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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第3章 告白
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第23話 追憶~皐月への告白~②

「違う」


 いきなり皐月は僕の言葉に否定する。一体、何に対しての否定がわからないが、強く言い切ると、皐月は席にまた腰を落とす。


「叶夢は私の容姿や表面上に見えるものを見て、好意を寄せたわけじゃないでしょ。だから、他の男が言う好きとは天と地くらい違う」

「そうなの?」


 違いがよくわからないな。僕は疑問に感じていると、皐月は質問を投げかけてきた。


「ねぇ。私のどこが好き?」


 ずいぶん、ストレートな質問だ。いくらでもあるけど、いざ答えるとなるとうまくまとまらない。


「ゲームで対戦すると、勝つまで挑み続ける負けん気とか。僕が缶ジュースで間違ったのを買うと、自分がそれ飲みたかったっていう下手くそな嘘を言う優しさとか。凛ちゃんが困っている時、僕との約束を蹴っ飛ばしてまで、駆けつけようとする友達思いなところとか」

「なんか、今言ったのさ。缶ジュースのくだりしか、叶夢得してないよね。凛のくだりなんて、むしろ私、ずっと内心は怒っていると思っていた」


 事の状況を話すとこうだ。あの日、僕と皐月は映画館でデートしていた。映画を観た後、食事に行こうとしたところ、友達の凛ちゃんからメールがあったんだ。


 メールの内容は『財布落としちゃった。大学から家まで遠いけど、いい機会だし。ダイエットだと思って帰えるよ。あー、それより懐が寒いよ』という何気ないメールだったが、それを見た途端、皐月は僕に頭を深々と下げたのだ。


「ごめん、叶夢。今日、雪降りそうだし。寒いし。私、凛が心配だから行ってきていい?」


 僕はその時、素直に気持ちを伝える皐月を潔良いと思ったし、やっぱり素直に優しいと思った。


 あの時の皐月は八方美人ではなかった。普通なら『大丈夫? 私も車があって運転出来たら迎えに行きたいけど、自転車だし。ごめん、力になれなくて。寒いし、気をつけるんだよ。金欠なら今度お金貸そうか?』みたいな回答をするだろう。


 しかし、皐月は違った。自分は自転車で、行っても実際に何の役に立たないにしても、とにかくすぐに駆けつけたかったのだろう。


 僕は素直にそんな風に思える友達がいる皐月を羨ましいと思ったし、同時に尊敬の念すら抱いていた。


 当然、まさか来ると思わなかった凛ちゃんはびっくり仰天だったようで後日、凛ちゃんは僕に謝りたいと言っていたようだった。日を改めて僕は凛ちゃんのことを、皐月から紹介される形になる。


 凛ちゃんの第一印象は、皐月とは正反対で、美人というよりも小動物のように可愛く、とても口数の少ない大人しい女の子。という印象だったのを覚えている。


「でも、やっぱり違う。今までの男は皆、私のことを可愛いとか、一緒にいて楽しいとか。決まったことばかり言われてたから。叶夢みたいに具体的に喋れる人はいないよ」


 胸に手を当てて、皐月は何処か安堵した顔をする。そして、一旦、間を置いた後、皐月は顔を上げて照れ臭そうにはにかんだ。


「ごめん。私、ズルイね。実はさ、瑠川ちゃんに相談された時、私、大切な友達って言ってないんだ。いや、言ったんだけど、続きがあるの」

「続き?」

「実は瑠川ちゃん、結構早い段階で、私が叶夢のことを好きって言ったのが嘘だと気づいていたの。だから、相談できる相手だと踏んだんだろうね」

「それで?」

「協力できない。私、今は本当に叶夢のこと好きだから。クリスマス前に告白するって。本当は告白して撃沈したら、気持ちよくバイトを辞めようと思ってた。だから、ぶっちゃけ、叶夢が私のこと好きなんて夢みたいだよ。いつも素っ気ない態度ばっかりだから、私には女として全く興味ないと思ってた」


 そうか。そうだったんだ。


 全てを知った僕は、ヘナヘナと机に倒れ込んでしまう。まさか、クリスマス前に告白することになるとは思ってみなかった。結果として、いい方向に転んでくれて助かったが。


 皐月は倒れこむ僕の頭をぎこちない手で撫でる。顔を上げると、皐月は悪戯に笑う。


「ありがとう。凄く嬉しかったよ。その、これからも宜しくね」


 と、照れ臭そうにする皐月に僕は頷き「こちらこそ」と頷いてみせた。




 それから四年近く僕達は付き合っていた。


 人並みに喧嘩もしたけど、僕達は一緒にいればいるほど惹かれあったし、お互いに結婚も意識するようになっていた。


 でも、神様は残酷なクソ野郎だから、皐月を病気にしてしまう。病名は難しくてわからなったが、治らない病気で余命一年と告げられた。


 僕はそれを皐月告げられた日の夜、発狂して部屋にあるものを荒らした。感情を抑えられず、何度も机を殴った拳は翌日には真っ赤に腫れ、診断後、骨折していたことに知る。


 あの時、部屋に入った父さんが僕を正気にさせるため、殴ってくれたおかげで、被害は僕の拳と数枚のCDジャケットが割れるだけで済んだのだろう。


 その翌日から、僕は偽りの仮面を被ることを誓ったのだ。


 皐月が死ぬまでの間、けして弱い姿をみせない。そして、どんなに辛くても逃げ出さないことを決意した。


 僕の人生はまだ二十五年と若いが、一つ断言できることがある。


 人はお金持ちになりたいとか、夢を叶えたいとか、あの人と結ばれたいとか。いろんなお願いを神社のお願いするけども、結局一番大事なのは健康。命なのだ。


 当たり前に傍にいてくれた皐月を失った僕は、それを痛いほど思い知った気がする。



                  第3章 告白 完

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