第壱話 俺は池!?
ひゃっほうようやっと始められた3年間ネタを練り練りして創った現時点のパーフェクチュの小説でござる(白目)
目が覚めたら池になっていたんだ。
え? 何を言っているのかよく分からないですって?
俺が一番この状況に疑問を覚えているんですよ本当に訳が分からないよ、いったいどうしてこんなことになってしまったんだ……しかもこうなる前のことは、頭の中に霞がかかってしまったように上手く思い出すことができない。いや、一つだけ覚えていることがあった。
”白紙に戻りたい”
そう強く願ったことだ、俺は一体何をしていたんだ、何をそんなに思いつめていたんだ、それからどうしたんだ、だだだ。そのせいで今俺はこんなことになっちまっているのですがそれについてどう思いますか過去の自分さん!?
いや、何も特別変なことをしたわけではない、と思う。たぶん。おそらく。きっと。俺はいたって普通の人間であったはず。名前も顔も覚えてはいないが。あ、顔は覚えている。至って凡人だった。
とまあそんなことはどうでもいい。いや、どうでもいいなんてことはないのだがこの際おいておこう。話が進まない。
実は意識自体は今よりももっと前からあったのだ。こう、まどろみの中にいるような、うすぼんやりとした感覚だった。ただ漠然と俺は”ここに居る”ということだけを認識していた。
波のように音連れた意識の波長。それがここ最近短くなってきていて、今日初めて俺は気づいた。
”あれ、俺池になってね?”
と。
気づいてからしばらくは
”あー、池になってるやまあいっか”
などと、どこかふわふわとした心持だった。だけれど、まともに思考ができるようになってきたつい先の刻。ようやくこの異常性に気が付いたのだ。
それに気が付いたときの俺はパニック状態で、水面にさざ波が凄い勢いで立ち上っていたりしたものだが、焦るということは疲れる物なのである。俺はそのうち
”わぁ、お空がきれいだなぁ”
だの、
”オンナノコ落ちてこないかなぁ”
などと、別のことに思考を切り替えることに専念した。現実逃避とも言う。
そんなこともあればだんだんと落ち着いてくる。そして同時にブルーにもなってくる。現実逃避中、俺はあることを思い出していた。それは前世のライトノベル小説という、俺が好んで読んでいた本のジャンルによくある転生物のストーリーについてであった。
主人公は地球から異界に転生し、そこでチートと呼ばれる強大な力を駆使して壮大な冒険の旅へと旅立ってゆく。想像力豊かな俺の妄想空間では常に新たなストーリーが展開されていた。主人公とその仲間たちは実に活き活きと俺の頭の中で活発に動いてくれた。
そして俺は思ったのだ。
”あれ? もしかして俺ってそのパターンに直面中なのか?
チートな能力を持ち、美女ハーレムを結成。かぁいいオンナノコたちとキャッキャウフフなハプニングがいっぱいの、魔物やら魔王やら奴隷商人をフルボッコにしつつ送る、バラ色人生が待ち受けるあの転生チート伝説を送る運命にあるのか!?”
そんなわけはない。浮ついたアホ思考から発信される”キャッキャウフフなバラ色人生計画”は俺が池であり、もちろん顔など存在せずイケメンよりかそれ以前の問題であるただの水であり、当然チートなど存在しない数百年前にお山に染みこんだ雨水が地下でろ過されて今この瞬間にも湧いている湧水である、と気づいた時点で途切れることとなったのだ。バラ色人生? 俺に待ち受けているのはブルーな池生だよ水だけにな!
というか何で池? 一番自我が宿ってはダメなやつじゃねーか。池なんて枯れて蒸発するまで終われないどころか無機質だ。
え? こっからこの場所の地形が変わるぐらいの歳月を生きなければならないのか? 俺が? その証拠を示すように今現在この瞬間にもこんこんと勢いよく湧き出ているよこの俺がな!!
神様仏様おエライ様方、俺はどうして池なんですか。もっと何かなかったんですか。せめて! 有機物に! して! 自分の意思で動きたいのですが。俺が前世に何をやったというんだ! このままこんな山奥のだーれもいない場所で独りさびしくボッチに生きて行けと? 兎は一匹でもたくましく生きて行けるが、俺はさみしいと死んじまうんだよ心がな!!!
あーあ、どうしてこんなことになったんだか。せめて手がほしい、足がほしい、自由に動き回れる体がほしい。どうせならここから見えるあの空を飛んでみたい。地面を駆け抜けこの山の木立の中を走り回りたい。
神様仏様おエライ様。俺が何かしてしまったというのなら償いますから、新たな命を全うに行きますから、お願いします。どうか、どうか……!
空に向かって懇願した、その瞬間、
俺の中を一陣の風が吹き抜けた。
轟
長い間気絶をしていたようであった。ふと目を覚ませば、そこは見慣れた自分のベッドの上。また巡り巡るはいつもの生活。
……何てことはもちろんなかった。聞こえてくるのは森の音。鳥の囀り、水の音、さわさわ揺れる木の葉たち。香るのは森の香り。雨のにおい、土のにおい、苔のにおい。
目を開けると、映る景色は緑色。空を仰げばおてんとうさまの優しい光。息を大きく吸い込んで、森の空気を堪能する。おいしい。
地面に足をつき、伸びをすると欠伸が出た。どうやら丸まって眠りこんでいたようだ。
ふと、何気なしに横を向いた。池があった。
あの池は俺だ。小さな池である。じゃあ俺は何なのだろう。ああ、俺か。
ボーッと空を見上げる。うん。今日もいい天気だ。
ん?
ちょ、待て待て待て。あの池は俺だ。で、俺も俺で……。
急いで池に駆け寄る。水面に大きな爬虫類の顔が現れた。
「ぎゃあああああああああッ」
もんどりうって後ずさろうとしたものの、自分の体に絡まってしまった。何? 何なの!? 一体全体どうしたってんだよ!?
と、目の前に白い鱗に覆われた長いしっぽがあった。不思議な鱗だ。まるで水みたいな変な質感。
っとそうじゃない。真面目に観察している状況じゃない。現状況をしっかり把握しなくては。
再び池に近づく。やはり現れる爬虫類。反射的に体がびくりと震えるのが分かったが、ここはぐっと我慢である。爬虫類をよく見る。ん? これ、水中にいるんじゃない! 水面に映っているんだ!!
バッと後ろを振り向く。しかしそこには何もいない。また水面を覗き込む。やはり映っているその爬虫類は、とこか驚いたような表情をしていた。
「えっちょ、まって、これ俺? 俺なの!?」
声を上げてみるも答えてくれるものは当然いない。しかし、俺の声に合わせてその爬虫類の口もぱくぱくと動いたのだから、これで証明されてしまった。この爬虫類は、俺だ。
地面に体を投げ出して丸まる。鱗に覆われたわが身を見て、ため息をついた。
あれから自分の体をじっくり観察した。もちろんパニックにはなった。この小心者の俺がこんなびっくりドッキリ事件が起きて驚かないわけがない。しかしそれも時が解決する。俺は、この全身を把握するため半分ほど池本体の方に意識を移してみた。やり方は何となく感覚で分かった。するとおかなびっくり、そこにいたのは龍であった。西洋に伝わる翼のあるドラゴンの方ではない。東洋の蛇のような龍である。
耳の前あたりから鹿のように枝分かれした一対の角、白い鬣が頭から尾までフサフサと生えている。
体は太さの割に長くない。とはいってもそこらの樹木の高さを軽く超えるであろうその胴体には短く細い四肢がおまけのように生えていた。俺は他人事のように思った。あんな折れそうな足でよく体をささえられているな、と。
それから両の鼻の穴の少し上あたりから髭が二本、力なく垂れ下がっていた。絵画の中の荒々しい龍を想像していただけに、この目の前のお世辞にも強そうには見えないこの龍、つまり俺を見て少なからずため息が出てしまうのであった。
といった経緯があって俺は今現在ふて寝していた。体が出来たことには感謝でいっぱいなのであるが、やはり欲は出る。だってなよなよしいんだもの。俺の前世はやっぱり人間じゃなくてイワシだったのだろうか。
そんなことを思っているうちに睡魔が襲ってきた。瞼が次第に下がってくる。
目が覚めたら全部夢だった、なんてことはないだろうか。そうわずかに希望を残して俺の意識は深く沈んでいったのであった。
※主人公はイワシではございません。