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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第5章 優しい嘘
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第27話 大翔君の助言

『人に優しくすると、人はあなたに何か隠された動機があるはずだ、と非難するかもしれません。それでも人に優しくしなさい。正直で誠実であれば、人はあなたを騙すかもしれません。それでも正直に誠実でいなさい』


 この言葉はマザーテレサの名言で、僕の座右の銘でもある言葉だ。


 今まで自分はこんな風に生きていきたいと思ったが、昨晩はそうなれなかった。


 僕は昨日、凛ちゃんに別れ話を一方的に伝え、そのまま、その場を後にした。凛ちゃんからその後、連絡はない。


 僕は今だに信じられなかった。まさか、あんな形で凛ちゃんに騙されていたなんて。

 いかん、いかん。こんなことではダメだ。気持ちを切り替えないと。僕は教室に立てかけてある鏡を見て、喝をいれるように両手で顔を叩く。


「どうしたの。カナメ先生」

「うわっ。ビックリした」


 誰もいない教室。いきなり、背後から声をかけられ、僕は飛び上がるように振り返る。


「あれ、大翔君? 隣りの教室でこはるちゃんと遊んでいたんじゃないの?」

「ああ。でも、トイレ行って、戻ろうとしたらさ、カナメ先生が死んだような顔して、突っ立ってるから」

「えっ。僕そんな顔してた?」

「してたよ。なんか今日、カナメ先生変だよ。全然、笑ってない。いや、笑ってるけど、作り笑顔にみえる」


 鋭い五歳児の言葉が、僕の心に突き刺さる。


 なんて鋭いんだ。いや、僕がわかり過ぎなのだろうか。そうだとしたら先生として情けない。


「話してみろよ。いつも俺がカナメ先生に助けてもらっているからさ。今日は俺がカナメ先生を助けてやる」


 と、優しい大翔君の言葉に僕は感動を覚えながら、恥ずかしい気持ちになった。


 僕はしゃがんで、大翔君の頭を撫でる。


 こんな小さな子に悩みを話しても仕方ないけど、大翔君の真剣な目を見ると、相手が子供だからといって、受け流すのは凄く失礼なことだと思った。


「じゃあ、相談しようかな」

「おう。任せてよ」


 僕がそう切り出すと、大翔君は任せろ、というように胸を張る。


「先生さ。凄く大切な人に、ずっと嘘をつかていたんだ。それが許せなくてさ」

「なにカナメ先生。彼女に浮気されたの?」

「いや、浮気ではないんだけどね」


 真っ先に嘘といって、浮気だろうと浮かぶ大翔君も大人だなと、複雑ながら少し感心した。


「うん。でも、嘘はいけないな」

「そ、そうだよね」


 腕を組んで大翔君がそう漏らすので、僕は同調したように頷く。


「嘘はいけないことだけど、カナメ先生はさ、相手がどうして嘘をついたのか考えたの?」

「えっ?」


 思いがけない言葉に、僕は不意を突かれた感覚に陥る。大翔君は目を丸くして、しゃがんでいた僕の鼻に指を差した。


「なに、ビックリしてんだよ。カナメ先生がみんなによく言う言葉じゃん。嘘はつかないようしましょう。でも、嘘をつかれた場合は、まずどうして相手が嘘をついたら考えましょう。相手を思いやる優しい嘘もあるから、って」


 確かに……言った。


 僕は大翔君にそれを言われるまで、すっかり忘れていた。全く、人に偉そうに教育しておいて、当の本人はその言葉の意味を忘れていたとは。


「そうだね。ごめん、大翔君。先生、相手がどうして嘘をついたか、そこまで考えられていなかったよ」

「じゃあ、聞いてあげなよ。カナメ先生の彼女なんだろ。きっと、いい人だと思うしさ。絶対に優しい嘘だと思うぜ。それをカナメ先生が許せば、仲直りできると思うぜ」

「そうだね」


 半信半疑に相談をしたつもりだったが、大翔君は今、自分が一番欲しい言葉ではなく、自分が一番必要な言葉を叩きつけられた気がする。


 無垢な子供だからこそ、出せた答えだと思った。


「ありがとう。なんか、話したらすっきりしたよ」

「本当?」

「うん。またなにかあったら相談のってね」

「おう。いつでもいいぜ」


 僕は優しく大翔君の肩を叩くと、大翔君は嬉しそうに口元を緩ませた。


 僕達はその後、こはるちゃんがいる隣りの教室まで戻っていくのであった。

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