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第八話   瞑想の醍醐味

主人公は果たして術を使えるようになるのか……!?

 少し開けた山の奥。そびえ立つ大樹の元にて修行は始まる。






 オッス萩だよ萩さんだよ。いよいよ術の訓練が始まりそうな萩さんだよ。いやー、胸がドキドキマッスルだよ!




 霊力分けの種類には妖力と神力の他にも、そこから派生した細やかなものがいくつか有るらしい。名前に聞いたそれらは、今は全くもって必要ないらしい。そのためこのことは省くとして、この実に壮大な仕組みの術を俺はきちんと使えるようになるのだろうか。と少し自信がなくなってしまった俺ではあるが、ワクワクが止まることはなかった。今だってずっとこの胸の高鳴りが治まらない。だってようやくあの術を学ぶことが出来るのだから! ああ、早くやりたくてやりたくて仕方がない。




 「さて、口での説明はもうここまででもいいだろう。後は実践あるのみだ」


 「ヒャッホウさっそく始めましょうお師匠様!」


 「う、うむ。して萩よ、今日のお主なんだかちと……よし何でもないさっそく始めるぞ」


 「はいお師匠様! ……して私は何をすればよいのでしょう?」


 「うむうむ。そう言うと思うておった。まずはいつものように瞑想の姿勢を取れ」


 「はい」



 椚の木の根元のくぼみに納まる。ここにちょうどはまる感覚が何ともいい気分になる。とぐろを巻いてご満悦な俺に山吹様が近づいてくる。その顔に張り付くは満面の笑み。アッなんだか嫌な予感がするナー。



 「今からちょいとビビッと来るかもしれんが、がまんである!」


 「えっ何えっひえええええええ」



 山吹様の黒い笑みにおびえて動けない俺の額に、鋭い爪が迫る。思わず目をつぶって構えてしまう。ちょんと、眉間に爪が触れたその瞬間であった。



 「っ!!!」



 体に生じる奇妙な感覚。力の流れ、胸の奥に確かに感じる心臓とは違うなにかの律動。



 「こ、これは……!?」


 「分かるか、萩よ。これが霊力だ」


 「れいりょく……」


 「いいか、今から行う修業はこの霊力を我の補助なしで感じることだ。霊力の流れは川と同じ。その川の源であるお主ならばすぐに掴めることであろう。今までの瞑想はこの修行の前振りである。このことを忘れず肝に命じるのだ。では、始めッ!」



 そう告げると山吹様は俺の眉間から爪を離した。途端に雲散してしまうあの感覚。それをと取り戻すように俺は意識を内側に集中させた。体の隅々まで感覚をさえ渡せる。


 この体は意識の塊だ。当然血液など通ってはいない。しかし、霊力は流れていたのだ。体を流れる力の大河。前世でこんな言葉を聞いたことを覚えている。



 ”病は気から”



 その”気”の正体こそが霊力だったのだ。先に感じたあの感覚。なんだか言い知れぬような気持ちの高ぶりであった。もう一度、あの感覚を感じてみたい。逃がしてはならない。忘れてはならない。もう一度、もう一度……!




 何故だ、霊力とは自分の一部なんだろう? おかしい。何故だ、どうしてつかめない!? 俺にだってあるんだ、だってついさっき感覚を見つけたばかりじゃないか!!


 何でだよ……山吹様に手伝ってもらわなきゃ何にもできないってのか……? 思えばそうだった。ここら数十年、山吹様と修行をしてきたが、俺一人じゃできなかった。唯一一人でもできた瞑想。しかしそれもグレードアップしてしまえばやはり俺一人ではできなくなってしまった。




 取り戻せない。




 何故……!? ふと掴めそうなときもあるのだが、川を逃げる魚のようにひらりひらりとすり抜けて行ってしまう。くそ、何でできねぇんだ。どこだ、どこにあるんだ……だめだ、こんなのでは術など使えない、そもそも霊力を感じることさえできないのだから……!




 ペチン



 「あぅっ!?」



 ふいに頭に痛みを感じた。見上げれば視界を飲み込む、桃色に輝く魅惑の肉球……。



 「焦るでない!」


 「!?」



 凛と響く声は空気を切り裂く。その一言は俺の熱せられた思考を冷やすのには十分であった。厳く鋭いその眼差しは、俺をとらえて離さない。



 「お主は焦りすぎている。個々に飲み込まれるでない。」


 「……!」


 「感じるのだ! この空を、大地を、生き物たちが生きるその様を!

 感じるのだ! お主より続く大河を、木々が根を張り力強くそびえるその様を!

 感じるのだ! この渓谷山たる


 我の存在を!!」


 「……!!」




 目が覚めた。……俺、何をやっていたんだか。霊力は万物に宿るってあれだけ教えられていたのになぁ。しかも修業を始める前に”これは瞑想の延長線”なんて大きなヒントまで貰っていたというのに。情けない。山吹様の弟子を名乗るにして情けないよ……。これだけの助言があっても一つだって汲み取れてはいなかった。


 この世に存在してもう数十年余りたった。だけどそれがなんだ、高々数百年。何千年もこの世界を見てきた山吹様や大きな存在の方々にとって、俺の生きてきた時などほんのちょびっとにしか過ぎないんだろう。なのに俺は何を意気上がっていたんだろうか。自分の考えに凝り固まって物事の真意を何にもわかっちゃいなかった。分かっているふりをしているだけだった。


 あーあ。こんなんじゃあ本当にただの患ったガキじゃないか……。






 「お師匠様」


 「うむ、よい目をしておる。その様子だと何か気づいたな?」


 「はい。私、とんだ阿呆でした。大切な助言をありがとうございます!」


 「ほほう」


 「これからもご指導よろしくお願いいたします!」




 さわさわと風がそよぐ。それは俺の節目の門出を祝うように。優しく、穏やかに



 吹いてゆく。




















 早く術を完成させねば……早く、早く!




 なぜか湧き上がる焦燥感を心の隅に追いやる。急いては事をし損じる。焦ってはならない。冷静に心を保つのだ。冷たく、静かに。

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