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7話「魔霊師の少女」

主人公頑張って(切実)


 かつて17歳まで生きてきて、こんな目に遭うと想像したことがあっただろうか……。


 「ひえええ……。どうしようもないな、これ……」

俺は不覚にも泣き言を言ってしまった。

「あと少し、あと少しで集落に出ますからっ! 頭を低くして!」

パスンッ!という破裂音とともに数メートル先の木に弾痕が露わになった。火を見るよりも明らかに俺たちが狙われている。


 俺の作戦としては、戦力と体力において他のDUOに圧倒的に劣る分、できる限り交戦を避けて残り人数が少なくなるまで隠れているつもりだったのだが……。


 早くもそれが頓挫していた。開幕と同時に右往左往していた俺たちに対し、相手は真っ先に拳銃を発見するとそれを所持したまま、こちらにその攻撃的な矛先を向けてきたのだ。

 大体、それぞれのDUOはスタート地点が数百メートルずつ離れているはずなのに、なんであいつらわざわざこっちに来ちゃうんだよ!


 またもや、発砲音とほぼ同時に近くの木の幹にBG用の特殊麻痺弾が着弾する。ユキは、驚いたことに全く動じていないが、慣れない俺は思わず体を縮こませてしまう。


 「この発砲音……M1903ハマーレスか?」

俺はユキに尋ねる。

「ヒロ君、何の銃だかわかるの?」

ユキは不思議そうな顔をした。

「不確定だけど昔、これとほとんど同じ発砲音を聞いたことがある。もし本当に相手の拳銃がハマーレスなら……」

「モデル1903ハマーレスの装弾数は8発だったよね、確か」

俺はコクリとうなずいた。元の世界では古くて大した知名度のない拳銃だった。けれど、俺はこの銃を知っている。元の世界でやっていたFPSゲームのうちの一つに登場したのだ。そのゲームでは発砲音までが実物を元に忠実に再現されていた。

 その音に今俺たちが撃たれている音がまるでそっくりな為に、そういった仮説を立てることができたのだ。


 「ここが森の端みたいだな。抜ければ平坦な集落に出てしまう。森の内部を迂回しながら、相手のリロードタイミングで姿をくらまそう」

俺はユキの耳元で呟いた。

 これはゲームではないんだ。いくら相手が銃器に手慣れていたとしても、弾の再装填には時間を要するはず。相手の所持弾数次第では、もしかしたら弾切れを起こしてくれるかもしれない。


 俺の提言にユキは無言でコクリと頷いた。隠れていた岩陰からお互い左右に分かれて別の場所へと移る。相手も恐らく2人いるはずだが、さっきまでの発砲音から見るに拳銃は一丁しかないようだ。それなら、2人同時に別方向に動けば迷いが生じて、命中率が下がってくれる……はず……。


 ユキは15メートル、俺は10メートルほど、別の位置へと移動した。案の定、相手は闇雲に発砲したが、こちらには一発たりとも当たらずに済んだ。


 間髪入れずに俺は足元に転がっていた石を明後日の方向に投げる。

 腰の高さほどの丈がある草の茂みに落ちた石は、ザザザッという音を立てて草を揺らした。


 その音を聞き逃さなかった相手は、すぐさまその茂みの方に拳銃弾を乱発した。ここまで、俺の想定通りだ。まさかここまで上手くいくとは思わなかったが、このまま上手くいけばなんとかこの危機を切り抜けられるはず……。


 敵が発した発砲音は、ここまででほとんど時間を空けずに7発……あと一発撃てば再装填リロードが必要になるはずだ。


 

 その時……数十メートル離れたところからこちらに走り寄ってくる人影が現れた。その容姿は、まぎれもなくユキだ。

「ユキッ! まだだ!!」

しかし、一度物陰から姿を現した以上、相手に位置がばれてしまった。このまま狙い撃ちされてしまう……と思った矢先だった。


 ガサリ……。


 数十メートルほど離れた木の陰から、麻の袋を頭に被り顔すら見えない不気味な大男が現れた。右手には小型の拳銃――M1903ハマーレスを持って。

 さらにその隣の木の陰からもう一人、同じように麻の袋を被った男が現れた。こちらの男は、長い刃物を手にしていた。長いノコギリのような独特な風貌。差し込んだ木漏れ日で、滑らかな刃がギラリと輝いた。

「……っ! マチェテ……ね」

ユキが独り言のように呟く。頭をすっぽりと麻の袋で覆った不気味な男二人は、それぞれ刃物と銃器をこちらに掲げながら、既に勝利を確信したかのようにゆっくりと間合いを詰めてくる。

 俺は、背中にじわじわと嫌な汗をかいていた。


終わりだ。


 俺たちは客観的に見れば、細身の男と華奢でまだ年端も行かない少女のペアだ――さらに未だ非武装であることまで悟られてしまっている。強引にでも力づくで距離を詰めても勝てると思われているんだ。

 俺の攪乱、陽動作戦なんて所詮子供だましだったのか……。


 一人の男が、ジンワリと拳銃の引き金に指をかけた。


 撃たれるッ! 


 やばい、やばい……ユキは大丈夫なのだろうか。確認したいけれど、あまりの恐怖に首すらも動かせない。俺はただ、意味もなく自分の額に向けられた拳銃の銃口を見つめることしかできなかった。


 

 俺の前方、遥か遠くで銃声が鳴り響いた。パァン、パァンと連続で二発分。だが、撃ったのは間違いなく目の前の男ではない――ッ!


 間髪入れずに、目の前の男たちの拳銃と刃物がはじけ飛んでいく。そう、その何者かが放った銃弾が男たちの武器を持っていた腕に命中したのだ。

「ぐああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

2人はほぼ同時に右腕を押さえると、発狂しながら、その場にうずくまってしまった。


 間違いない。この攻撃は……スナイパーだ。


 BG用麻痺弾……確かに命に別状はないのかもしれないが、手を伸ばせば届くほどの距離で突然起こった事態に、俺は足がすくんでしまった。こんなにも屈強そうな男が、叫び散らし倒れこむほどのショックを与える銃弾。こんなものを食らったら、俺は……。


 目の前の惨劇に目を取られていた俺のことを、何者かが右腕を強引に掴んで立ち上がらせた。そして、そのままとんでもない力で引っ張られ、思わず体が宙に浮いたかのような感覚に陥った。


 「誰かが漁夫の利を狙ってる! 今のうちにあの集落まで退こう」

俺の腕を引っ張った者、それは紛れもなくあの銀髪の少女――ユキだった。その目は全く怯えていない。その蒼い綺麗な目が、必死に前を向き続けようと奮闘している。


 俺はできる限り力強く頷いた。

彼女は、強い。こんな状況でも混乱せず、冷静に現実を受け止めているんだ。俺だって負けていられない。


 ユキは素早い動きで地面に落ちていたあの刃物、マチェテを拾い上げた。


「……fortisフォルティス!!」


 彼女はマチェテを握りしめ、呪文のようにポツリと呟く。


 次の瞬間、彼女が俺の腕をつかんだまま鹿のように大きく跳躍した。


 「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………お、おいユキィ!」

腕を掴まれたまま、俺は彼女の為すがままの姿勢で、半分浮遊し、半分引きずられている状態だった。視界がグラつく。

 いや、これは控えめに言っても鹿以上の跳躍力かもしれない。とんでもない瞬発力で走り出し、木々の間を瞬く間にすり抜け、十メートル近い高さの崖から飛び出した。


 俺の視界には迫りくる地面が映る。こんな高さから落ちたらタダでは済まないって……!!


 彼女が軽々と空中で俺の姿勢をくるんと変えると、俺をその小さな背中に背負いこみ、そのまま何事もなかったかのように地面に降り立った。俺としては、突然の変態機動に体が(主に三半規管が )ついていかず、吐き気とはらわたが湧き上がるような不快感を催していたのだが。


 先ほどまで俺たちがいたあの森林地帯から百メートル以上離れたところに存在していた小規模な集落が早くも近づいてきた。

 小柄な体に似合わず、まるで獰猛な獣のような速度で疾走するユキに対して、俺は腕を引かれ、半ば引きずられた状態だった。


 「お、おいユキ! 前の集落に人がいるんだがァ!」

俺は確かに見た。FPSゲーマー時代から、目の良さと耳の良さが売りだったのだ。一瞬でも見逃すことはない。間違いなく、男2人組が一軒の平家に入っていった。


 そんな俺の叫びが聞こえたのか、それとも聞こえてないのか――突如、俺の腕をつかんでいたユキがその手を離した。ほんの一瞬だけ中空に浮いた俺の体は、そのまま速度を保って全身で慣性の法則を感じたまま砂利の地面に激突した。


 ズザザザザザ――


 「……あ、危ねえッ!……」

背中を走り抜けていく痛みに耐えながら、俺は起き上がってすぐさま口を開いたが、当のユキは既に平家二軒分を走り去り、人影が見えた家に急接近していた。


 何も知らずにその平家の玄関から出てきた、大して容姿に特徴がない男二人は、異常な事態を前に瞬間的に体を硬直させてしまっていた。

 「BG」ではほとんどいない女性参加者……それも年端もいかない少女が、左手に刃渡り60センチもある銀色のマチェテを振りかざし、ヒョウのような様相で突っ込んできたのだから、無理もない。


 男2人はすぐさま手にしていた拳銃をその少女に向けて構え、発砲する。だが、それが彼女の体に当たることはなかった。


 マチェテの刃を斜めにし、顔の前に構えたまま肉薄する。一発、二発……それらはマチェテの幅広い金属部で受け流された。続く三、四、五発は彼女の人間を超えた俊敏な動きで躱された。

 一気に距離を詰めたユキは、マチェテをおもちゃのバドミントンラケットのように軽々と振り回し、男たちの所持している拳銃に叩きつけてそれらを大破させ、そのまま手から叩き落させた。


 「……なッ! コイ……ツ!」

一人の男が苦悶の表情を浮かべ、なすすべがない状態でユキの飛び蹴りを腹に食らった。そのすきに圧倒的な身長差を利用して反撃しようと上からこぶしを振り下ろしたもう一人の攻撃を、彼女はすれすれのところで回避し、マチェテで首筋を殴りつけた。マチェテの刃が付いていないほうで殴ったのだが、もともと大柄な刃物なために鈍器としても十分だったらしい。そのままその男は崩れ落ちた。


 こうして、気が付くと、その集落にいた「先客」の男2人は、ユキによって難なく片付けられてしまったのだ。


 ユキが腕を大きく「丸」の形にして、俺にサインをした。どうやら「問題なし。安全」という意味らしい。


 「す、すごいというか……足も速いし、力もあるし、反応もいいし……。ユキ、何者なんだよ。今のは一体……」


 「ユキはね、ただの魔霊師。――礼装は 『金属の刃物全般』。称号は『confirmaコンフィルマ』……その名前のまんまなんだけど、金属でできた刃物を所持しているときに、強化(fortis)の術式の使うことができるんです。ですから……」

ユキは恥ずかしそうに両手を腰の前で交差させながら言った。

「こう見えて、結構武闘派で……」


 結構、というか相当の武闘派だと思うけどそんなことはどうでもいいんだ。さきほどのあの力、やはりこの世界には何か魔法のようなものが存在するということか……。しかも、ユキがその力を有しているらしい。

 通りで、ユキだけが異常すぎる警備にさらに拘束具まで付けられていたわけだ。彼女は、人を超えた力が使えるということか……。


 「悪いんだけど、もう少しその『魔霊師』というものについて聞かせてもらってもいいかな?」

彼女のことが知りたいという気持ちももちろんあった。彼女自身にも興味はあるし、もしユキがそんなにも強力な存在なのだとしたら、この「BG」だって案外簡単に優勝できるかもしれないのだ。

 けれど、それ以上に俺は、この世界のことがもっと知りたい。


 「ヒロ君……魔霊師のことも知らないの? うーん、でも一緒に行動するわけだし、知ってたほうがいいもんね」

 ユキはさっと一番近くの民家を模した平家に入って、安全を確認してくれると俺を手招きした。

「とりあえず、この屋内に入って様子をみよ」

俺も素直に頷き、後に続く。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 「……って感じで、ユキの場合はナイフとか短剣とか……このマチェテみたいな、金属でできた刃物を触ると、体の機能を強化できるの。この広大な大地にはね、普通の人は感じないけれど力が宿ってる。その力――霊力を自分のために還元できる存在、それが魔霊師なんだよ」


 ユキはあまりお喋りなほうではないと思っていた。でも、俺の質問には答えてくれるし、説明も上手い。まるで年上の、大人の女性と話しているみたいだった。きっと頭もいいのだろう。


 俺らは引き続きその平屋の部屋の中――小さな小物入れからタンスの中までを物色しながら話をつづけた。そろそろ、武器になりそうなものを見つけないと本当にまずい。他の敵たちは恐らくもう銃器を手に入れているはずなのに、アイテム運がない俺たちは一向に使えそうなものを得られていないのだ。


 「魔霊師は、産まれたときから魔霊師なの。霊力を使える希少な存在としてこの世に生まれてくる。その時に神様から与えられたその力は、前世に基づいているって言われているんだ」

「前世?」

「そう。ユキは、身体強化だから……多分前世は……何だったんだろう?」

彼女は笑って言った。

「うーん、体をよく使うってことで、狩猟する民族とかだったのかもな」

頓珍漢な答えだと思ったけど、ユキの気に障るようなことは避けて、当たり障りのない回答をした。

 

 そんな俺の返答を聞いて、ユキがクスリと笑った。

「でね、本当の話か分からないから信じなくてもいいんだけど……そんな魔霊師の中に、『天上の存在』と呼ばれている人たちがいるらしいの」

ユキがおかしそうに言った。まるで、子供がおとぎ話を語るかのように。

「『天上の存在』って言って、空の上から降りてくる人たちがいるんだって。変な服装をしてて、変なモノを持ってて。それで、いろんなことをこの世界の人たちに教えてくれる。――その人たちも、みんな魔霊師だって言ってた……だからね……」


 ユキはそこまで言うと、急に言葉を詰まらせた。喉の奥から絞るように最後の一音を発したが、そこで止まってしまった。唇を震わせ、目には涙をためている。


 先ほどまではあんなにもはつらつとして元気だったのに、何かの弾みに辛いことを思い出させてしまったようだ。


 「魔霊師だからって……差別されるなんて、おかしいですよね。『天上の存在』だって魔霊師なのに。魔霊師がいろんなことができるのは、みんなの個性みたいなものなのに……。魔霊師だからってこき使われて、従わなかったら罰せられるなんて、そんなのっ……!!」


 俺は思わず彼女の手を握りしめてしまった。自分でもどうしてそんな大胆なことをしてしまったのかわからない。でも、この子だけは放っておけない気がした。俺の腕が勝手に動いてしまったのだ。


 「俺の知ってる世界は……奴隷もいないし差別もない。みんなが平等で平和に生きていたんだ。だから俺にはわかる。確信を持って言える――ユキのことを苦しめている周りの人たちは、絶対におかしい」


 元の世界だって、本当に平等だったわけではないと思う。俺だって毎日幸せだったわけではなかった。女の子に囲まれて、頭もよくて、スポーツもできて……そんな完璧な人間を羨んで、そして憎んでもいた。ゲームをやっていることを小ばかにされた時は、本気で憤ったりもした。


 だが、それは個人での話だ。


 ――元の世界では、奴隷だって差別だって悪いこと、いけないことだと言われていた。そんなものは、歴史上の汚点だった。だから、それが当たり前に蔓延してるのは、たとえ別の世界であったとしても間違っているんだ。


 「俺は、ユキには自分が本当にしたいことをしてほしい。だから……暫くの間……俺と一緒に戦って、力を、貸してください……!」


ユキはうっすらと涙ぐんだ目をひと拭きするとニッと笑って頷いた。

「……うん!」


 この子は確かに寂しいオーラを背負っている。でも、きっと根は明るい女の子なんだ。その顔をみて、改めて確信できた。

 

 

 「はーい、じゃけん武器でも探しましょうねぇ」

俺は気分を変えるためにわざと素っとん狂な声を出して、隣の部屋を物色しに行った。我ながら落ち着いて考えると恥ずかしいことをしてしまった。「俺のために力を貸してくれ」なんて女の子に言う言葉じゃないだろ! と自分で自分に怒りをぶつける。


 それと、もう一つ俺にとっては気になる事があった。ユキが教えてくれた「天井の存在」だ。どういう人なのかは知らないが、空から降ってくる……そして、この世界では珍しい服を着ている、この世界には持っていないものを持っている……これはまさか……。


 元の世界の人間のことなのか――?


 いや、考えすぎか。ここは異世界なんだし、神様とかが降りてくる特別な日でもあるのかもしれない。


 でも、もし元の世界の人間が「天上の存在」と呼ばれている人たちならば、俺も……何か魔霊師としての能力が与えられているのかもしれないのだ。ユキは確かに「天上の存在」は魔霊師だと言っていた。

 

 そういえば、この世界で初めて会った人であるクリスにも、「あなたは魔霊師さんなのかしら?」と言われたんだっけ……。


 その時、唐突にドアをたたく音が室内に響いた。


 ドンドン、ドゴォン!! と、誰かがとんでもない力でドアをノックしている。

思わずビクンと体が伸縮する。あまりに突然のことで、大きな波のような恐怖感が全身を襲った。


 「……ユキ、逃げろ!」

俺は別の部屋にいた彼女に大声で言った。

「そんな! ユキが逃げたらヒロ君はどうするの?!」

ユキが壁に立てかけていたマチェテを再び手にした。


 悠長にしていたが、やはり誰かに勘づかれてしまったか……! もっと早くに装備を整えて移動するべきだった。

 だが、今更そんなことを後悔しても遅い。とりあえず、何か使えるものは……。


 焦りながら、俺は隣にあった簡素なベッドの下を見た。埃がたっぷりと積もったそこに、ふと、拳銃のような面影を見かけた。

「ユキ……! ここに拳銃が、拳銃がある!」 


 ユキは別室にあった机を倒し、ドアの前に置いていた。恐らくバリケード代わりということなのだろう。


俺は慌ててそれを掴みだそうとした。その隣には、その銃のものとみられる弾薬の入った箱も置かれている。

 武器がある、助かった……。


 様子を見ているのか、今だけはドアをたたく音も収まっている。


 俺は急いでその銃を掴み上げた。暗いところに置かれているせいで、大まかな形しかわからないが、そんなことを気にしている場合ではない。


 「……ンつッッ!!!」

 

 拳銃を掴んだ右腕に猛烈な痛みが走る。狭いところに腕を伸ばして突っ込んだからか? いや、そんな感じじゃない。外部から何か衝撃が加えられたかのようだ。なぜか、その銃を手にしたとたん、電気ショックのような……漏電したコンセントを握りめてしまったかのような痛みが腕を走ったのだ。


 ドゴォォォォォン!!!


 俺が右腕を抑えていると、まるで自動車でも突っ込んできたかのような爆音が建物全体に響き渡った。ドアの近くは砂煙がもうもうとしていて、よく視認できないが……、


 間違いなく、ドアを破壊されてしまった!


 侵入される! この狭い平家の中に敵が!



 「いや……だいぶ年取ったからできないかと思ったけど、まだまだ筋肉で開くモンなんだなあ。筋肉は鍵にもなる、はっきりわかるんだね」


 無くなったドアの跡をくぐるようにして屋内に入って来たのは、一人の黒い髭を生やした大男だった。まるで、ここが自分の家であるかのような、自信に満ちた足取りで侵入してくる。

 肩に担いだスコープ付きの大きなライフル銃をそっと下ろしながら、その男は言った。

「足が速いもんだから見失ってしまったんだが……筋肉でごりごり探し当てたのさ。そう、君たちに会いたくてね」

 そういうと、彼は鍛え上げられて大木のように太い腕をこちらに差し伸べてきたのだった。






 



 











マッスルサイドキャラがマイブームです

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