助っ人
アーニーたちは冒険者組合のなかで、警備隊長とギルドマスターで作戦会議を行った。
【大暴走】に備えて、町の兵士と冒険者たちは稜堡の上から迎撃態勢。減らしたところで肉弾戦に持ち込む。
冒険者たちは接近戦が得意なものが多いが、今回ばかりは少しでも数を減らしておく必要があった。
アーニーたちは【タトルの城塞】で待機。闇の飛龍が近付いた場合、ヘイトを奪い誘い出し迎撃するという作戦だ。
行動パターンからレイドは人里を襲う。ゆえに【強襲】なのだ。
冒険者のなかでアーニーたちと共にいく者はいなかった。
遠距離攻撃の魔法使いや弓士は、町の防衛にも必要だからだ。むろん、治癒士もだ。
何より【無銘】のレベルは頭一つ抜けている。足手まといになることを恐れた冒険者は手伝えることがない。闇の飛龍相手に攻撃が届く者などそうはいないのが実情だ。
「アーニーさん」
ギルドマスターが声をかけてきた。
「新入りが話しがあるようです」
目の前に黒髪の美青年がいた。
レイピアに軽装の鎧。爽やかな笑顔が似合う。
「はじめまして。少しだけお話いいですか?」
青年がアーニーに声をかけた。
ギルドマスターに目配せし、ギルドマスターはそそくさと別の場所へ、指示に向かった。
「はじめまして」
とは言ったもの、どこかで見覚えがある青年だ。
どうしても思い出せない。
「テディとお呼びください。アーネストさん」
青年が、潤んだ熱心な瞳で見詰めてくる。
これが女性ならそれだけで落ちるだろう。彼にはそんな毛はなかったが。
「テディさんか。どこかでお会いしたことがあったか?」
「……!」
青年は息を飲んだ。
びっくりしたかのように見詰めている。
青年はそれには応えなかった。
「闇の飛龍を、チーム単独で相手にすると聞きました」
「ああ。【大暴走】は今の町なら防衛できる。しかし闇の飛龍はそうはいかない」
「なるほど。では一つ提案を。私はあなたの助けができます。いきなりで申し訳ないですが『無銘』に入れていただくことはできないでしょうか」
アーニーたちのチーム『無銘』は参加希望者が殺到していた。
誰か一人入れると、別の者を断るのも難しいため、等しく断っている状況だ。
いきなりの人間が申し出るなど、不可能に近い。
そんな大それたチームとは本人らも思っていないのだが。
「すまない。今『無銘』は――」
そう言おうとするアーニーを遮って、テディは小声で囁いた。
「僕も、ユニーククラスなんです。きっとお役に立てます!」
「も?」
彼の職を知る者など数えるほどしかいない。
しかもユニーククラスだと知っている者など、身内といっていい人間だけだ。
アーニーの頭がフル回転を始めた。
間違いなく知り合いだ。しかし、ここまでの美形で、黒髪の知り合いなど――
一人、いた。
「ま、まさか…… 何故ここにいる!」
絶句した。
一人だけ。黒髪ではない、だが黒髪でいるであろう存在を、彼は知っていた。
「本当に嬉しいですよ、兄さん。子供の頃の僕しか知らないのに。ちゃんと覚えていてくれて」
目の前にいる第三王子、セオドアがいることがアーニーには信じられなかった。
青年の黒髪を染めるよう指導したのはアーニーだ。お忍びのとき、明らかに目立つからだ。
それでもいらぬ厄介ごとをおびき寄せるのは王族体質だからだろうか。
「さあ、いきましょう。兄さん。一緒にレイド討伐。ああ、楽しみだ!」
アーニーのことを兄と呼ぶ青年は、爽やかな微笑を浮かべていた。




