閑話 神様たちの使徒創造
天界会議が開催された。
再び連行される魔神。
「ここまで頻繁に呼び出すなら我を解放してもいいのでは」
「それはそれ！ これはこれ！ じゃ！」
魔神の訴えは即座に却下される。
魔神はため息をついた。
「こたびの会議の議題は？」
「今回は【使徒】実装による、使徒創造会議じゃ」
「この前の話のあとに、ひな形渡したはず」
「どうもうまくいかんのじゃ……美の女神よ」
「はい。私の出番ですね。外見を創造するにしても私一人だと感性が似たようなものになってしまうのです」
「判子絵になるのか」
その瞬間、美の女神の左拳が魔神に食い込む。
くの字になって悶絶した。
神々の世界では言ってはならないこともある。
「さすが美の……かつて戦の神を一撃で倒しただけはある」
鍛冶の神が恐怖に引きつりつつも美の女神を讃えた。
「い、戦の神を交代したほうがいいんじゃ……」
悶えながらもツッコミは忘れない魔神。
「あらやだ、私ったら…… 私一人じゃ限界がありますよ、ってことです」
「なんぞいい案はないか」
「うーむ。正直祖霊たちに依頼するしかないと思うが……」
「祖霊に依頼？」
「うむ。祖霊たちのなかには極めて優秀な創造の才能を持っているものがおる。相場は水物だが、ハンシ5枚前後か…… 買い切り差分背景別途相談。ハンシが増減する」
「なんじゃその呪文は」
「わからなければいいよ、もう」
魔神がさじを投げた。
「投げやりじゃのう」
「幽閉されて拷問受けている身なんですけど？」
「天界に刃向かうから仕方なかろうて。それでも神は神だし。強いし」
魔神単体ではこのなかの誰よりも力があるのは間違いない。
「どこで祖霊を探すんじゃ」
「祖霊たちが創造物を投射する空間があるからそこで探すのが一般的だな。ただ、有名になるほど初見の仕事お断りもあるし、何より人柄がしれないのがまずい。信頼できる筋から見つけて広げていくのが鉄則よ」
【使徒】を創造する仕事において、鉄則なのは信頼関係だ。期日を守れなかったり、バックレたりする者もいる。ならばこそ横の繋がりで信頼できる祖霊を確保するのが重要なのだ。
「おぬしが何を言っているかわからん。――美の女神と戦のはわかってるみたいだが」
「あいつらに丸投げしとけ」
その手の話は美の女神tと戦の神がプロなのだ。戦の神は戦闘能力は高くないが事前の段取りなどのスペシャリスト――行程管理に長けている。
「暴走するからのう」
「あとはできるだけ【使徒】のバリエーションを増やすことだな。美少女だけではなく幼――幼き少女や、ショ――幼き少年など。イケメンや渋い中年も欠かせまいて」
「美少女と幼き少女の違いとはいったい……」
主神が真剣に考え込む。
「テンプレすぎないか。魔神の」
鍛冶の神が疑問を問う。
「需要があるからテンプレなのだよ。王道こそ。鍛冶の。例えば猫耳のおっさん使徒がいたら欲しいか?」
「少年なら欲しい！」
「黙りな。美の」
戦神が割って入る。
「金髪、白髪、青髪、赤髪、尊い。緑とピンクはいらねえ」
「おう。それ以上いったら戦争だぞ」
鍛冶の神と戦神がガンを飛ばしながら火花を散らす。
「神ですらこんな感じだ。王道テンプレはいかに大事かわかってもらえらはず」
二人を除いた一同は頷いた。
「声はどうするのですか？」
美の女神が割って入る。
「声天使を使えばいい」
「それしか！ ないですよね！」
我が意を得たりとばかりに大喜びする美の女神。
「わかっているではないか。美の女神。大御所なら数十枚のハンシ、だが費用対効果は悪い。なので今流行の声天使を男女問わずで選ぶのが良いな。訓練所出たてならハンシ1枚ちょいで雇えるがおすすめはしない。祖霊はメジャーな声天使に敏感だ」
「えっと私なら、さ――」
「黙りな、美の」
再び戦神が割って入る。
「次元移動費用別なので、複数の【使徒】に声を与えてもらう必要があるがな。そこらはプロだ。うまく行くだろうよ。伝承によれば一人で10人やら50人やら声を担当した天使もいるらしいしな」
「……レジェンドすぎひん？」
「主神、口調！」
威厳が失われつつある主神。
「そもそもの話だ。いくら有名な神祖霊や声天使使って【使徒】を作っても、肝心の世界の理がクソなら、祖霊は増えんよ」
「もっともだ。それらは鋭意我らが心血を注いでおる」
「そろそろ大型高位改変を告知したほうがいいのでは」
「……検討しておこう」
「つぶやきの空間担当天使もほら、もっとフレンドリーな。業務口調ではなく」
「おぬしみたいにフリーダムな天使がいたら即炎上だわい。――行きなさい」
魔神はまたずるずると引きずられていった。
今回の報酬は一週間だけ夕食のライ麦の黒パンを、柔らかい白パンに変更ということだ。
