アカデミー計画
名も無い町では『無銘』に対する論功行賞が行われた。
本人らは『無銘』継続だけで十分だったが、町の人間が納得いかない。タトルの城塞はこの町の新たなシンボル、いや信仰の対象になりつつあった。
しかも全種族力を合わせての偉業だ。大々的にやるべきだろうとの判断だった。
ロミーはミスリルゴーレムの所有権だった。本人が何より喜んだ。妖精族全員で管理するらしい。
ユキナはハイオーガの難民たちの居住区画の拡大だった。これも本人が望んだことだ。
テテは農地の拡大と、変わった作物を各地から取り寄せるというものだ。今はフロレスの農家とともに希望の作物のリストアップに夢中だ。
四天王及びコンラートは変わった報酬だった。
パイロンとコンラートは正式に名も無い町所属の騎士として任命された。普段は冒険者だが町の防衛時にはマレックの指揮下に入る。
コンラートはこのある意味いい加減な扱いをとても喜んだ。ダークエルフの役職持ちは珍しい。同じ種族のダークエルフを誘って巡回する自衛団を作ることを考えた。
パイロンは竜戦士である。竜探索にいければ何も問題はない。
不幸だったのはラルフだった。いきなり領主代行を命じられたからだ。
「四天王のリーダーが役職なしじゃ、面目立たないだろうに」
というマレックのお節介と責務押しつけが形になった格好だ。
ニックも同様で卓越した事務能力が買われ、財務担当となってしまった。剣闘士最優先という条件で引き受けた。
仕方ないな、と笑っていた。是非にとマレックに頼まれたら、断ることは難しかった。
カミシロは魔神の寺院を任された。彼は魔神を含めた神々を信奉しているので、とくに問題がない。
主神が魔神であり、他の神々をまつる形になるだけだ。
寺院がないこの町にとって、画期的な出来事だ。彼は二つ返事で引き受けた。
エルゼとジャンヌの報酬も特殊だ。
アーニーとウリカの家を増築し、エルゼは彼らと同じ家に部屋をもらうことになった。エルゼが歓喜したことはいうまでもない。部屋は客室のある位置にした。増築分を客室に回す。
ジャンヌは通路をつなげた離れに家をもらうことになった。彼らの自宅に離れ小屋に作って住みたいと申し出たためだ。
この案はすぐに実行され、小屋とはいえない規模の家に通路をつなげ、行き来できるようになった。これで気軽に風呂に入れるようになるし、食事も一緒にできる。
ポーラは別格の扱いだった。
巨大ゴーレムとの死闘、酒場の件、そして城塞戦の活躍。常にウリカを守り続けてきた。
功績で言えば頭一つ抜けている。相応のものを用意しなければいけなかった。
本人は嫌がったが、アーニーを含めこれは皆が思っていたことだ。とくにウリカが熱望した。
結論としてはポーション屋と試薬施設を建築し、大きな住居を建てポーラの両親を移住させることになったのだった。両親からの返信でも二つ返事で承諾されたらしい。
「さてお集まりの方々にはお願いがあるのです」
とマレックは改まってロジーネ、イリーネ、レクテナ、ポーラとアーニーたちを呼んだ。今日はカミシロも来ている。
イリーネ、ロジーネ、レクテナの報酬の話はない。この町での屋敷はすでに取りかかっている。彼女たちは貰いすぎだと感じているぐらいだ。
三人はそれぞれ工房の建設も決まっている。
「せっかく教師をされた方々、人を導く司教、そして才女がいる。学校を作りたいのです」
マレックは切り出した。
「え? 私も?」
ポーラが目を見開く。
「もちろん。そして私が校長。なかなかの布陣と思わないかね? 正確には学校というより塾に近い形だろう」
いたずらっぽく笑った。
「学園都市か、大学か、でいうなら研究機関になるだろうね。冒険者や専門職を育成し、次代につなげるための専門性に特化した学校だ」
「いい! すっごいことになりそう! 僕やるよ!」
「いいですね。私も喜んで」
「みんな仕事と教師、やるんですよね? では私も異論ありません」
「おっちゃん教師かー。でも癒やし手が増えることは悪くない。やりましょう」
「もちろん皆様には古代帝国の技術書や知識の提供を惜しみません。教師もまた学ばなければいけないのですから」
マレックは反応に気を良くし、約束した。
「そこ大事なんですよ! さすがマレックさん」
「ポーラさんがポーション作成や魔術に古代帝国の知識を取り入れ、私が魔力付与の知識に取り入れる…… 凄いことになりそう」
レクテナは恍惚としていた。【達人】ほどになれば学ぶ機会は少ない。教わる機会があるだけで飛びつきたいのだ。破格の報酬である。それだけでもこの町にきた甲斐があったと断言できる。
「うわ、私がその学校通いたい。マレックさん講師もする?」
「必要があれば、ね」
「じゃあやるー!」
ポーラも乗った。
「ウリカもエルゼもいるといいよ。研究機関といっても冒険者の育成機関も兼ねているみたいだし」
アーニーが二人に声をかけた。
「入りたいですね!」
学がないことはやはりコンプレックスだ。マレックもきっと気にしていただろう。
「私も、ですか。でも楽しみですね」
エルゼも頷いた。
「野外講師にアーネスト様は必要であろうな」
「却下だ」
「何言ってるの。建築関係の仕事どれだけ増えると思ってるの。確定ね」
イリーネに押し切られる。
「でも敷地足りるかな」
「学校区画を作る、っていうのはどうだろう」
「その案いいね。一つの区画をまるっと学校や寮にしてしまおう」
マレックも同意した。
「うわー。じゃあ僕学校の設計もやるー!」
都市計画者の異名を持つマスターアーキテクト、イリーネのやる気スィッチが入ってしまう。
「私は制服デザインを…… これは腕が鳴りますね」
ロジーネも張り切っている。
この話は決定したようなものだった。
名も無い町でも学校施設計画が始まります。現在は私塾のようなものが少しあるだけですね。
令和元年も引き続きよろしくお願いします!




