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冒険者最新環境告知について

「元気出せよ。ウリカ」

「もおおお、四回目ですー」

 宿屋のベッドに横たわるウリカ。

 そのベッドに背を預け、床に座りながら手に持っている紙を読んでいるアーニー。


「親子ですか、って……」

「すまないな、俺がこんなで」

「アーニーさんは悪くないです!」


 彼らは町から町へと移動中だ。

 もうじき、ウリカの故郷という町につく。


「ところでウリカっていくつなんだ」

「え? あ、じゅ……もうすぐ二十です」

 目を逸らしながら。


「そ、そうか?」

 どうみても……である。


「そうなんです。もうすぐ二十です」

 大切なことなので2回言わなければならない。


「……わかった」

 やぶ蛇になりそうな気配がしたのでアーニーから引いた。


「そういうアーニーさんこそいくつなんですか?」

「んー? まあ内緒」

 ウリカが言わないので逆に言いづらくなっている。


「お互い様ですよね?」

「そういうことにしておこう」


 二人とも、別に年齢など知る必要はないのだ。


「ところで最新環境の告知だそうだぞ」

 話題を強引に変える。


「スキルか何か変わるんですか?」

 ベッドから身を乗り出して、顎をアーニーの肩に乗せる。


 近いなあと思いつつも、何も言わないようにした。


「神様はあまり調整入れないからな。――ルートボックスの調整だ」

「ルートボックス?!」

「珍しいよな。えーと、【使徒】と呼ばれるお助け冒険者を召喚できるようになります、とさ」

「強そう?」

「いや、俺たちには意外と向かないぞ。通常の冒険者タイプだと冒険者組合の制限を受ける。限定の【使徒】だと一日1魔霊石を使う。直接、期間限定で呼び出すこともできるがこれには大魔霊石一つだ」

 俺たち、という言葉に内心嬉しさを感じるウリカがいる。


「え、10連1回分?」

 大魔霊石1回分は望外な値段だ。


「10連1回分」

「……神様に頼らず、二人で頑張りましょう。アーニーさん」

「さすが俺の相棒。よくわかってる。二人で頑張ろうな、ウリカ」

「うん」

 背後から首に手をまわし、甘えるウリカだった。


「恒常ルートボックスにも変化があるな」

 ぶらさがるウリカを気にせず、紙を読み進める。


「何か変わったアイテムでも」

「魔法の武器や防具の核素材がでるとのことだ。防具は全特殊な効果を発揮する」

「え? コンプリート型ルートボックス?」

 ウリカが恐ろしいことを出す。


「違う違う。あれは禁じ手になった。これは防具一つで効果を発揮するよ」

 神々でも問題になったので禁止になったルートボックスだ。

 以前は、特定の品全種を手に入れてようやく出現するアイテムも存在したという。


「コンプリートは確かに邪悪な響きがしますよね……」

「この防具は見栄えも良いみたいだ。強力な品ほど、素材も大変そうだ」

「見栄え狙いなら、だぶったら泣きますね」

「それ狙いで転売して買いあさる奴が多そうだな」

 レアアイテムは常に転売屋たちに狙われる。


 例えばセット効果がある防具が四種類あるとする。

 兜、鎧、籠手、足当がそれぞれ同じ確率だった場合、人気がでるのは兜と鎧である。セット効果はないにしろ、手足は見た目のごまかしが効く。あとで買えば良い。

 そこで兜や鎧の転売が横行するのだ。とくにこの場合は兜が高くなる。鎧のほうが単純に防御効果が高く、値段が跳ね上がるため転売に向く単価ではなくなるのだ。


「上位ギルドの人たちはすぐ作っちゃうんでしょうけどね」

「試しでまわしてみてもいいんだが、前の限定ルートボックスのダメージが抜けきれない」

 追加で回しすぎたアーニーは、しばらくルートボックスはお預けだ。


「いえ、今は待ちましょう。まずこういうときは情報収集です」

「そうだな。これが魔力二倍の魔剣ならまわしてみてもいいんだが」

「そんなのでたら、戦争になりますよ」

 ウリカは苦笑した。


「最後に魔術文様だな。これはすごいかもしれない」

「どれ」

 横着にベッドから動かず身を乗り出す。顔はほぼ真横に胸は肩。ウリカが気にしていないので、アーニーも気にしないよう務めた。ちょっと必死に。


「装備以外に特殊能力一つ、ですか。例がすごいですね。ほとんど受動発動技能と変わらないのような」

「個人的にはこれが本命だな。装備なしで攻撃力や魔法抵抗力が上がるとか、状態異常無効とか。致死攻撃率アップとかもある」

「……神々も思い切りましたね」

「大きな騒乱があるかもしれないな」

「ですね」


 神々の現世介入は主にルートボックスだ。

 文明を促進するようなレベルのものはないが、役立つ武器や防具が大量投入されると、騒乱が起きると言われている。

 騒乱は一概にどんなものかとは言えない。魔物の氾濫であり、巨大な迷宮が現れたりと、実に様々だ。


「ところでウリカ」

「はい」

「その態勢だとずり落ちるぞ」

「……助けてください」

「仕方ないな」

 ウリカを持ち上げベッドに横たえる。猫みたいだ。


「えへへ」

「うれしそうにするな」

「動乱の時代がきても、一緒に強くなりましょう。――離さないでくださいね」

「……ああ」

 気恥ずかしさに、反応がちょっと遅れる。

 ウリカはその返事に、とてもうれしそうに笑うのだった。

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