第23話 追憶~皐月への告白~①
皐月と僕が付き合ったのは、出会ってから七ヶ月が過ぎた頃。
僕は皐月と長く接していくうちに、彼女をもっと知りたいと思うようになっていた。
よく恋をすると人は、寝ても覚めても相手の顔を思い浮かべてしまうというが、あれは本当なんだな、と実感するくらいだった。
ジャズフェスのデートから僕達は急速に仲が良くなり、お互い苗字ではなく、叶夢・皐月と下の名前で呼ぶくらいにはなり、周りからは付き合っていると思った。と、思われるくらいの仲に成長したけど、実際はそうじゃない。
僕は皐月と一緒にいるのが楽しいから、それでいいとは思わなくなっていた。
前はバイト先で、人にからかわれるのが嫌だからと萎縮していたが、今は反対に付き合ってもいないのに、皐月の仲の良さをさり気なくではあったが、見せつけるようにしていた。それは、絶対に皐月を誰にも取られたくないという、貪欲な感情だった。
手を繋ぎたい、抱きしめたい、キスしたい。いろんな欲求が常に頭には過ぎったし、自慰行為を行う際は必ず皐月のことを想像するようになった。
別に変な話しじゃない。結局、僕も普通に人を好きになったということだけの話しだ。
「ねぇ。来週の土曜日って空いてるかな?」
「来週の土曜日って、クリスマスじゃん」
バイト先の休憩室。誰もいない部屋で二人きり。僕は皐月をデートに誘う。けど、皐月だって女の子だ。その日が特別な日だと知っている。
「誰かと一緒に過ごす、予定?」
ごくりと唾を飲んで僕は平常心を装って聞く。皐月は頭を掻き、苦笑する。
「別にそんな人いないよ。でも、いいの?」
心配そうな顔する皐月に、僕は首を傾げた。僕の頭にクエスチョンマークがついたのに、皐月は気付いたのだろう。すぐに言葉を繋げてくれた。
「叶夢、ずっと私の演技に付き合ってくれているけどさ。その日は特別なんだし。いいんだよ。無理しなくても」
「別に無理はしていないよ」
「そっか。うーん」
どうしたんだろう。なんだか、皐月は困ったような顔をする。そして、ローラー椅子を蹴って移動し、部屋の扉付近を見つめる。
誰もいないことを念のため、確認しているようだ。一体、なんのためかはわからないが。
「ねぇ。私が言ったって言わないでよ」
急に決まりが悪いといったような複雑な顔をする皐月。状況が全然飲み込めないが、無意識に僕は頷いた。
「こないだね。瑠川ちゃんに聞かれたんだ。水野さんと付き合っているのかって?」
「……それで?」
「当然、付き合ってないって言った。大切な友達だって」
なんでだろう。その通りなんだけど、大切な友達と言われると胸が痛い。
「そしたら、相談されたの。瑠川ちゃんね、叶夢のこと好きみたいだよ。最近、凄く男らしくなったたみたい。良かったね」
他人事みたいな口調がちょっと引っかかる。なんだろう、それを相談されて皐月はどう思ったのだろうか。
「そうなんだ」
「だから事前情報。瑠川ちゃんに近い内、誘われるよ。やったじゃん。モテ期きたね」
たんたんとした口調でそう言うと、皐月は席を立ち上がった。
「今まで付き合ってくれてありがとう。でも、もうおしまいにしよう。私、叶夢を散々利用してきたから、こんなこという資格ないけどさ。大切な友達が幸せになれる瞬間を邪魔したくはない。だから私、ここのバイト辞めようと考えている」
「なに、勝手なこと言ってんだよ」
この時、完全に無意識だった。僕は普段出さないような攻撃的な口調を喋る。
皐月は少し驚いたように目を丸くさせている。そして、足を停め、僕の目を凝視していた。
「誰が、いつ瑠川ちゃんと付き合うって言ったんだ? 勝手に決めないでくれる?」
「なんで? 瑠川ちゃん可愛いじゃん。性格だっていいし」
「だから、勝手に決めないでくれるか。僕は皐月を誘ってるんだ」
皐月と僕との間でこんなピリピリした空気は、初めてかも知れない。僕は内心、バカ野郎と自分に怒っていたが、完全に感情をコントロール出来なくなっていた。
そんな時に、空気の読めない皐月は僕の感情を逆なですることを言う。
「なんで私なの? 私のこと好きなの?」
その言葉を耳にした途端、僕の頭の中にある何かが切れる感覚がした。
「好きだよ」
はっきりと、聞き違えるはずもないくらい。それくらい、はっきり僕は答えた。完全に想定外だったのだろう。皐月は開いた口が塞がらず、呆気に取られていた。
「もう、どうしようもないくらい好きだ。ごめん、本当はこうなりたくなったよ。皐月は僕を安全ピンとして、付き合ってくれたのに。僕も他の奴等と一緒だ。好意を持ってしまった」
そう。皐月は男避けとして、全く興味を示さない僕を利用した。でも、安全ピンである僕まで好意を寄せてしまう。皐月にとってみれば、思いもしない誤算だったはずだ。
実は告白しても断られる確率の方が遥かに高いのは知っていた。これは完全な計画違反(まあ、計画した覚えもないけど)になる。
でも、このまま、偽った感情で付き合い続けることは僕自身しんどいし、皐月のことも裏切っていることになる。
だから、終わらせるなら、早く終わらせたかった。結局、自分本位なんだなと反省する。




