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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第3章 告白
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第21話 叶夢の想い

「わぁ。海だぁ!」


 外に出ると真っ白な入道雲が沸き立ち、海に行くにはもってこいの快晴だった。


 三十分をほど車を走らせ、駐車場に停車すると僕達は少し海の方まで歩き、桟橋の先まで辿り着いた。葵ちゃんは気持ち良さそうに背伸びしている。


「気持ちいいね!」


 横に立ち、黙って青空を見上げる僕とは反対に、葵ちゃんはテンションが高い。


「うん。でも、どうして桟橋の方なの? 海岸の方に行けば、もっと賑やかだろうに」

「私、賑やかな場所、苦手なんです。それに海岸の方に行くと、水着着た可愛い女の子多いじゃないですか。叶夢さん、変態だからダメ」


 と、葵ちゃんがむっと頬を膨らませ、目を背ける。あっ、そういうことね、と思いながら、僕は葵ちゃんの横顔を一瞥してしまった。


 しかし、賑やかな場所が嫌いっていうのは意外だ。好んでそういう場所に足を運ばせるタイプの子かと思ったけど。まあ、寺参りが好むような子だし、理解できる部分はある。


「また、なに考えてるんですか?」


 すぐ横で不安げな顔を覗かせる葵ちゃん。


「あっ、いや……葵ちゃんの好みって、もしかして僕と合うのかぁって思って」

「叶夢さんも賑やかな場所、嫌いそうですもんね」

「えっ、そう思うの?」


 葵ちゃんは早とちりに勘違いしていた。僕は賑やかな場所という意味ではなく、趣味の共通性について合うと言いたかったんだけど。


「だって、自分のペース乱されるの嫌いでしょ」

「そうでもないよ。普段から乱されっぱなしだし。ほら、職場が保育園だしね」

「ああ、そういえば」

「特に強引な子には弱いよ」

「私のこと、言ってるんですか?」

「あっ、いや。そんなことは……」


 あるかもしれない、とは言えないな。僕は答えられず、語尾を濁してごまかすが、葵ちゃんの冷たい視線に僕は身を縮めてしまう。


「ほら、立ってるのも疲れるし、座ろうか」

「そうですね」


 僕の提案に頷き、一緒に桟橋の先に腰を落とす。


 一緒に空を見上げる。うみねこが空を羽ばたき、猫のように鳴き声をあげる。


 癒されるなぁ。そういや、ここ最近、こういった場所でゆったりすることなかった。一人部屋に籠って、考え事ばっかりしてた気がするし。


 まだ皐月が元気だった頃は、皐月以外の仲の良い友達なんかとも遊びに行ったり、飲み明かしたりすることも少なくなかった。


 なのにいつからだろうか。無意識に人を避けるようになったのは。


 きっと、周りの友達も僕の態度の変化には、薄々気付いていたと思う。だから、頻繁に誘ってきた友達もいつしか、僕に距離をおくようになっていく。


 そんな周りの変化には気付いていたが、僕はそれが返って助かったと思っていた。


 互いに気まずい状態のまま、顔を合わせるよりは、時間が解決することを待つことが最善の選択だと思ったからだ。


 でも、時間が解決する問題ではないと、最近また考えるようになった。

 いくら時間がたっても、僕は皐月のことを愛した気持ちは一生変わらないだろう。時間がいくら経ったって、忘れられるわけもない。いや、そもそも忘れていい問題ではないのだ。


 そんなこと、ちょっと考えればわかること。でも、そんな簡単なことに気付くことすら、僕一人の力だったら無理だったと思う。


 こんな僕でもまだ見捨てず、背中を押してくる人達がいること。そして、なにより葵ちゃんが僕の心に入り込んできたおかげで、僕はいろんなことに気付けたのかもしれない。


「葵ちゃん」

「なんですか?」


 今日は二回目のデート。少し早いと思うが、葵ちゃんは偽りを嫌う子だ。今この瞬間が良い頃合いなのかもしれない。葵ちゃんを傷付けてしまう可能性は非常に高いことだが、素直な気持ちを伝えようと思い、僕は真っ直ぐ葵ちゃんを見つめる。


「叶夢さん?」


 僕の顔を見ると、その雰囲気を察したのか、葵ちゃんの顔付きも真剣になる。


「今から僕の正直な気持ちを話したいんだけど、大丈夫?」


 確認する必要はないかと思うが、前もって聞くと葵ちゃんは無言で頷いた。


「その、どこから話していいかわからないけど……僕さ、知っての通り、皐月が死んでから、人を強く避けていた。特に恋愛をすることに関してはね。だから、正直、葵ちゃんの存在は疎ましいとすら思ってたかもしれない」

「ええ。わかってましたよ」


 申し訳なさそうに言う僕に対し、葵ちゃんは寂しげに笑う。それは葵ちゃんには、不似合いな作り笑顔だった。


「僕は純粋に葵ちゃんを傷付けたくないと思ってた。でも、最近、気付いたんだ。傷付けたくないんじゃなくて、自分が傷付きたくなかったんだってことを」


 そう。本当は気付いてたけど、気付かない振りを続けいたのだ。その方がずっと楽に生きられるから。


「葵ちゃん、君は魅力的な子だよ」

「そ、そんなことないですよ!」


 僕がそう言うと、葵ちゃんは面食らった顔で大袈裟に首を振る。


「まあ、確かに葵ちゃんは、図々しいし、口悪いけど」

「なにいきなり、けなしてるんですか! 人のこと魅力的って言っておいて!」

「あっ、ごめん。つい」


 つい口が滑ってしまい、葵ちゃんは期待していた部分もあったせいか、いつも以上にツッコミのリアクションが大きい。僕は立て直すように大きく息を吐き、葵ちゃんの目を直視した。


「葵ちゃんってさ、いつも自分勝手にやってるようだけど、本当は僕のことを第一に考えてくれて、いつも気遣っての行動なんだってこと……本当は最初からわかってたよ。葵ちゃんが優しくていい子なんだってことも……わかってた、ずっと」


 僕はゆっくりとした口調で、胸に抱えていた想いを素直に伝えていく。葵ちゃんも目を逸らさず、黙って僕の言葉に耳を傾けてくれていた。


「でも、恐かったんだ。もし、葵ちゃんと付き合って、皐月のことを忘れられなかったら、取り返しがつかなくなるんじゃないかって」

「取り返し?」


 葵ちゃんは少し、眉を下げ、険しげな顔をしている。


「皐月のこと、うまく忘れられなかったら、葵ちゃんのこと酷く傷付けちゃうじゃないかって思ったんだ」


 僕が核心をついて話し始めようとしたところ、険しげな顔をしていた葵ちゃんの表情は更に険しく、酷く不快な形相に変わっていた。

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