第26話 疑念
僕は少しずつ、ジャブを打ちつつ、確信に迫ろうとチャンスを伺う。
「そういえばさ、凛ちゃん、彼氏できた?」
「出来ません」
こちらの前置きない急な質問に対して、凛ちゃんは迷いなく、真顔で即答する。
「いたら、叶夢さんを家に入れませんよ」
「ほう。一応、僕を男として見てたんだ」
「少なくても、オカマや女性だとは思ってませんよ」
少し呆れたような顔をする凛ちゃん。
僕はこの時、また違和感を感じた。なんか前に葵にも同じようなやり取りをした気が……。
「凛ちゃんと葵って、普段どんなことするの?」
「えっ? なんですか、急に」
間髪入れず、僕は続けさまに別の質問をぶつけた。凛ちゃんは少し驚いたような顔をしていたが、特に戸惑う様子はみせなかった。
「ここでゲームしたり、一緒にショッピング行ったり、ですかね」
「ふーん。凛ちゃんって、高校時代何部だったの?」
「えっ? 弓道部ですけど」
「こないだの日曜日って、なにやってた?」
「こないだの日曜日ですか……確か、家にいましたね。これといって、なにもせずにダラダラと。というか、なんでそんなことを聞くんですか?」
普段、自分が絶対にするようなことのない質問の連発に、凛ちゃんは不審げに僕を見つめる。その表情は少し躊躇しており、焦りのような色が表れていた。
凛ちゃんはポーカーフェイスなタイプだと思っていたため、すぐに表情に曇りが出るこの状況をチャンスと思い、すぐに畳みかけることにした。
「あれ、おかしいな。実は先週の日曜日、凛ちゃんの家に行ったんだよ。お昼頃だったかな、今日ある結婚式のことで」
僕がそう言うと、二人の間に一瞬、沈黙の時間が流れた。
凛ちゃんは顔を硬直させ、怯えたような目を僕に向けたまま、なにも言おうとしない。
僕は凛ちゃんの心情を察した。そして、信じたくはないが、僕の抱いていた疑念は勘違いでは終わらなかった。
凛ちゃんが先週の日曜日に家にいたというのは嘘だろう。
そして、僕が先週の日曜日に、凛ちゃんの家に行ったというのも嘘だ。
その嘘を凛ちゃんは知っている。
それもそのはず。先週の日曜日、僕は午前中から、葵とデートをしているのだ。
そう。だから、凛ちゃんはここにいるはずがない。これは僕の想像だが、凛ちゃんに双子なんていない。星野葵という人物は、星野凛が作り上げた仮想の人物だった。
それが僕の疑念から浮かびあがった真実だ。
実は先程、開けた引き出しに入っていたのはネックレスだった。そのネックレスは猫のシルエットをしたもので、葵がよく身に付けているものと一緒だった。そして、それは僕が葵にプレゼントとしてあげたものなのだ。
「なんで、そんな嘘付くんです? 叶夢さんは先週の日曜、葵とデートだったじゃないですか」
冷静を取り戻した様子で、凛ちゃんは僕に確認をとる。凛ちゃんはまだ、白状する気はなさそうだ。
いや、白状ではなく、本当に僕の勘違いなのだろうか。
一瞬、そんな不安が頭を過ぎったが、この状況だ。今更、後には引けない。とことん、問い詰めるべきだ。仮に全て、が僕の推測が勘違いであるのであれば、その時はいくらでも頭を下げることにしよう。
「わかった。単刀直入に言うよ。僕は、凛ちゃんと葵は同一人物だと思っているんだ」
言葉通り、単刀直入に切り出した。途端、凛ちゃんは狼狽したような妙な瞬きをする。
「なに言ってるんですか? そんなわけないじゃないですか。だって、私と葵とじゃ、性格だって、髪型だって全然、違うじゃないですか?」
「凛ちゃんがカツラをつけて、演技すれば可能では?」
「だとしたら私は、主演女優賞ものですね」
と、凛ちゃんは目を逸らしながら、苦笑を浮かべる。
確かにそうだ。しかし、今思えば、演技が上手かったのか、単に僕が騙されやすかったのかは疑問なところである。
「仮にそうだとして、いつから叶夢さんは私と葵が同一人物だと思ったんですか?」
真意を探るように、今度は凛ちゃんの方から僕に質問が飛ぶ。
誤魔化す必要ないと思い、僕はそのまま、コーヒーを出されたくだりを説明した。都合がいいかもしれないが、引き出しの中を見たことは伏せておいた。
「そういうことですか。でも、それだけで疑いをかけるのは、安易ではないですか?」
「そうだね。でも、それなら凛ちゃんが、疑いを証明するのも簡単だよ。ここで、葵に電話して繋がれば、葵は実在する人物と証明できる」
「仮に電話に出なかったら? それで、黒としますか?」
「いや、それではあんまりだからね。まあ、この場で確認できることもあるよ。例えば、葵はショートカットだけど、凛ちゃんは髪が長い。すると、それはカツラになるよね。
それと葵は左肩にホクロがあるんだ。さっき、ネットで検索したけど、ホクロは生まれた後に出来るものだから、双子であっても同じ位置につくことはないんだ」
僕がそう言うと凛ちゃんは黙って、目をこちらから背けた。返す言葉が浮かばない様子だ。
「もし、僕の言う疑念が当たっているなら白状して欲しい。ここで、凛ちゃんの髪や肩を無理矢理、確認するようなことはしたくない」
これは本音だった。いくら疑っているとはいえ、髪を引っ張ったり、服を脱がすような行為は当然したくはない。
凛ちゃんはしばらく黙って、天井を見上げる。なにかを考えている様子だ。
一分ほど経っただろうか。それくらい長く感じた沈黙の後、凛ちゃんは長い溜息を漏らした。




