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第十三話   萩の説得

最近の趣味


授業中、その日の昼飯がどのように作られていったかの過程を考えること。

 深緑の森。その奥地にて不自然に森の木々に囲われた土地があった。






 おっす萩だよ萩さんだよ。小さな子供が百歳児だと知って恐怖に震えている萩さんだよ。うっひゃー、見た目じゃあ全くわからんもんだね!!




 「ま、マジですか……」


 「まじ……? まじ……魔事……?」


 「あ、ああそれは本当なのですか?」


 「う、うむ。我は嘘をつかぬぞ! しかも最近の木々を切り倒していた罪人である」


 「……わーお」




 うわーお。……うわあぁああぁお!


 えっ。”ドスンドスン事件”の真犯人コレ? これなの!? マジかよドンドコドーン。萩さん、衝撃の事実の二連続に膝ガックガクだよ!!



 「山吹様はこの後どうするおつもりで?」


 「うむ。もちろん食い殺す」


 「だめに決まってんだろぉおぉがぁああぁあ!!」


 「!?」



 何しようとしてんじゃこの主は……!? 思わず暴言を吐いた気もするがそんなことはどうでもいい。こんないたいけな、まだ百歳の小さな子供を食い殺すぅう!? 何ということを! こちらをむいて、あんなにおびえているじゃあないか!! あんなに顔を歪めて……子供のする顔じゃあないよ。



 「座ってください」


 「な、萩よ。いくら我が寛大であろうともさすがに命令は聞きとうないぞ」


 「山吹様」


 「う、うむ」


 「いいですか、いくらとんでもない罪を犯したといっても、相手はまだ子供」


 「であるから、奴は百すぎだと……」


 「だまらっしゃい!! あんな怯えた顔をさせて……あんた一体いくつだと思ってるんですか! どうせ一万年とか生きているんでしょう!?」


 「い、いや、そんなには生きておらぬぞ。我は己を意識し始め五千ちょっとだ。それに今あ奴が怯えているのは我ではなくおぬ」


 「そ れ で も で す!!


 いったいその子の何十倍存在しているのだと思っているのですか。いったい私の何十倍なのですか。一回きりの過ちで、その存在をかき消そうと……? どうせ山吹様だってそのぐらいのころはいろいろめっきょめきょに破壊し、暴れまわっていたのでしょう!? ”渓谷山の狼鬼”とか呼ばれていたのでしょう!?」


 「お、お主の中の我は一体どうなっておるのだ……!?

 そしてなぜその名を知っておるのだ……我はそんな過去のことは話した覚えはないぞ……」


 「えっ」


 「えっ」



 あ、そうなんですか。へぇ。



 「じゃなくて!! あんた本当に人のこと言えないじゃないですか!! 何やったんですか、正直に言ってください!!」


 「う、あ、あれは過去のことで……それよりも萩よ、お主”変化”が溶けかけて相当恐ろしい姿になっていることは自覚し」


 「山吹様?」


 「うむ。ただそこらの山という山を駆け巡って妖どもの集落ごと食らってきたまでのことである。当時の山神にこっぴどくとっちめられてのう。それからは、うむ。あの頃はあまり思い出しとうないぞ……」


 「山吹様……」


 「わ、我はきちんと話したではないか!!」


 「私と取引をしませんか」


 「む? 取引とな」


 「はい。山吹様はさっきこの子を罪人と言いましたね。私も近頃の事件にはいい気分はしませぬ」


 「で、あるから……いいや、我は何も言うてはおらぬぞ。萩や、だから睨むでない! 瞳孔が開いておるぞ!!」


 「……話を戻します。ですからすぐに殺して何の苦も与えずに終わらせるというのはいささか刑が軽すぎるとは思いませぬか……?」


 「と、言うと……?」


 「ええ。ですから刑はその罪にあったことをしなくては釣り合わないと言っているのです。その子供は数多くの木々倒していった。そうですよね?」


 「萩や……おぬしまさか……!?」




 さすが、山吹様は頭の回転も速いようだ。眷属の俺の考えていることなど手に取るようにわかるらしい。だから俺は笑顔で答える。



 「簡単に殺してしまってはつまらない、倒されていった木々たちもそれでは浮かばれないでしょう。ですから、ゆっくりと、時間をかけて罰するのです。


 つまりは、




 その子も山吹様の眷属にしてしまえばよいのです!」


 「萩や、我とてそのような残虐なことは……うむ?」


 「へぇ、山吹様にもあの修行がどれだけ恐ろしい物なのか自覚があったのですか。それならばちょうどいいじゃあないですか。あの修行をその子にも味わわせてやればよろしいかと。さすれば私には弟弟子が出来、山吹様も罰したいだけその子を罰すれる。とてもいい条件だとは思いませぬか?」


 「えっ」


 「では早速はじめてくださいよ。うふふ、私にもとうとう弟弟子が出来るのですね! ふふっ」


 「え、いや、萩……」


 「山吹様? どうしたのです。ささ、やるなら早くやっちゃいましょうよ! ふふー、私実は一人で修業をするのは少し寂しいと思っていたところなのです。その子とともにやれるのならば、私、もっと頑張っちゃいますよ!」


 「む、むぅー!!」



 よく分からないけれど俺の前世には弟だか妹だかは分からないが、下に兄弟を持っていたような気がする。だからたまにふと寂しいと思うことがあった。しかし、これからは後輩が出来るのだ! 小さくて可愛い後輩である! 思わず尾が揺れる。


 ……ハッ!! 後輩が出来るのならもっとしっかりしなくては!! 後輩に恥ずかしいところは見られたくないものである。って尾!? いつの間に出ていたのだろう。ってよく見れば”変化”解けかけてるじゃないか。うわー恥ずかしい。さっそくかっこよくないところを見せてしまった。


 もう一度”変化”をし直して……よし。完璧だ。


 まずは第一印象だろう。これは完璧。自分を食おうとした恐ろしい狼と交渉したのだから。きっと子天狗君にとって俺は、ヒーロー的かっこいいお兄ちゃんな存在と化したであろう。


 さっそく子天狗君の元へと向かう。



 「ヒェッ」



 ハイいただきました第一声。全く、すっかり怯えてしまっている。まあ、あれだけ山吹様の殺気を間近で受ければこうもなるか。ふむ。


 子天狗君の前に正座をする。小さな体はビクリと大きく震えて後ずさる。そしてきれいに三つ指をついて、



 「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」



 なーっ!! 全く、どれだけトラウマ与えてんだあの神は!! こんな小さな子に土下座なんて最終手段を使わせるとは……やっぱり後で山吹様の黒歴史とやらを根掘り葉掘り聞いてやろう。あれほどつらいものはないからなぁ。



 「ははははは、萩や、今変なことを考えはしなかったか!?」


 「お黙りくださいませ山吹様」


 「うぬう」



 相変わらず地面に伏せ、震えている子天狗君を見やる。ふむ。この調子だとあまり近づかない方がこの子にとってもいいかもしれない。とはいえ、さすがにこの距離は離れすぎだと思う。間に丸太が縦に一本納まりそうなスペースがある。


 いそいそと距離を縮める。しかし、子天狗君は謝るのに一生懸命なのか、気づいた様子がない。これはもう少し近づけそうである。


 あと五メートル、四メートル、三、ニ……



 「ごめなさ、ごめんなさヒッ!?」



 残り五十センチ。子天狗君の前に腰を下ろす。子天狗君はびっくりしているのか、固まってしまって何の反応も示さない。これはしめた、今がチャンス。



 「子天狗さん」


 「ッ」


 「私は


 ”渓谷山に宿りし豊穣の神、大狼山吹神たいろうやまぶきのかみの眷属たる水面上萩(みなものかみはぎ)にございます”


 これからよろしくお願いいたしますね」



 口上を述べたうえで、にこりと笑う。敵意がないことを示すには笑顔が大切。こわくないよーこわくないよー。ホーラこわくないよー。


 ちなみに口上は正式に挨拶するときなどに使い、霊力をもってして成立するために個人個人の証明書

の役目も果たすらしい。山吹様はそんなようなことを言っていたが、詳しいことは忘れた。



 「……! あ、う」


 「ふふ。あなたにも直に名が出来ます。そうしたら改めて教えてくださいね」


 「……う……」



 子天狗君はまだ怯えはしているものの、少し緊張を和らげることは出来たようだ。

俺が今できることはここまでだろう。くるりと踵を返し、その場から離れる。


 後はゆっくり眷属の儀式でも何でもやってもらえばいいのだ。ふ、ふはははははっ! これでついに、俺に後輩が出来る! 下準備もばっちり、これぞ完璧!


 さぁて、明日からはミスは無しだ。すべてを完璧にやりこなし、素晴らしい先輩に俺はなるぞ!





 木々たちの間を駆け抜け、龍は笑った。

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