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好みの超ど真ん中

 冬の厳しさもようやく薄れ、春の気配がする季節。

 冒険者たちも活動を再開する。


 迷宮に赴くもの。モンスター討伐に赴く者、様々だ。

 ウリカとエルゼは、二人で冒険者組合の酒場にいた。


 二人が談笑していると、声をかける者がいた。

 地元のもとはまず声を掛けない。この美少女二人がいかに特別な人物か知らない者はいないのだ。


 他の冒険者も不届き者の顔を確認したが、元に戻る。

 どうみても変な目的ではない。初老の男性だったからだ。


「お二人さん。旅の者だがお話いいかね」

「どうぞ。おじさん!」

「おじさんとは嬉しいこと言ってくれるね。じじぃでいいんだぞ」

「いえ。おじいさんには見えませんから」

 ウリカが元気よく答え、エルフも渋い顔を緩めた。


「ありがとう。お嬢さん。儂はアルフレッド、フレディと呼んでおくれ」

「はい。私はウリカです」

「私はエルゼです。同胞の方」


 二人は挨拶を交わす。失礼、といってアルはパイプを吹かし始めた。


「良い町だな、ここは。様々な種族がいて、文明と森が調和を為しておる」

「そういわれると嬉しいですね」

「ええ。誇りです」

 エルゼも、旅のエルフの言葉に頷いた。


「二人とも素直な良いお嬢さんだ。是非どちらかうちの孫の嫁にきて欲しいぐらいじゃ。孫はエルフではないがいい奴じゃぞ」

「ふふ。嬉しいことをいってくれますが、私たちには婚約者がいるのです」

「二人ともかい?! 実に残念じゃ。ところでエルゼ殿」

「はい。なんでしょう?」

「この町におばばがおると聞いておる。場所を教えてくれないか。古い知り合いでの」

「おばばに? はい。では私が案内しましょう」

「私も行くよ!」

「言葉に甘えるとしよう」

「おばばに会いにきたのですか?」

「そうじゃな。それと弟子が生まれたようで、その弟子とは初対面というところか」

「会ったことがないのに弟子ですか?」

「そうなるな。特殊な事案だったからおばばと話がしたいわけだ。その弟子のことを聞かないと」

「そうですね。おばばはこの町のエルフには詳しいです。お弟子さんがエルフなら、きっと助けになるでしょう」

 

 二人はエルフの居住区画に向かう。

 おばばと長がちょうど揃っていた。

 何か予感があったらしい。


「おばば、客人をお連れしました。あれ長まで」

「おばばにちょうど呼ばれてな。その方は?」

「旅人のフレディさんです。フレディさん。この町のエルフ族のおばばに、長のお二人です」

「久しいのビティ! 息災だったか?」

 おばばの本名を知っている者は少ない。長はかしこまった。

 その声を聞いたおばばは跪き、両手を握りしめ祈るような形を取り、涙を流し始めた。


「おう……おう…… これは【森の隠者】様…… こたびの生でまたお逢いできるとは夢にも思わなかったですじゃ……」


 ウリカとエルゼ、長も固まった。

 生きている伝説、そしてアーニーの育て親が目の前にいるのだ。


「おおげさだな、ビティは」

「何を仰る…… アルフレッド様はまっことお変わりなく…… 私はしわくちゃになってしまいました…… お恥ずかしい」

「歳を取って何が恥ずかしいものか。ほら、こうすると昔と何も変わらぬ」


 フレッドはおばばの手を取り、立ち上がらせた。

 おばばの顔が歓喜に満ちる。


「ありがとうございます…… これも、アーニー様とエルゼのおかげじゃ」

「何。不詳の息子を知っているのか」

「何を。この町を発展させているのはアーニー様ですぞ。我ら、隠者様の教えを受けたアーニー様に導かれております」

「アーニーこの町にいるの? まじで?」

 

 森の隠者、口調が軽い。


「はい。昨年より。彼がきてから全てが良い方向に向かっております」

「本当か~」

「本当ですとも! 私たちは彼がエルフだと思っております!」

 懐疑的な森の隠者に対し、長が割って入ってフォローする。

 エルゼを精霊使いまで導いたアーニーは、彼らのなかで完全にエルフとなっていた。


「そ、そうか? まあ、あいつの心の在り方はエルフだろうがなあ。しかしなあ」

 あまりの剣幕に、森の隠者が口ごもる。

 思わずエルゼの口の端がゆがむ。長と同席時に、森の隠者の言質は取った。もうエルフ確定だ。


「あの、森の隠者様!」

「畏まらなくていいぞ、ウリカ殿。フレディって呼んでくれ」

「はい。ではフレディさん…… そのお義父様と呼んだ方がいいかもしれないですが」

「お義父様?!」

「はい。私はアーニーさんの婚約者です。先ほどのお話、謹んでお受けいたしますね」

「え、本当に? おまえさん、赤い瞳の――高貴な血筋よな。しかも結構歳の差があると思うが」

 森の隠者は赤い瞳の、ウリカの素性を見抜いていた。


「さすがお義父様。愛の前には血筋や歳の差など関係がなく」

「あいつ、相変わらずやらかしとるな」

「あの、隠者様!」

「おお、エルゼ殿。済まない。こちらで盛り上がってしまい。何も聞いていなかったもので」

「わ、私もアーニーの婚約者なのです。その私は第二夫人的な立場になりますが。先のお話、謹んでお受けいたします。お義父様」

「はあ? 第二夫人? エルフ族のなかでもとびっきりの美少女の部類だと思うんだが。 いいのビティ? 長? 銀の髪の乙女はエルフでも稀少だろう」


 エルフは基本一夫一妻だ。

 本人が望んでも周囲が許しはしないだろうと踏んだのだ。

 森の隠者は明らかに混乱していた。


「この町のエルフ族全ての公認でございます。隠者様」

 長が重々しく頷いた。


「えー」

 森の隠者は不満げだ。あの息子にもったいない、といったところか。


「あとで私たちの家に案内いたしますね。お義父様」

「よろしく頼むよ。あいつとはもう二十年以上あっておらん」

「はい!」

「そも、今回の訪問はアーニーと一切関係なくてな。この町で精霊使いが生まれたので導く必要があると、アトラスに聞いたんじゃ」

「それはもしや、この町で新たに生まれた?」

「やはり精霊使いがいるんじゃな」

「はい。私です…… 先日なったばかりです」

 消え入るような声で、エルゼが小さく手を上げた。


 森の隠者は目を丸くし、微笑んだ。


「……もう何が何やら」

「アーニーの導きで、私は精霊使いになれました」

「アーニーを無理して持ち上げなくていいんだぞ。エルゼ殿。惚れた弱みか?」

「いえ、とんでもない。アーニーはウリカに夢中で。私、必死に振り向いて欲しくて。最近ようやく打ち解けてきたぐらいです」

「それはどうじゃろ…… おぬし、あやつの初恋の女性に似ておるしのぅ。アーニーの好み的にも超ど真ん中だからよほど照れておったか、人間であることを気にしておったか…… 両方かの」

「「詳しく! お義父様!」」

「おっと口を滑らせてしもうたわ」


 ウリカちエルゼの鋭い叫びに、慌てて口を塞ぐ隠者。しかしどこか目が笑っている。

 超がつくほど真ん中とは…… エルゼは澄ましているが歓喜を隠し切れていない。浮かれているのがわかる。


 ウリカはそんなそぶりを一回も見せたことがないアーニーに苛立ちを隠しきれない。嫉妬とはわかっている。


 何せ、エルゼをことあるごとにディーターの実家に返そうと画策し、エルフが実は嫌いなのかと思わせるほどだ。イリーネが亜人嫌いじゃないといっても信じられなかった。

 ウリカを想うあまり、エルゼを追い出そうとしていた可能性は高い。相思相愛になる可能性を避けようとしていた。


 それはわかる。だけど。

 

 むしろ、好きの裏返しであれば、とんでもないライバルを身近においていたことになる。アーニーを信じているし、エルゼは大好きだが、それとこれとは話が別だ。


 ロジーネとレクテナを巻き込んだ連合を組んで攻めるしかない。ウリカは覚悟した。


「ビティに長よ。不詳の息子が非常に迷惑かけている気がしてきたぞ……」

「とんでもない。森の隠者様の名に恥じない、立派なご子息でございますぞ」

「あいつが森の隠者の名を使いたがるとは思えないから…… まあ、あの手抜き男がそこそこやってるということか」

「森の隠者様。本日はアーニー様のお宅に行かれるでしょうから、後日この町のエルフ族の歓待もお受けいただきたい」

「うむ。しばらくいるつもりだ。頼むよ。二人とも」

「私は嬉しゅうございます。長生きはするものですじゃ」

「古い馴染みが少なくなるのは寂しいな、ヒディ。後日ゆっくり昔話もしようか」

「喜んで」


 三人はおばばの家をでて、自宅に向かった。


「エルゼ……これは緊急招集の必要があるね」

「わかりました、ウリカ。女子会メンバーですね」

「女子会メンバー? 女性陣囲っておるのか、あいつは」

「ええ。【巨匠】に【達人】、大物の亜人にモテています」

「まじかー」

「お義父様を歓迎します、私たち。今日は皆で飲みましょう!」

「うむ。大変華のある飲み会になりそうで楽しみだ」


 飄々と言ってのける森の隠者に、エルゼはくすっと笑った。そういえば彼女のことをとびっきりの美少女と言い切った。エルフは普通、そこまで言わない。

 アーニーとは似ておらず、どうやら女好きのようだった。


そろそろこの小説を投稿初めて一年経とうとしています。

今まで続けてこれたのも、皆様のおかげです。

ありがとうございます!

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