詫び石はよ!
『くそー。お前たちの活躍、リアルタイムで見ることができなかった! 運営め! 訴訟!』
接続障害が終わり、ようやく祖霊と連絡が取れるようになった冒険者たち。
アーニーの祖霊は相変わらずフリーダムだった。
『詫び石はよ! はよぅ!』
連絡取れるなり、神々への不満を漏らしている。
詫び石とは接続障害が発生したときに配布される魔霊石のことだ。
ルートボックスが無料で回せる。詫び石が発生したときだけこの世界に干渉するログイン勢もいるといわれている。
「こんな長い接続障害は初めてだったな」
『鯖が貧弱なんだよぅ。もっと新鮮で大きなものを用意しろってんだ』
アーニーたちにとって意味がわからないことを言う。ここらは、彼らとの世界でうまく翻訳されない部分らしい。
彼らの世界では、天空に浮かぶ鯖が落下したと言われている。なまずが地震を起こすようなもんだ、と祖霊が例えをあげていた。
『しかし不安もある。世界の終わりが見えてきたかも知れない』
「本当ですか!」
祖霊の懸念にウリカが悲鳴をあげる。これはこの世界の住人の死を意味するものだ。
『ハンシの回収がかなり悪いらしいからな、神々。そりゃガチャもさぼってたしバランス気にしすぎて性能しょぼいの続いたから仕方がない』
「私たちは死んでしまうのでしょうか」
数千年前、世界の終わりを迎えた際、多くの生物が死滅したのは彼らも知っている。
『即死はない。だがモンスターは統率が取れなくなり、人々の心は荒れ、治安は乱れ魔法は制限される。結果多くの者が死ぬだろう』
祖霊が苦しげに言う。
『生まれが特殊な冒険者など、さらなる七難八苦が待ち受けているだろう。お前たちには、それぞれ予想もしない困難が襲いかかる。特別な冒険者というのは、特別な事情を背負っている場合が多いんだ』
運命、というものだろうか。
力ある冒険者は確かに奇異な人生を送っているものが多い。それはアーニーやウリカ、エルゼの生い立ちをみてもわかる。
もっともそれを乗り越える力もまた与えられるのだが、神々の加護がなくなるとそれ以上の災難が反動で襲うかもしれない。祖霊はそれを懸念しているのだ。
『お前たちが死なないよう手は尽くすが…… ルートボックス回すしか干渉できないからな、俺は』
「俺としては今まで通り助言を貰えると嬉しい」
『そこは任せてくれ』
アーニーの祖霊は干渉好きな珍しい祖霊だ。
彼は何度も助けられている。
『ま、今は詫び石でルートボックスを回すとするか。みんな頼んだぞ、良い品をね』
アーニーがそれぞれ詫び石、魔霊石をウリカとエルゼ、ジャンヌに分配する。
「確か冒険者組合の告知で、またルートボックスの中味変わったんだっけ」
「ポーションが多かったからですからね。HPがちょっと回復するのと、スタミナがちょっと回復するのと、MPがちょっぴり回復するのと」
「ポーションじゃルートボックス回さないよなあ」
「使徒が思いのほか不評でしたからね」
「やめて。その台詞は私に効く」
ウリカの言葉に机に突っ伏すジャンヌ。
「安心して。ジャンヌさん。今回のルートボックスで、魂位の限定を緩和するアイテムも出たらしいです」
「それいい! すごくいい!」
「ああ、その手でガチャを回すのか。魂位のランクアップのアイテムも正式実装らしい」
「いきなりSSRはやりすぎだから、1ランクずつらしいですね。SSRアイテムで2ランクアップだとか」
「私、欲しいですね。1ランクでいいのであげたいです。SR以上はいりません」
魂位の制限は16。アーニーとウリカだけで12なので、SRである4がエルゼの希望だった。
「俺たちにランクアップ石がでたらエルゼに渡す」
「うん!」
「だよねー」
「え、それはさすがに」
「俺たちはもう上がりようがない」
「はい。ではそのときはお願いします」
四人でそれぞれルートボックスを回し始める。
「だめ。コモンのポーションばっかり!」
「私は防御をあげる魔術文様がでました。これアーニーさんのマントに付けることできないかな」
「俺は魔力付与石が一番のあたりだな。レクテナかポーラにでもやろう」
「私は例の限定解除アイテムでました! これでマスターたちと普通の冒険へ行ける!」
「わ…… 私は……」
エルゼが呆然として、皆が駆け寄る。
「どうした? エルゼ」
「魂位二段階ランクアップ…… でちゃいました……」
「良かったなエルゼ!」
「おめでとう!」
「おめでとう! エルゼ!」
『神引ききたこれ!』
エルゼはじっと己の手の上にある、光り輝く石を見詰めていた。
詫び石、ご懸念石、RT○○石は大好きです!




