世界が終わっても君と
アーニーがウリカを連れて森に行くという。
「エルゼ。戻ってきたらたっぷり甘やかせてやるから、留守番頼んだ」
「……誰ですか、あなたは」
いつもではありえないアーニーの言葉に、じっと目を凝らして疑いのまなざしを向けるエルゼ。
「ひっどーい、エルゼ」
ウリカが笑いを堪えきれなかった。
「いえ、今まで一度もそんなこと言われたことはないもので」
「エルゼはじじぃとずっと一緒だからな。取られやしないか、嫉妬してるんだよ」
「……やっぱり誰ですか、あなたは」
呆然と呟いた。
アーニーもくすっと笑った。
「何かに取り憑かれている様子もないですね」
精霊を使い確認するエルゼ。
「本気で魔法を使うなよ。冗談でもないぞ」
「どういう風の吹き回しでしょうか。変なフラグなようで正直怖いんですが」
「大丈夫だって! アーニーさんはいつも通り!」
「ウリカもですよ? 最近二人して私に妙に優しいし。二人は前以上に仲いいし。――絶対私を置いていなくなったりしないでくださいね?」
二人は微笑んでいる。
「返事してください!」
さすがに危機感を感じた。二人がふっと消えていなくなるような――そんな不安。
「俺たちの家はここだよ。三人ともね」
「ええ」
「だから不安になるような言い回しはやめてください。泣きますよ」
「泣いてるエルゼみたいなー」
「やめて。お願いだから。もう私を一人にしないで……」
「ごめんね。やりすぎたかな」
エルゼをそっと抱きしめるウリカ。
「何が起きるんです? アーニーもウリカも最近慌ただしく、何か目的があるようのに私だけ教えてもらえない。不安で仕方ないんです」
「大丈夫。私の愛するエルゼ。今日も夜までには帰るから」
「必ず帰ってくださいね」
「もちろん。大げさだなあ、エルゼは」
「おう。日が暮れるまでには帰るよ。気分転換にちょっと遊んでくるだけだ」
アーニーがウリカを連れていって、出て行った。
窓で二人が歩いて行くのが見える。
「アーニーがウリカの手を引いて町中を? 何が始まるんです? 本当に教えてくださいよ……」
楽しげな二人をみて、不安に襲われるエルゼがいた。
「あんまりエルゼを怖がらせたら、可哀想ですよアーニーさん」
「前フリは必要だからなあ」
「事件が起きることは確定ではないですけどね。対抗手段もあるみたいですし」
「まあね。SSR確定10連の迷宮攻略。出来るか。いや、やるんだ。祖霊がいる今しかチャンスがない」
二人は川の上流にきていた。
用意されていたのは筏。
日暮れまでには街の近くまで付くだろう。
「久しぶりですね!」
「ああ」
アーニーは水の精霊に頼んで筏の操作はしなかった。
ウリカと背を合わせ、くつろいでいる。
容赦ない水しぶきには二人で声をあげ笑い合う。ずぶ濡れだ。。
「ふふ。こんな甘々な時間過ごせるなら世界の終わりも悪くないです」
「いや、神々はもっと頑張れよ、運営を……」
二人は他愛のない話をとりとめもなく続け、そして無言になった。
「ねえ。アーニーさん」
「ん?」
「呼んでみただけ」
「劇みたいなことを」
アーニーが後ろを振り返り優しく微笑んだ。普段見せない柔らかい表情だ。
「えい!」
その振り返ったアーニーをウリカは捕まえ、自分の胸元で頭を抱きしめた。
アーニーは顔を真っ赤にして硬直する。
「う、ウリカさん?」
「最近やられっぱなしですから。たまにはね」
「……ずっとこうしていたい」
「はい」
ウリカは弾んだ声で応えた。
「……最近アーニーさんは頑張りすぎてますから。寝ずにポーション飲んでまで。見ている私のほうが辛いんですよ?」
「ごめん」
「私のこと愛しすぎですよー」
「それは否定しない」
「私もなんですね、これがまた!」
「負けていられないな」
「私こそ負けません」
ぎゅーとさらに抱きしめる。
「降参。幸せで溶けそう」
「ダメです。私が幸せで溶けきるまで」
「じゃあこうだ」
アーニーがすかさず体勢を入れ替え、胸元にウリカを抱き寄せる。さきほどとは反対の体勢だ。
「降参です」
そういいながら、幸せそうそうにお姫様抱っこされるウリカだ。手をアーニーの首にかけ、そっと状態を起こしキスをする。
「世界の終わっても、ウリカとずっと一緒だ」
「はい」
迫り来る世界の終わり。
彼らを襲う運命を前に負けるつもりなどなかった。
「明日、ウリカと約束を果たそう」
「約束? 私はたくさんもらいましたよ?」
「それはね」
耳元でアーニーが囁いた。
ウリカははっと息を飲み、心からの笑顔でアーニーを強く抱きしめたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
思えばこの小説で初めて小説家になろう様で投稿を開始しました。
恥ずかしながら勝手もわからず、試行錯誤でした。それは今もです。
明日、最終話を更新して完結させたいと思います。
最後までお付き合いしてくださると嬉しいです!




