第12話 待ち合わせ・いざ卯子酉神社へ
翌日。時刻は九時五十分。約束した時間よりも十分ほど早く到着し、待ち合わせ場所のコンビニに入る。辺りを見渡しても、葵ちゃんらしき人物は見当たらない。
あの子、待ち合わせには、ギリギリに来るか、遅刻しそうなタイプだもんなぁ。なんて思いながら、僕は適当な雑誌を手に取るが、待つ間もなく、葵ちゃんはすぐに現れることになる。
入口の自動ドアが開き、葵ちゃんはすぐに僕の姿を見つけ、小走りで歩み寄ってきた。
「ごめんなさい。待ちましたか?」
「いや、今着いたところだよ」
「良かった。あっ、なに読んでるんですか? もしかして、エロ本?」
「あー、残念ながら違う」
「なんだ。意外」
意外? 普段、エロ本読んでそうなのかな、僕って。
「さぁ、行こうか」
「はーい」
あえてエロ本のくだりは触れず、雑誌を元に戻し、コンビニを出てから車に乗る。助手席のドアを開けた葵ちゃんが「お邪魔しまーす」と言って、手に持っていた鞄を膝の上に置く。
「鞄、邪魔だったら、後ろに置いていいからね」
「本当ですか。じゃあ、お言葉に甘えて」
葵ちゃんは軽く会釈すると、鞄を後ろに置いた。
「可愛い鞄だね」
エンジンをかけるのと同時に、僕は何気なく視野に入った鞄を誉めた。
「ありがとうございます。でも、叶夢さんの車って綺麗ですね。昨日は夜だったから、乗ってて気付かなかったけど」
「今日は特別だよ。葵ちゃんを乗せると思って、朝に洗車と掃除しといたから」
普通は言わなくていいことを正直に話す僕。馬鹿だな。だから、モテないんだよ。
「へぇ。それは、私を女の子として見てるってことですか?」
「えっ? どう見ても、男の子ではないよね」
言葉の意図がわからず、無意識にそう聞くと、葵ちゅんは呆れた顔をする。
「うわぁ、酷い返し。信じられない。人間じゃないみたい」
いやいや、酷い返しだったのは認めるけどさ。それは言い過ぎではないですか、と突っ込みたくなる。
「ごめん。悪気はないんだよ。えっと、今日の髪型可愛いね」
「昨日と同じ髪型なんですけど」
しまった。また爆弾踏んでしまったようだ。僕は慌てて次の言葉を探していると、葵ちゃんはクスクスと笑う。
「そんな困った顔しないでくださいよ。まるで、私が苛めてるみたいじゃないですか」
「そうだね。本当、後が思いやられるよ」
「それはこっちのセリフです!」
呆れた声でそう言い返すと、鋭い突っ込みを返されてしまった。
その後、いろいろ雑談しながらしばらく車を走行させ、高速道路に入る一、二キロ前くらいで確認を取る。
「このまま、高速に入るけど、ご飯はなに食べたい?」
「そうですねぇ。このまま、大和ICから入ったとして……東和ICで降りるのが最短なんでしょうけど、花巻南IC辺りで降りましょうか?」
「なにかあるの?」
「はい。岩手県花巻市の名産といえば、蕎麦かなぁって思って」
蕎麦か。いいな、大好物だよ。
「ええ、存じてますよ。叶夢さん、蕎麦好きですもんね」
心を読んだのか、葵ちゃんはしたり顔で答える。
「凛ちゃんから聞いたの?」
「そうです。蕎麦食べさせておけば、叶夢さん、機嫌良くなって、最後まで面倒みてくれるだろうって」
酷い言われようだな。凛ちゃん、実は僕のこと嫌いなのかと、ちょっと心配になってしまう。
「凛ちゃんってさ、僕のこと一体、どう思ってるのかな?」
無意識に僕は、葵ちゃんにそんな質問をしてしまう。
当然、言ってしまってから、しまったと、口を噤むがもう遅い。当然、葵ちゃんは訝しげな目をしていた。
「どうしてまた、そんなこと聞くんですか?」
一瞬、誤魔化そうと思ったが、ここで「なんでもない」と言ってしまうと、葵ちゃんの性格からして、更に反感を買うだろう。
「いや、凛ちゃんってさ、正直、物事にあまり関心を持たない子だと思ったんだ。でも、最近わかったんだけど、結構面倒見がいいだなって思って。皐月が死んでから、結構僕に対して気遣ってくれるから」
僕が心境を語ると、間髪入れずに葵ちゃんは言葉を挟んできた。
「それは違いますよ。凛は基本、人の干渉をしません。特に異性には」
「そうなの?」
「ええ。ただ、叶夢さんに対しては違うようですね」
ちょっと困ったような声で、葵ちゃんは意気消沈したような暗い声を出す。何故かわからないが、車内は気まずい雰囲気が漂ってしまう。
「僕、なんかしたっけ?」
「馬鹿なんですか。凛は叶夢さんのこと好きなんですよ」
「えっ、嘘! 本当に?」
「嘘に決まってるじゃないですか」
驚く僕を見て、引っかかったぁ。とでも言うように、葵ちゃんは腹を抱えて、ゲラゲラ笑っている。
「ごめんなさい。別に叶夢さんに、魅力がないって言ってるわけじゃないですよ。私は結構タイプですから、喜んでください」
「それはありがとう」
「あー、信じてないでしょう。本当だからね」
ムッとして、強い口調で訴える葵ちゃん。
相変わらず、積極的な子だなぁ。と、思いながら相槌を打つ。一応、今の心境を話すと僕は今、モテ期がきていると自惚れてはいない。
凛ちゃんは別として、葵ちゃんの場合は交友範囲が広そうな子だ。悪気なく、人を勘違いさせる発言を連呼するタイプ。顔も可愛いし、今まで痛い思いも散々してきたと予想できるが、それにも懲りていないのだろうか。
「それにしても、叶夢さんって不思議ですよね。なんか、放っておけないタイプです。母性本能をくすぐるって、よく言われません?」
「どうかな」
言われたこともある気がするが、あまり記憶にない。
「まあ、仮に凛が叶夢さんのことを好きでも、それを告白することはできないでしょうね」
「なんで?」
「叶夢さんって、本当にバカでクズですね」
「バカはいいけど、クズは言い過ぎだよ」
僕はショックのあまり、冷静に突っ込む。会って二回目なのに、バカにクズと呼ばわりされるのは、さすがにダメージがある。
葵ちゃんは話題を逸らすためか、急に「なんか、いい曲ないかなぁ」と、カーナビを勝手にいじりだす。
僕は未だに、言葉の意図を理解できず、首を傾げながら考え込んでいた。
「あっ、ミスチルだ。ほとんどのアルバム入ってるね。若い子は皆『しるし』か『HANABI』が好きって言いますけど。私はやっぱり『フェイク』が好きです」
「ずいぶん変則的な曲が好きなんだね」
「叶夢さんはなにが好き?」
「うーん。王道だと『イノセントワールド』か『名もなき詩』マイナーな曲だと、『ANY』かな」
「ああ、叶夢さんぽいね」
なんだ、叶夢さんぽいって。普段なら突っ込みたい箇所だけど、それより先程の話題が気になって仕方ない。
「ねぇ。さっきの凛ちゃんの話し。どういうこと?」
「あー、煩い! 叶夢さんが考えたところで、一生辿り着けない答えです」
話しを蒸し返す僕の言葉を遮る形で、葵ちゃんは大きな声をだす。どうやら、これ以上踏み込んではいけないらしい。なんだかモヤモヤは残るが、ここは諦めよう。




