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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第5章 優しい嘘
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第29話 それぞれの想い 

「僕が悪いってこと?」


 子供ながら僕は少し投げやりに聞く。お姉ちゃんは腕を組んで唸っている。

「良いとか、悪いとかじゃないのよ。私はさ、凛ちゃんの応援もしたかったし、叶夢ちゃんにも前向きになって欲しかったの。それは結果として、嘘を付いたことには変わりないけど、私は後悔してないよ」


 謝罪どころか、清々しい顔で胸を張っている。なんだか、うまく正当化されたな。


「葵ちゃんと付き合った切っ掛けは、強引だったと思うよ。でもさ、叶夢ちゃん、ずっと一人でいたらダメになってたんじゃない?」


 確かにそれはある。皐月が死んでから、誰とも付き合う気はなかった。


 そんな時、葵ちゃんが現れ、強引に閉ざしていた僕の心に入り込んできた。付き合って、四カ月という短い月日ではあったが、僕はいい意味で吹っ切れつつあったのは事実だ。


「凛ちゃんもそう。皐月ちゃんの葬式の時、凛ちゃんを見て、すぐわかったよ。叶夢ちゃんのことが好きなんだなって……。ずっと叶夢ちゃんの背中を目で追ってたもん」

「そうなの?」

「本当に君は鈍感だね。まあ、凛ちゃんはそういう叶夢ちゃんが好きみたいだけど」


 なんだろう。なんだか素直に喜べない。


「私ね、凛ちゃんに葬式の時、話しかけた後、すぐ直球で聞いたんだ。叶夢ちゃんのこと好きでしょって……。そしたら、凛ちゃん、露骨に動揺した顔したよ。あれば母性くすぐるよね。あの時、皐月ちゃんの葬式だったから、あまり踏み込んで話しは聞けなかったから。その場では、連絡先を交換したの」

「ということは、それから何回かは会ったんだ」

「まあね。実際、会ったのは一回だけど、連絡は頻繁に取りあっていたよ。私もそこまで干渉する気はなかったんだけど、凛ちゃんさ、叶夢ちゃんのことは好きだけど、絶対に告白はしないって決めていたから」

「なんで?」

「私は星野凛。皐月の親友だから、絶対に裏切れないって。そこだけはね、いくら背中押しても、聞こうとしなかった。叶夢ちゃんの想いも強かったけど、親友である皐月ちゃんを裏切ることをしたくない、その気持ちはもっと強かったわ」


 凛ちゃんの複雑な心境を思うと僕は胸の痛みを覚えた。お姉ちゃんは僕の顔を覗き込みながら、話しを続けた。


「凛ちゃんは叶夢ちゃんと付き合った後もやっぱり、辛かったみたいだよ。

 これはこれで皐月を裏切っているんじゃないかと、思ってたみたいだし。なにより、凛ちゃんと葵ちゃんの一人二役なんて、いずれ叶夢ちゃんにバレる時がくるだろうって……。その期間が長ければ、長いほど、知った叶夢ちゃんは傷付くんじゃないかって、悩んでいた。

 だからさ、昨日連絡があった時、凛ちゃん、私に言ったのよ。返ってバレて良かった。叶夢さんには悪いけど、私はこの四カ月、叶夢さんと一緒にいられて幸せだった。夕菜さん、本当に今まで支えてくれて、ありがとうございましたって……そう言って泣いてた」


 その時のことを思い出しているのだろうか? お姉ちゃんは感極まったように涙声になり、目も少し潤みだしていた。


 僕の視線に気づいたのか、お姉ちゃんは慌てて、服の裾で目を拭くと、僕の肩を叩いた。


「まあ、だからさ。ごめんね、叶夢ちゃん。私は嘘を正当化したけど、嘘は嘘だし。叶夢ちゃんを傷付けただろうからさ。

 でもね、これだけは知ってほしい。今回の件は、私が提案した嘘に凛ちゃんは乗っかってくれただけだから。それと凛ちゃんは結果として、嘘をついたかもしれないけど、叶夢ちゃんを騙したとか、からかったとか、そういう軽率な行動じゃないことは絶対に理解して。好きは計りでは計れないけど、凛ちゃんはきっと皐月ちゃんと同じくらい、叶夢ちゃんのこと大切に思っていたから」


 そう言ってお姉ちゃんは僕の肩から手を離した。


「話しが長くなったけど。今日、このことを伝えたかっただけだから。またね」

最後、早口にそう言うと、お姉ちゃんはその場を去っていく。僕は呆然と、その背中を目で追っていた。

「あら。誰か来ていたの?」


 不意に後ろから声をかけられ、僕は驚いて振り返る。声をかけてきたのは園長先生だった。


「園長先生。すいません、仕事中に」


 僕はすぐにお姉ちゃんから視線を外すと、園長先生に対して謝った。一方、僕とは逆に園長先生はお姉ちゃんの後ろ姿を目で追いながら、思いがけない言葉を口にした。


「叶夢先生。あなた明日、仕事休みなさい」


 単調な口調で園長先生が思いがけないことを口にする。


「あなた、今日ちょっとおかしかったわよ。他の先生や生徒達もね、叶夢先生、元気ないねって心配したみたいだし」

「えっ。く、首ですか?」

「なんでそうなるのよ」


 つい悲観的に言葉を口にすると、園長先生は吹き出したように笑うが、すぐに心配そうな視線を僕に向けた。


「なにがあったか知らないけど、明日、休んでいろいろ気持ちの整理したらいいんじゃないの。あなた、他の先生達と違って、有給も全然とらないし。この機会に有給消化しなさい」

「でも、そうすると他の先生達にも負担が」


 おろおろして僕が言うと、園長先生は少し意地悪そうに笑い、こちらを一瞥する。


「大丈夫よ。あなたがいなくても、そんな影響ないもの」

「あっ……そうですよね」


 僕は園長先生の言葉にショックを受ける。自分がまだまだ力不足なのか自負しているが、はっきりと言われるとかなり傷付く。


 すると、園長先生はまた吹き出したように笑った。


「嘘よ。あなたは少し抜けてるけど、先生達や生徒達に必要とされている人よ。だからね、今は無理はしないで、休みなさい」


 と、園長先生は自分の気持ちを伝えると、さっさとその場を去って行く。一瞬、反応が遅れたが、すぐに僕は「ありがとうございます!」と大きな声でお礼を言い、頭を深々さげた。


 園長先生は振り返らずに、右手を上げて、そのまま、別の教室に姿を消した。

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