<波乱の幕開け>
<大阪府・鳥時市>
関西では珍しい、
東京弁を標準語とした市。
人工は約15000人で、
面積は約48万ヘイホーキロメートル。
目立った観光名所はないが、
学力が高いことで有名で、
毎年多くの受験生がこの市の大学・高校・中学
を受験する。
また、自然に恵まれており、
野菜や魚の名産地としても
知られている。
僕達の視線の先で、
小さな男の子を連れた若い母親が、
頭を下げながら出て行った。
「夕、今回はいくらもらえた?」
「えーと、15000円」
「え、すごい・・・」
スタートから、半月ほどたった。
何でも屋を始めた僕達は最初、
バイトを探していた。
何故って、
そりゃあこんな収入不安定の鏡みたいな職業に、
全収入を委ねる馬鹿はいないだろう。
…と、言いたいところなんだけど、
僕達はその馬鹿と化している。
と言うのも、かなり仕事が来るのだ。本当に。
例えば子守をやってくれとか、
家を掃除してくれとか、
子供に勉強を教えてくれとか、
どこそこの名産品を買ってきてくれとか、
町内会の行事の手伝いを頼まれたりとか、
重いものなら復縁させてくれとか、
浮気調査とか・・・。
どうなってんだこの市は・・・と、思うほどだ。
なんでこんなわけわからんやつに
依頼がまいこむのか。
それは料金にあるらしい。
通常の何でも屋では、
簡単なものなら3000円程度だが、
難しいものは4万とか、かなり高額だ。
で、うちはと言うと・・・
「通常料金3000円、
後は依頼人が自身の意思で追加。」
以上。
僕達はナナハラさんからの仕送りがあり、
正直それが、仕事しなくても生活費くらいは
賄えるレベルなのだ。
と言っても、それは本当に「普通に食べていく。」
だけで精一杯の金額であり、
生活には困らないが、
自分達が欲しいものを買う余裕はない。
そこで仕事をしているわけだ。
「えーと、今日はどうする?
今日は午前で仕事終わっちゃったけど。」
「デパート行こうよ。
ちょうど消耗品も切れてきたし、
『〜を買ってきて。』って
依頼もあったでしょ。」
「そうだね。」
こんな感じで毎日を過ごし、
『チャレンジャーズ』の本業とは
無縁の生活をしていた僕らに、
一週間後、『その依頼』は突然舞い込んだ。
ーーーいつもようにダラダラと
火曜の午後の貴重な時間を順調に無駄にしていると、
突然玄関の呼び鈴が鳴った。
「いってくる。」
「ありがとう」
夕の機転に礼を言ってから、
僕は机の上を片付ける。
リビングは応接間にしているのだ。
最後の仕上げで、読みかけの漫画雑誌を
隣の部屋に投げ込むのと同時に、
『その客』は入ってきた。
制服姿の、黒髪の短髪の女の子。
背は夕と同じくらいだ。
「え・・・と、ここの依頼って、
成人してなくてもできますか?」
「できますよ。
ただ、依頼の範囲は狭まりますが。
どんな依頼ですか?」
女の子は少し俯いてから2枚の写真を
カバンから取り出し、言った。
「私は市立鳥時中学校2年の
白川愛菜です。
それで、依頼というのは、
この2人の教師を調査して欲しいんです。」
1人は細身のメガネの青年、
もう1人はストレートヘアの体育教師。
後者の方は、かなりイケメンだった。
「えーと、調査というと何を・・・」
「この2人のうちどちらかが
しようとしていることの証拠を突き止めて、
それを阻止してください。」
「しようとしていることとは?」
女の子は深呼吸し、
「信じてもらえないと思いますが・・・」
という前置きの後の言葉は、
中学生の少女には、
あまりにも似つかわしくない言葉だった。
「大量殺人です。」