあるじゃろ。あれでは無理なのか」

「火力が足りない」

「……何を作るんじゃ。鋼を鍛えるのに、余計な火力はいらんぞ」

「ミスリル合金だ」

 一同絶句した。


「ミスリルじゃと。あれは秘中の秘とも言われている。あれを作れるのは王国と帝国の一部の技術者、そしてドワーフ王国の王族ぐらいではないか」

「あまり伝わってないが、ゼロじゃない」

「何をのんきに。儂とてドワーフ鍛冶のはしくれじゃ。それが本当なら全財産投げ出しても挑戦するわい」

「それは大げさだ。酒が飲めなくなる。実験の一環だな」

「兄さん。話が大きすぎるよ、これ絶対」

「いやいや、手持ちにミスリル余っているから。ルートボックスの余りだから」

 アーニーはミスリルの塊を取り出した。

 

 ルートボックスからもミスリルの塊はでる。大当たりで合金が出るときもあり、高値で捌ける。


「まず一つ。ミスリルは真の銀というが、銀とはまったく違う性質を持つ。二つ目はミスリルは硬くない。ミスリル合金が硬いんだ。最後に知っていると思うがミスリルは魔法付与との相性がいい」

「なんで鍛冶師にしか伝わってない秘伝を知っているんじゃ……」

「そのまま使うには柔らかすぎる。合金にして使えるようにする」

「できるのか?」

「鋼を鍛えるのと最適な温度が違うんだ。鍛冶では禁じ手、邪法とされる白熱の温度まであげないとミスリル合金は鍛えることはできない。うーん、ガラス細工の温度と同じぐらいか?」

「火力が足りないというのはそのためということか!」

「そういうこと。高炉を作りたい。送風には水車を使う。ここなら地理的にもぴったりだ」

 ガラス細工の温度は千度を超える大火力が必要だ。金属加工は八百度が適温である。形状を変形させたり、補修ならば三百度あれば可能だ。


 アーニーが作ろうとしているのは木炭高炉だ。


「ああ。融点が高い…… 時間との勝負になる。そこはブラオの勘に任せるよ」

「その方式だと、銑鉄(せんてつ)も容易になる、か」

 銑鉄は鋼鉄の前段階とも言える状態だ。


「精錬炉も必要じゃな」

 銑鉄を再度加熱し、鋼鉄にする炉のことだ。


「理解が早い。その通りだ」

「ミスリルに話を戻そう。その下になる合金にするには何を混ぜる?」

 合金というぐらいだ。他に材料が必要だ。


「ミスリルの原石にギブス石やふじ石を少量混ぜる。ミスリル合金100キロ作るのに1トンぐらいいる」

「ミスリルはただでさえ加工できるものは少ない。足りなければすぐ買い集めよう。炭焼き職人はうちの一族かき集めるしかないな」

 炭焼き職人は木炭を作る職人である。高い火力を出すには、大量の木炭が必要だ。


「乗り気すぎてで怖いんだが…… 俺は本職ではないし、失敗するかもだぞ?」

「なあに。実験じゃ実験。のう兄弟たち。失敗しても得るものはあるじゃろうし」

「そう。実験実験」

 兄弟たちが答えるが声が震えている。


「アーニー殿。何故そんなことを教えてくれる? もしそれが本当だったら、儂らじゃなくても金も人も集まるだろう」

「ん? なにって。俺とウリカがいる町で。見ず知らずの人間に教えるぐらいなら仲間に教えたいじゃないか」

 ウリカの口下に笑みが生まれる。


「仲間……か。そう言ってくれるとは嬉しいのう。任せよ。成功しても失敗しても気にせず、気楽にやってみせようぞ」

「気楽にできるかなあ」

 一番気の弱そうなグラオが呟く。


「なに、成功率は高くないとみる。その割に手間と金と場所も取る。だからこそ、アーニー殿のお願い、なんじゃ」

 アーニーが執拗に実験、というのもわかるのだ。期待させてしまう内容ではある。


「そういってくれると助かる」

「さて、早速窯の具体案を聞かせてくれ。明日から忙しくなるぞ。グリューン、筏流しと木材確保は頼んだ」

 こうしてミスリル加工業という新事業ははじまったのだ。


S35CとかS45CとかSUSとか。ミスリルって特性的にステンレスだよね、と思いながら書きました。難加工だけど。旧日本軍の耐錆鋼刀はステンレス刀ですし。すぐ折れるかな。日本のたたら製法の研修受けたことがあるんですが何一つ活かされていない。西洋と違いすぎる。やっぱりファンタジーに日本刀出したいな!

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