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ウリカは守られている感が幸せ

「あ……」

 冒険者組合に二人は向かっていた。

 遠目で何かみたのか、ウリカが足を止める。


「どうした?」

「ごめんなさい。なんでもありません」

「話せ」

 声が強ばってる。何かあるのは明白だ。


「初めてあったときのこと、覚えてますか」

「覚えているよ」

「あのとき、私を強引に連れ出したパーティが…… ちらっと見えたもので」

視線の先には、戦士風の男二人と、女性冒険者が二名いた。

 雰囲気的にも、ベテランのように見える。


「そうか」

「気のせいかもしれない。――別に私は悪いことしたわけじゃないし、堂々とすればいいんですよね」

 大きく深呼吸して、受付に向かおうとしたウリカを、アーニーが腕を取って引き留める。


「待て」

 腕を捕まえられた。


「大丈夫ですよ、アーニーさん」

 言い募るウリカを無視し、彼は強引に自分のほうへ引き寄せる。


 外套を明け、すっぽりウリカを覆ってしまう。

 ウリカが外套のなかにいるのを確認すると、外套の胸元を閉じてしまった。二人羽織のような状態だ。

 これ以上ないぐらい密着している。アーニーの体温を感じ、少し慌てる。


「アーニーさん? あの……」

「町の外へ行くぞ.。宿屋に置いてある荷物が無いのが幸いしたな」


 すっぽり覆われて歩きにくいが、ウリカの歩調にあわせてゆっくり移動する。

 ウリカはアーニーの胸あたりまでしか身長がないので、子供を保護している親のようだ。


「あ、あの! 大丈夫ですから! もう負けませんから」

「勝ち負けじゃない。関わりそうになる接点は一つでも減らす。気付いていないうちに離れるぞ」


 ベテラン冒険者にとって、ウリカの顔など覚えていない可能性すらある。だが、そんな問題ではないのだ。

 レベルの低いヒーラーをパーティにも入れず、迷宮の外に放置する。そんな非常識な連中に関わって不愉快な思いをすることはない。


 アーニーは口にこそ出さないが、彼らのような悪質冒険者のことを知っている。

 彼らは強引に連れ出したウリカを外部ヒーラー―PT外のヒールとMP回復用の装置として利用しようとしたのだ。逃げようにも迷宮のなかまで連れてこられたら、不可能だっただろう。

 パーティ外だから気を遣われるはずもなく、ウリカがガーゴイルに襲われても誰も気付きもしない。いや、気付いていて放置しようとした可能性もある。

 

 こんなことは冒険者組合も許していないし、決して許された行為では無いが、高効率パーティでは低レベル帯のヒーラーを無理矢理連れ出して回復要員にすることは実際あるのだ。 


 そんな外道とウリカを合わせたくはなかった。


「そんな。でも……」

「思ったより負けず嫌いなんだな、ウリカは」

 強情なウリカに、アーニーは薄く微笑んだ。


「いいんだよ。ウリカが気にすることはない。俺が勝手にやりたいだけだ」

「そんな、またアーニーさんにご迷惑を」

「迷惑じゃ無いから、さ」

 ぎゅっと回されている腕に力が込められる。


「すまない。俺が確実に守れるとは限らないが最善は尽くす。――何を言われてもいい。ウリカが嫌な思いをすることはないんだ」

 片手で肩を抱きしめられる。

 嫌ではなかった。


「ここはあくまで通過点。目に見えている地雷を踏むことはない。行こう。な、ウリカ」

 優しく耳元で囁かれる。


 ウリカはこくんと頷いた。


 ウリカは顔が真っ赤だが、アーニーには気付かれてはないはず、だ。


(狙ってやってるのだろうか。この人は?)


 守れるとは限らない?

 

 今、この場でウリカは誰よりも守られているではないか。


(ほんと、今誰よりも守られてるよね、私……)


 ウリカを落ち着かせるように、肩に回された手は定期的にぽんぽんとリズミカルに触れられる。


(この人、ダメだ…… 私がダメになる……)


 冒険者組合が見えなくなる位置まで離れた。


「もう、いいのでは」

 嬉しさと恥ずかしさで死んでしまいそう。


「もっと離れるまではこのままだ」

 

 アーニーは外の門付近まできて、ウリカを解放する。


 真っ赤になった顔を見られないため、大きく深呼吸をしようとしたそのとき――そのまま、しっかりと手を握りしめられた。


「出るぞ」

「は、はい!」

「離すなよ」

 彼はそっと指をそれぞれ絡ませて、離れないようにする。

 息がつまりそうで返事など出来るわけがなかった。


(狙ってやってるんだろうか! この人は?)

 離れないように――離れられるわけがなかった。


 門番の視線が生ぬるく、ウリカは頬を染めながら下をうつむく。

 トラブルもなく二人は町の外にでることができた。


 しばらく進んで、ようやくウリカは解放された。

 名残惜しくて、なかなか離せなかったのは内緒だ。


「強引だったな。すまない」

 アーニーが謝罪する。


(え、やっぱり狙ってないの? それはそれで、やだ)

 内心焦るウリカ。


(言わないと…… 言わないと!)

 恥ずかしくて言えない。

 でも言わないと後悔する。


「あ、アーニーさん。あ、ありがとうございました」

 気の利いた言葉や、艶っぽい言葉一つでない自分が酷く恨めしい。


「ん。ああ」

 精悍な顔がほころんだ。


(やっぱり私、もうダメだ)

 その微笑みをみて、ウリカは確信した。


 彼の腕を手に取り、体を委ねて寄り添って歩み出す。アーニーは少し驚いた顔をしたが、気にせず付き合ってくれた。

 絶対この腕は離さないと、心に誓って。

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