城伯
セオドアはマレックの屋敷にきていた。
王の書簡を持って、公国建国の話のためである。
同席はアーニーのみ。
「ふむ。ほぼ無条件か。やるな」
「唯一条件があるんだが?」
書かれていた条件に、大層不満なアーニーだった。
「俺への爵位叙勲がどうして条件になるんだ」
「王たっての希望です。妹を救出してくれた上に今回の飛龍討伐。王が何かしたいと思うのは当然のこと」
平然とセオドアは言い切った。
「私としては何の問題もない」
「娘が王国系の貴族の嫁になるんだぞ、いいのか」
「正妻だろ?」
圧が凄い。
「そ、そうだけどさ」
「ならば問題はない。いつ式をあげるんだ」
「そう来るのか」
「いつ式を挙げるんです、兄さん」
「お前まで言うな!」
二人のペースに飲まれ、辛いアーニーだった。
「私は先生想いでして。お許しください」
「どうして先生がでてくるんだよ」
「先生たちを形もない愛人になる可能性に耐えきれなくって……」
「愛人にはしないからな!」
「そうはいうが、アーニーよ。エルゼはどうするんだ。あの娘ほどお前やウリカに献身的な者はおらんのだぞ」
アーニーがウリカ一筋なのは好ましいが、周囲の女性は有能すぎた。幸い彼女たちはウリカまで支えてくれている者たちだ。
亜人の国となれば、本人たちの希望もある。アーニーに覚悟を決めさせるほうが万事、うまくいく。
「そうですよ、兄さん。貴族になれば正式に側室を作ることも可能なんです。帝国みたいに公妾制度なんてけちくさいことはいいません。形だけとはいえ、形もまた重要なんですよ」
「かといって、貴族になった上、側室だなんて……」
「形だけですよ形だけ。新しく作る公国の貴族に名前だけ載せる程度ですって」
「本当か~」
「お前に貴族が務まるなど思っていないよ。そうだな。城塞に関する爵位が昔あったな……城伯ぐらいが適当か。タトルの城塞はお前のものだ」
「その案で! マレック様! 子爵同等の扱いでいいですね」
「え、本当にそれで決まり?」
「はい」
こうしてアーニーは貴族になることが決まった。
本人は最後まで抵抗したが、許されなかった。
「とはいえ、セオドア。お前本当にやり手だな」
「なんのことですか?」
「たった一言も記載しないとは恐れ入った。血筋の件だ。私も文句は言うまい」
「ありがとうございます。マレック様に倣っただけですよ。マレック様も国という言葉を一つも使わず、僕に全権委任してくださいました」
「ふむ。そういうことにしておこうかね」
二人で話を進めている。アーニーはどの話しか察しようもなかった。
「何の話だ?」
「わかるようになったらお前も貴族だ」
「わかりたくないから、いいな」
「そういうことだ」
セオドアを意味ありげに見るマレック。セオドアはただ、にこにこ笑っている。
この笑いがくせ者なのだ。
自宅へ帰宅したアーニーはウリカとエルゼに、爵位の件を話した。
かなりしどろもどろになってしまい、ウリカにまとめられてしまった。
「つまり名も無き町は亜人の国として公国として独立。公王様はテディさん。アーニーさんは貴族になって、私が正妻であることをおじさまが確認されたと」
「そうだな」
「いつお嫁さんにしてくれるんです?」
紅茶を飲みながら、ストレートに斬り込んでくる。目が笑っていない。
「ら、来年の夏前あたり?」
マレックにも言っていない時期を口走ってしまった。
「わかりました。私、今本当に幸せです」
ウリカが微笑んだ。ちょうど一年後過ぎの結婚シーズンあたりだ。
「ウリカの伴侶として、俺でいいのか、てのは今も正直あるんだが……」
「はいはい。そういうのはもういいですから。あとは式の準備とか段取りですよね」
「え、えぇ」
葛藤を一蹴され、攻守が完全に逆転した。
「式は一度済ませているみたいなもんですしね」
「あれをカウントするのか……」
『鋼の雄牛』との決着をつけた夜のことだ。
「では私は正式に側室、いわゆる第二夫人的なものとなるわけですね」
エルゼも嬉しそうだ。
セオドアには感謝してもし足りない。
「そういうことになるのかな」
「やっぱり形になると安心しますね」
「そういうものなのか…… でもまだ何もしていないし、決まる前に再考をするということも」
「はいはい。そういうのはもういいですから。さっさと覚悟を決めてくださいませ、アーニー」
ウリカとエルゼがぐいぐい来る。
逃げ場が無かった。




