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忘れな草 ~赤い布の真相~  作者: 結城 智
第1章 出逢い
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第9話 凛ちゃんの想い

 その日の夜。僕は凛ちゃんの連絡を待っていた。


 えっ、凛ちゃんじゃなくて、葵ちゃんじゃないの? と思うかもしれないが、実はあの後、お互いの連絡先を交換しようとしたら、葵ちゃんの携帯の充電が切れそうだったため「後で凛から直接、私の連絡先を送るよう頼んでおきますから」と言われた。


 なんだろう。別にやましいことをしているわけじゃないのに、凛ちゃんに対して罪悪感を感じてしまっていた。


 皐月を失ってから、恋愛する気力さえなかった僕を知っている凛ちゃんが、いきなり自分の妹である葵ちゃんと一緒にデートすることになったとわかれば正直、驚きと同時に少なからず、複雑な気持ちになるだろう。


 しばらくして、携帯電話の着信音が鳴り響く。携帯の液晶画面を見た瞬間、緊張が一気に高まった。


 凛ちゃんから連絡がくることは、最初からわかっていたこと。でも、完全に誤算だった。僕は凛ちゃんの性格上、メールはくれても、電話をかけてくることはないと踏んでいた。


 とにかく、無視はできない。僕は唾を飲み込んでから、電話の通話ボタンを押した。


「もしもし。夜分遅くにすいません。凛です」


 凛ちゃんの第一声はとても落ち着いた、普段と変わらない柔らかい口調だった。僕は少しホッとするも、返す言葉が浮かばなかった。


「今日、葵と会ったんですってね。なんか、ごめんなさい。いきなり、夕食までつき合せちゃったみたいで」

「いや、そんなことないよ。僕も楽しかったし」

「ありがとうございます。あの子、私とは違って、かなり積極的なんで……叶夢さんも対応に困ったと思いますけど、悪い子ではないので許してあげてください」


 さすがに双子とはいえ、やっぱりお姉ちゃんなんだな。妹をフォローする凛ちゃんの言動に、姉妹だという実感を覚える。


「うん、びっくりしたよ。顔は凛ちゃんそっくりだけど、性格は全然違うんだね」


 明るくそう返すと、凛ちゃんは少しの沈黙を置いた後、静かな声で切り出してきた。


「叶夢さんは、私と葵、どっちがタイプですか?」

「えっ? どっちがタイプって」


 いきなりの質問に困惑すると、ちょっと悪戯ぽく笑った凛ちゃんの声が響いた。


「冗談ですよ。変な質問してごめんなさい。皐月はきっと私でも、葵でもないタイプですし。どっちも、叶夢さんのタイプではないですよね」


 不意に皐月の名前が出て、僕は少し自己嫌悪に陥る。


「でも、とてもいいことだと思います」


 すると、僕の気持ちを察したのか、凛ちゃんが優しげな声を漏らす。


「私、葵に明日の話しを聞いた時は正直驚きましたけど、同時にちょっと安心しました。叶夢さんが逃げきれなかったってことは葵、かなり強引だったんでしょうね」

「ああ、うん。ちょっと、面食らった」


 ここは否定するべきなんだろうが、僕はつい本音を口にしてしまう。それに対し、凛ちゃんは笑いを吹き出す。


「わかります。ただ、叶夢さんみたいな、少しぼーとしたタイプは、強引な相手がいいと踏んでましたから。私にはそれが出来ないですけど、葵にならできると思います」


 言い方は穏やかだけど凛ちゃんも結構、失礼なことをずばずば言うな。さすが姉妹だ。


 しばらくして、僕は不意にこの時、凛ちゃんの言葉に違和感を覚える。


「ねぇ、凛ちゃん。僕の思い違いならいいけど、もしかして仕組んではないよね?」

「仕組むって、なにがですか?」

「最初から、凛ちゃんが葵ちゃんに頼んで、僕のことを誘うよう仕向けてはいないよね?」


 はっ? 叶夢さん、なに言ってるんですか? 自惚れないでください。と、即効、不愉快な返事が返ってくると思った。が、どうしたことだろう。電話口から返事はなく、明らかに気まずい雰囲気を漂わせていた。


「私、そんな仕掛けたつもりはありませんよ。ただ、葵にはずっと以前から、叶夢さんの話しはしてました」


 やっと凛ちゃんは口を開くが、何故かオドオドとした口調になっていた。確かに言われてみれば、葵ちゃん、僕のことは凛ちゃんから聞いているって言ってたな。


「それで、葵が前々から叶夢さんには、興味を持ってました。いや、でも、叶夢さんには皐月がいるから、手をださないよう忠告はしてたんですよ。でも、こないだ、皐月さんが亡くなってから、叶夢さんが元気ないって相談したら。その、葵が……」


 なるほど。今回、葵ちゃんが僕をあそこまで積極的に誘える度胸の理由は、凛ちゃんの後押しや情報が、少なからず関係していたのか。


 仕組んだつもりはなくても、凛ちゃんは今回の件、自分にも責任があると感じているのだろう。


「あの、ただ葵は別に叶夢さんのことを同情してるわけじゃありません。皐月がいる、いないに関係なく、葵は前々から叶夢さんとは話してみたいと言ってましたし。だから、その、いいと思いますよ。葵は煩くて、嫌になるかもしれませんが、悪い子ではないので」


 必死に失礼がないように言葉を選ぶ凛ちゃんに、僕は申し訳ない気持ちと同時に、感謝に似た感情が芽生えていた。


「えっと。じゃあ、メールで葵の電話番号と、アドレス送っときますね」


 静寂な空気に耐えられなくなった凛ちゃんが、慌てて電話を切ろうとするので、僕は「凛ちゃん」と、静かに引き留めると「はい!」と、ちょっと怯えたような声で、凛ちゃんは返事をする。


「ありがとね」


 そう、素直な気持ちを伝えると、凛ちゃんは少し沈黙を置いた後「たまには私にも頼ってくださいね」と、優しい声で響かせ、電話が切れるのであった。

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