最終話 SSR確定10連の迷宮
悪魔。
異界より来る邪神の徒とも、悪意に飲まれた精霊ともいわれている。
上位の迷宮にしか現れず、この種族がでる迷宮を攻略できるのは、ごく一部だ。
「ジャンヌ！」
「はいよ！」
ジャンヌが悪魔の攻撃を受け止める。
アーニーはすかさず、龍牙剣を持って悪魔を切り伏せる。
「アーニー！」
エルゼはローブに着替えていた。精霊使いとして、本格的に装いを変えたのだ。
鋭く警告し、精霊を駆使し風の結界を張る。
そしてその風に巻き込まれた悪魔は切り刻まれる。攻防一体の魔法だ。
「エルゼ。MP回復！」
ウリカがエルゼのMPをすかさず回復する。
「いけるな」
アーニーが皆の成長を確信した。
今いる場所こそ、かつてウリカと約束し、名も無き町にきた時点では攻略不可能と判断した、SSR確定10連の迷宮――魔神の迷宮に彼らはやってきた。
アーニーは龍牙剣に闇の飛龍から作られたダークワイバーンレザー。ウリカたちが作ってくれた真銀の外套。戦闘力は比較にならない程あがっている。
ジャンヌも今やこの世界に溶け込んでいる。聖騎士として悪魔討伐に関してはスペシャリストといってよい。
ウリカは魔力治癒士として腕を上げた。
詩人だったエルゼにいたっては補助魔法を中心に攻撃魔法、回復魔法を全て網羅している、レアクラス。
ウリカとエルゼもダークワイバーンの皮膜を使ったローブを着ている。防御力も格段に上がっていた。
「世界の終わりに関して、唯一良かった点はソウルランク制限がなくなったことですかね」
ジャンヌが皮肉げに笑う。
神々が冒険者間のバランスを取る必要がなくなり、冒険者制限がなくなったことだ。保障として所得したルートボックスのアイテムの数々は、エリクサーに交換された。
この事実は今後、神々が冒険者に関与できなくなったこと。
すでに多くの祖霊がこの世界との接続を絶った。未来のない世界に祖霊は定着しない。
冒険者たちはSSRやSR＋で固まり、上位メンバー、下位メンバーに分かれてしまう傾向が現れ始めた。
大手チームでいえば、一軍二軍の差は超えられない壁となった。
世界はより一層、弱肉強食となったのだ。
「これからはずっと一緒に冒険できるね、ジャンヌ」
「ええ。ウリカ様」
「ずっと一緒です」
ウリカの笑顔に、エルゼがぎゅっとウリカの手を握る。
エルゼにも笑顔を向けるウリカ。手を握り返す。
「魔神の迷宮を攻略するのは今のうち。世界の終わりがくる前にな」
そのときだった。
『おう。今のうちだ。全力で行け！』
「祖霊！ ずいぶん久しぶりだな！」
『SSR確定10連だろ？ 俺がいなくちゃはじまらないさ！』
「ふ、そうだな」
いつもの調子の祖霊に思わず笑みが漏れた。
「祖霊様。もうすでにこの世界から離れたかと……良かった」
『ウリカが悪墜ちしないように見守っておかないとな！ 世界の終わりを迎えようが、俺たちは一緒だ』
「しませんったら！ はい！ ずっと一緒ですよ、祖霊様も！」
彼らは迷宮の最深部に進む。
『戦略は？ アーニー』
「エルゼの力を中心に出来るだけスキルを温存。迷宮のボスに全力でぶっ放す、だろ？」
『オーケー。それでいい。ウリカのMPをいかに温存できるか、だ』
「頼りにされるのは嬉しいですね」
『魔力治癒士は必須だ。いなければ挑戦権もない。アーニーもお前はずっと俺の守護対象だ』
「ありがとうございます。本当に」
『攻撃魔法支援魔法の幅が凄いな。エルゼは』
「祖霊様のおかげです。ずっと見守ってくださいね」
『声を届けることができなくなっても、お前たちを忘れやしないさ』
「そういうな。また大暴れしよう、一緒に」
アーニーが祖霊に、胸の内を告げた。姿を見たことはないけれど、いつも一緒にいてくれたおかしな先祖霊は、本当に彼の悪ノリに付き合ってくれる家族。
兄のような存在だったのだ。
『おう！』
「私になんかないんですか！ がんばってますよ！」
『ジャンヌは守護権利を俺に属することに成功した。でも本当に良かったのか？ 天界に戻ることが出来なくなった』
「戻ってもやることないですし。皆と一緒に生きますよ。種族も使徒から人間になってましたし」
『ああ。こいつらを頼んだぞ、乙女ことジャンヌよ』
「あ、あなたがそれをいいますか。お任せあれ！ 常に祖霊の御心と共に――」
ジャンヌという名前に一家言ある、祖霊の思わぬ言葉に皆が笑う。
祖霊とジャンヌの衝突も今は昔。お互い大切な存在だと思っている。
『そろそろ迷宮のラスボスだ。倒せるさ、お前たちなら。くれぐれもカスいSSRは引くなよ！ 引くのは――とびっきりのSSRだ』
「わかってるよ！ 俺にとってのウリカだ」
ウリカの頬が紅潮する。皆がそれをみて微笑んだ。
アーニーが扉を手にかけた。
「さあ、ガチャの時間だ。さっさと倒して」
「10連いきますか！」
アーニーとウリカがお互いの顔を見合わせ微笑む。
ウリカとの約束は、こうして果たされたのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
読者の皆様に心から御礼申しあげます。
初めて小説家になろう様を利用してみようと思い、公募や同人誌でしか活動していなかった自分が試行錯誤しながら書いたなろう掲載初作品です。
ゲーム業界に以前いたこともありゲームネタをどんどん盛り込もうと思い執筆しました。
色々書きたいことがあるのですが、今日か明日の活動報告で記載したいと思います。
アーニーもウリカもお気に入りです。とくにウリカは色々アナザー書きたいほど気に入ってます。
この世界はソシャゲを通じて現代日本と繋がっていましたが、確実に異世界です。異世界名がないのは、その世界にとって世界に名前などないからです。
そして理不尽なゲームの仕様を押しつけられつつも、不思議なゲーム仕様によって助けられ反映され、また日本風のモラルも導入されていました。
これからはそんな介入はありません。だからとても危険な世界になります。そこは容赦なく残酷な世界でしょう。
これ以上書く場合は、残酷な展開、ノクタ行きにもなりかねません。
ですから未来に希望が繋がる、世界が終わりきる前に終了を決意しました。
回収しきれなかった伏線の魔王システムもあり、続編の構想もありますが上記の理由によりノクターンになるかもしれませんね。
それでは改めて読者の皆様。
完結にまでお付き合いいただき、ありがとうございました！
