実はいろんなジャンヌに爆死した
無事夕食会を終えて、二人は新居で一夜を過ごした。
一見質素そうに見えるがウリカが快適に過ごせるように考え尽くされた、それはもう快適な住居だった。
二人は朝食を終え、話し合っていた。
「無事、俺たちも拠点を持つことができた。みんなウリカ持ちだけど」
「こんな僻地にきていただいたのですから場所ぐらい当然です」
「助かるよ。――ではやってみるか」
「はい。やりましょう」
二人は顔を見合わせ、二人は床の上に魔方陣を取り出した。
久しぶりの、ルートボックスだった。
ちょうどこの町についた日にルートボックスの更新があったようだ。
神々も思考錯誤しているのか、期間限定ルートボックスを定期的に行っている。
今回は常時在住型SSR【使徒】と、魔力抵抗を跳ね上げるSRの【魔術文様】が景品だ。
先にウリカから報告した。
「私は30連、と。目当てのSRはでませんでしたが、この魔術文様は色々使えそうです」
「お、なかなかいいな。SSRは要らないから、良いSRが欲しいな」
アーニーが回し始めた。
20連でポーションと、武器や防具の強化アイテムだらけ。
「ん、今回も相性なかなか悪いな」
「前回最初の10連で希少SSR引いていますからね……」
「ウリカにだけは言われたくないけどな!」
ウリカはSSR一枚神引きだ。
最後の10連。
5回目で、七色に輝く。
「これって。まさか」
「ん。こんなときに限ってな……」
SSR演出が発生したにもかかわらず、何もでない。
嫌な予感に二人は冷や汗を流す。
6回目から最後まではとくに演出はなかった。
床に魔方陣が発生し、室内を埋め尽くす目映い光。
虹色のエフェクトが発生し、きらきらと光る淡い光から、やがて一人の女性が姿を表した。
『アーニー、そいつはダメだ! ぎゃー』
何故か祖霊の悲鳴が届く。
ウリカと顔を見合わせた。
甲冑に身を固めた、金髪の美しい女性。腰には長剣を帯びている。
虹色に輝く後光を背負い、不自然なポーズを決めながら、宣言した。
「私はジャンヌ・ダルク! 【使徒】として貴方の剣となりましょう!」
アーニーとウリカは再度、顔を見合わせた。
「ジャンヌさん?」
「はい!」
「天界に帰ってもらえます?」
「なんで?!」
「いや、要らな――ここでは貴女の力を発揮できないですから」
「要らない?! 要らないって言いましたよね!」
「僕たちなら大丈夫ですから、天に召されて」
「召されて?! 死ねということ? だからなんで!」
申し訳なさそうに平謝りで謝罪するアーニー。思わず僕と口走っている。
「SSRですよ? 私。強いですよ!」
「僕たち二人SSRなんですよ。貴女の枠なくて」
「ちょっとまってください。なんでSSRが二人もいるんですか。おかしいですよね」
「まあそれはこっちの事情なので。はい、では天に」
「帰れませんよ! 召されたくありません!」
「とくに僕の祖霊と貴女、かなり相性悪いんですよ」
「じゃあ祖霊と話つけますよ。【使徒】ですからそれぐらい可能です」
ジャンヌは何かを念じ始めた。
アーニーががくんと首を倒れる。
「祖霊召喚とか初めてみた」
ウリカがぼそっという。
アーニーの体が輝いた。召喚されたのだろう。
「あなたがこの人の祖霊ね! 私に何の不満があるの?」
『鰊の日の予知にはまだはやいだろ』
「え?」
『こっちの世界の偉人がモデルだろ。生前ダルクって名乗ってないだろ。ジャネットって名乗れよ。それかジャンヌ・ラ・ピュセルだろ』
「容赦ないツッコミですね」
『安易すぎるんだよ、神々は。ジャンヌモチーフどれだけだよ』
「良い名前だと思いませんか?」
『良い名前だよ! 当時かの国の数割の女性がジャンヌって名前ぐらい良い名前だよ!』
「なんであなた、そんなにジャンヌに詳しいんですか。怖い」
『お前もルーアンの塔から飛び降りろ』
「嫌ですよ!」
『実はいろんなジャンヌに爆死した』
「八つ当たりですよね?!」
『きっと水着になったり、新しい姿や闇落ちしたり反転したりしたりいろんなバリエーションがでるんだろ!』
「なんですかそれは。反転とか怖すぎ」
『内側からこうめりめりと反転するんだ……』
「ホラーですよ。SAN値ピンチですよ」
『オーガ○ト・ダー○スは認めない』
「話逸れすぎです」
『おっと時間オーバーです。さようなら』
「おい、ちょっとまてや」
一方的に話を切り上げた祖霊に対し、ジャンヌは口調が壊れてしまっていた。
「逃げやがった」
「もういいいいかな。こんな感じで」
ジャンヌに対して配慮がなくなったアーニー。 疲れが滲み出ていた。
無表情かつ精彩が欠ける瞳で、ジャンヌがアーニーのほうに向いた。
「SSR欲しくないのにルートボックス回さないで」
「SRが欲しい場合もあるんだ!」
アーニーが激しく抗議する。
ウリカがそっと耳打ちし、小袋を渡す。
アーニーはジャンヌの首根っこあたりの鎧を掴んで、持ち上げた。
「何するんですか!」
「SSR冒険者なら引く手数多だ」
玄関口まで運んで放り出す。金貨は手渡しする。
「金貨10枚だ。しばらくは暮らしていける。神界に帰るなり冒険者をやるなり。君の人生に幸ありますように」
「え? 本気で追い出すの?」
「さようなら」
扉を閉めた。
ウリカがお茶を入れてくれていた。
「お疲れ様」
「凄く疲れた……」
「わかります」
こんこんと玄関がノックされる。
ため息をつきながらアーニーは扉に向かった。開けはしない。
「はい」
「ジャンヌです…… もう一度お話を聞いてもらえませんでしょうか」
「お断りします」
「なんで?! 私役立ちますよ。尽くしますよ。モンスターのヘ敵意稼げますよ」
「敵意は稼いでいるな、主に俺の祖霊の」
「あの祖霊はおかしいのです。なんでもしますよ! えっちぃのはだめですが、膝枕ぐらいなら」
「膝枕してもらう相手は一人で十分。いや、してもらったことはないけど」
小声で聞こえてくる言葉。
しますから。今日しましょう。絶対します。
そのささやきは無視することにした。
しばらく無言が続いた。
そしてすすり泣き。
嗚咽が漏れ聞こえてくる。
マジ泣きである。
お手上げをして、ウリカを見る。ウリカも呆れ顔でお手上げした。
仕方ないので扉を置いた。
地面に座り込んで子犬のように泣きじゃくってるジャンヌがいた。
「入れよ」
顔面に喜色の色を浮かべ立ち上がった。
ジャンヌは立ち上がって、ポーズを決める。
再び七色のエフェクトを放ちながら。
「私はジャンヌ・ダルク! 【使徒】として貴方の剣となりましょう! CV……」
アーニーは無言で扉を閉めた。
「あぁ! 待って! ごめんなさい! 家にいれてぇ~」
ジャンヌの絶叫が響いた。