第14話 葵ちゃんの想い
「叶夢さんは好きな人いますか?」
「いや、今は特に」
単刀直入に聞かれたので、僕は正直に答える。
「好きな人がいない場合は、新しい恋を願ってお願いするといいみたいですよ」
すると、葵ちゃんは布一枚とサインペンを僕に渡してくる。一瞬、受け取るかどうかを考えていると「早く」と急かされ、無理矢理押し付けられてしまった。
「ダメですよ。いつまで、皐月さんのことを引きずってるんですか。余計なお世話かもしれないですけど、叶夢さんがいつまでもそんな調子ですと、天国にいる皐月さんは、安心して成仏できないですよ」
僕の心境を察してか、喝を入れられてしまった。
渋々といった感じに僕はペンを受け取ると、財布から100円取り出し、賽銭箱に入れる。
僕は【みんなが健康で過ごせますように】と、明らかに恋愛とは関係ない内容を書き、左手で木の枝に結び付ける。
「あっ」
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
しまった。この布に願いごとを書いて、片思いの相手を思い浮かべながら、左手だけで赤い布を結びつけると言われたが……無意識に皐月の顔を思い浮かべてしまった。でも、その事実を口にしたら怒られそうだから、黙っておこう。
「あれ、葵ちゃんは書かないの?」
「書きますよ」
「そうだよね」
布を取って、サインペンのふたをあけると、葵ちゃんはそのまま書く手を停止させる。
「叶夢さん」
「なに?」
「あっち行っててくれません?」
「あっ、そうだよね。ごめん」
これは失礼。僕としたことが、気が利かなかったな。
僕は距離置くように歩きだし、先程いた卯子鳥様のリレーフの辺りで足を止めた。
しばらくし、書き終えた葵ちゃんは先程、僕が結んだ反対側の枝に、左手で悪戦苦闘しながら結んでいた。
そういや、葵ちゃん、好きな子はいるんだろうか? 前から興味がある場所と言ってたくらいだし、実際は本命としている相手がちゃんといる気がする。
そう考えると僕は単にからかわれてるんだなと、ちょっと複雑な気持ちになった。
「お待たせ致しました」
ちょっとスキップして、凛ちゃんは上機嫌に帰ってくる。
「ちゃんとお願いできた?」
「はい」
「なにをお願いしたの?」
「それは秘密ですよ」
さりげなく尋ねると、さらりと流された。まあ、当然の結果だ。
僕達はそのまま車に戻り、エンジンをかけて時計を見た。時計は三時前になっていた。今から宮城に帰ったら、大体十七時から十八時くらいになるだろう。
「さてと、帰ろうか」
そう言って僕はギアを入れ替え、サイドブレーキを下げて車を走行させる。シートベルトをしながら、葵ちゃんは僕の肩を突く。
「真っ直ぐ帰るんですか?」
ちょっと甘えたような声で聞かれるので、僕は疑問に首を傾げた。
「どっか行きたい場所とかある?」
「ないです。ただ、夕食くらいは一緒に食べたいなと」
「そうだね。でも、一旦、宮城に戻ろうか。なにかリクエストある?」
「お酒飲みたいけど、一回目のデートなんで我慢します」
「えっ、なんで?」
「だって、酔った勢いで、叶夢さんに今夜は帰さないぞ。とか言われたら困るし」
「はははっ、言わないよ、そんなこと」
つい笑ってしまうと、キッと睨んだ葵ちゃんが僕の肩を引っぱたく。
「失礼ですよ。もう、わかってますよ! 叶夢さんは草食系男子ですもんね。私が股開いても、きっと手はださないと思います」
なんて下品なこと言うんだ、この子は。僕は幻滅とまではいかないが、葵ちゃんの発言に対して、強く不安を覚えた。
「あのさ、葵ちゃん」
「なんですか!」
不機嫌な顔をしているところ悪いが、僕は友達として、きちんと忠告しておく必要があると思った。
「そういうことは、好きな人にしか言わない方がいいよ。葵ちゃん、可愛いんだからさ。僕だからいいものの、他の男にそれ言ったら、それこそ、かばっとされちゃうよ」
「バカじゃないですか! 私だって、がばっとされたくない人以外に、言いませんよ。そんな恥ずかしいセリフ!」
えっ、それって?
僕は一瞬、耳を疑った。同時に葵ちゃんも、しまったと手で口を塞ぐが、僕と目が合った途端、かぁと顔が沸騰したように赤くする。
「ご、ごめん」
「謝らないでください!」
反射的に謝ると、葵ちゃんは遮るような声で怒鳴ってくる。
車を走らせているので、葵ちゃんの表情までは読み取れない。が、顔を伏せて体を震わせているのはわかった。葵ちゃんのことを傷付けてしまったと、僕はすぐに自分の言ったお節介を酷く後悔してしまう。
しかし、いつから? 僕は冷静に思考を巡らせる。葵ちゃん、僕に対して好意があるような発言をしていたか?
……あれ。てか、それっぽい発言ばっかりだったな。
でも、それは葵ちゃんがみんなに同じようなこと言ってると思ったから。なんて言い訳したら『私をそんな軽い女だと思ったんですか!』と、更に反感を買ってしまいそうだ。
「あ、あそこに美味しそうなアイス屋さんあるよ」
「甘いもので釣ろうなんて、ダメですよ!」
「あー、ごめん。そうだよね」
「う、嘘。食べますよ」
僕はガッカリして、通り過ぎようとすると、葵ちゃんは慌てて僕の腕にしがみつく。運転中、突然のツッコミにびっくりしたが、すぐにウインカーを付け、左折し、店の駐車場に入る。
危なかった。ガードレールに突っ込むかと思ったよ。
車を駐車場に停車させる。アイスを買いにシートベルトを外すと、横にいる葵ちゃんと目が合った。
先程、傷付けてしまったという、罪悪感を感じた僕は、子供をあやすように「大丈夫?」と優しく言って、葵ちゃんの頭を優しく撫でる。触れられた途端、葵ちゃんはビクッと体を反応させたものの、抵抗することなく、ジッとしている。




