生まれるべき伝説
マレックの屋敷に、各種族代表が集まった。
改めてアーニーから勝利の報告があったとき、歓声が上がった。
改まってアーニーが話し始めた事柄は、彼らの想定外の話だった。
「俺たちは勝利した。だが、もっと驚くべき奇跡が起きた。それを報告したい」
皆が息を飲んだ。
一夜城以上の奇跡があるのか、と。
「俺たち、そしてこの町の人たちが作った城塞はね。祝福されていたんだ。【タトルの大森林】に」
「どういうことでしょう!」
ディーターが叫んだ。
これから語れることは、きっと彼らにとっても大きなこと――
「そのままだよ。この町を守るため、【タトルの大森林】が力を貸してくれたんだ。あの城塞は【タトルの城塞】と名付けた」
「大森林そのものが……我々を?」
ハイオーガのニルチェが呟く。
皆のざわめきが収まらない。
ディーターは大興奮していた。森の意思が城塞になってまで、彼らを守る。あり得ないことだ。
「グリューン!」
「へ? 俺?」
アーニーはグリューンを呼んだ。
「俺は何もしていないぞ」
「そうとも。ロジーネ。鑑定を」
「はい。――予想通りですよ」
ロジーネがグリューンに笑いかけた。
「グリューンが切り出してくれた材木は全て【タトルの大森林】の祝福を受けていたんだ」
「え? え?」
当事者のグリューンは状況が飲み込めない。
「もうあなたはただの木こりじゃないのですよ。明日にでも、職業プレートの更新を。あなたは【タトルの木こり】になっています。ネームドなのです」
「えー!」
グリューンが絶叫した。彼は何もしていない。無心に木を切っていただけだ。
タトルの木こり。タトルの名を冠する、森そのものに認められた伝説の木こりともいって良いだろう。
「さすが兄弟じゃ!」
「うわ、伝説の木こりかよ」
「すげえな。兄弟!」
残りの三兄弟も歓喜していた。
「なんで俺? アーニー殿が何かしたのでは?」
わけがわからない。
「俺は何もしていない。グリューンの日々の森への在り方がタトルの祝福を引き出したんだよ。多分、ね」
皆の賞賛のまなざしがグリューンの注がれる。
恥ずかしくて消えてしまいたかった。
「【タトルの城塞】はこの町の守りとして存続することにしたんだ。明日町の住人にも開放する。良ければ見にきてくれ。普段は俺たちが使うと思うが、緊急時は町の人間も使えるようにしたい」
「おお!」
「みたい! みたいぞ!」
「エルフにも声をかけねば」
「我が同胞も活躍したと聞く。ダークエルフも行くぞ」
「次の会議は、【タトルの城塞】ですな!」
「ああ。調理場完備の宴会可能だから、そこらも含めて話し合ってくれ」
「なんとー!」
各種族、口々に話し合う。主に宴会の日取りについてだ。
「もし何かあったとき、役に立つ。タトルの大森林の加護がいつまでもあるように。これこそが新しい伝説になるべき話だ」
「その通りじゃ!」
ブラオも同意する。
「確かに!」
各種族の代表たちは興奮が収まらない。一夜にして出来た城塞は彼らを守るため、タトルの大森林が加護をくださったのだ。
伝説の誕生に遭遇できたということを。
「ブラオ。ミスリルゴーレムについてだが、お願いがある」
「ん?」
「あれはあのままにして欲しいんだ。終わったら溶かして返すといったが、すまない」
「そんなもん気にせんでええ」
「助かる。ミスリルゴーレムは意思を持ち、妖精族を守護するようになっているみたいだ」
「凄すぎない?!」
ブラオと【妖精王】が同時に驚きの声をあげた。
「そのようなゴーレムが?」
「ああ。ロミーを守ってくれてるよ。ロミーがいうには他の妖精族も守る意思があるみたいだ」
「おお。みたいみたい! 私からもお願いする、ブラオ殿。どうか、ミスリルゴーレムを我らに」
「よいよい。溶かすつもりはないっての! そうか。そんな凄いゴーレムになったか。ならば本望じゃわい」
ブラオは満足げに頷いた。
「凄いゴーレムだったぞ。ロミーの指示で歴戦の冒険者を一撃で葬り去って無双していたからな」
「おお…… ロミーが羨ましいぞ!」
「妖精の守り手になった真の銀か。まさにお伽話しじゃな」
詩的な表現だ。ドワーフたちは詩人が地味に多いのだ。
「それもまた新しい伝説だな」
「違いない。今日は良い酒が飲めそうだ」
己が作った金属が伝説になる。とても名誉なことだった。
「戦乱はないほうがいい。しかし今回のような略奪者がこないとも限らない。町の人口が増えたら【タトルの城塞】を中心に開墾してもいいかもしれないな」
「それは良い考えですね!」
ディーターも頷いた。やはりアーニーは凄い。
アーニーは隣にいるグリューンに声をかけた。
「春前になったら植林に行くだろう? 俺も植えさせてくれ」
現在は、以前からエルフが育てていた苗場で育った幼木を植えている。
本格稼働するには来年からだが、エルフ族は多くの幼木を育成してくれていた。
「もちろんじゃ。俺が一番混乱してるけどな! 大森林に感謝だ」
「ああ。その心がけが俺を助けてくれたんだ。ありがとう、グリューン」
「何をいう! 礼をいうなら大森林に言ってくれ」
グリューンは照れていた。
「そうだな。どれだけ感謝しても感謝しきれない。仲間も、町のみんなにも、森にも。精霊達にもね。みんなの勝利だ」
心の底から、そう思っていた。




