<スタート>
<チャレンジャーズ>
天国から派遣された、
自分の存在が忘却された状態の世界で、
『悪魔』を討伐する兵士。
ほとんどが死人であり、
特殊能力を持つ武器を使って戦う。
3年間の任期を終えたチャレンジャーズには、
『黄泉がえり』の権利が与えられる。
また、チャレンジャーズになるには、
訓練を受けたのち、
以下の条件を全てクリアする必要がある。
・死亡時の年齢が、13歳以上39歳以下である。
・生前、下界で死刑、または終身刑に処される
罪を犯していない。
・死因が他人に追い詰められたことによる自殺、
虐待死、余命3ヶ月以下の病死、 他殺のいずれかで
ある。
「なるほどねえ・・・」
僕はナナハラさんから
配布されたプリントから目を離し、
横の椅子に座る夕を見る。
ここは、僕が天器を受け取った
ナナハラさんの事務室だ。
あの後、僕は体力を回復するのに時間がかかり、
2時間ほど眠ってしまったので、
待たされた夕はなかなかに不機嫌な様子だ。
すでにプリントを読み終え、
机に足を乗せてパイプ椅子を揺らしながら
ぼんやりと天井を見ていた夕は、
僕の視線に気づいたらしく、
椅子を揺らすのを止める。
「何?」
その時、僕は夕の視線が
僕を蹴った時と同じであることに気づく。
何か言わないとまた蹴られそうだ。
ちょうど良いので、僕は前々から
疑問に思っていたことを聞いて見る。
「君、勉強どうしてるの?
16歳なら、高校卒業してないだろ。」
夕は視線を天井に向けたまま答える。
「貴方と組む前に高校3年までに習うことは
全部頭に入れた。
高校の卒業資格は
降りた時に適当な高校を
卒業したことになるって。
だから、年齢偽装する。」
夕の僕の呼び方が変わっている。
少しは信用してもらえたらしい。
「本当に高校3年までの勉強やったの?」
「疑うんなら試してみたら?」
言われなくともと、僕はいくつか問題を出してみた。
夕は焦る様子もなく全て正答を答えた。
出した問題のほとんどは、
僕にとってはそこまで難しいものでこそないが、
それでも16歳までに習う知識では、
絶対に解けないような問題だし、
中には難関大学の入試問題レベルのものも
混ぜたはずなんだけど・・・。
どうやら高校3年までの勉強を理解したと言うのは
本当のようだ。
「参りました・・・。
すごいね。」
「身体強化の訓練が早めに終わって、
ずっと勉強してたからね。
けど、さっきの問題貴方が作ったの?
なかなかおもしろい問題だった。」
珍しく感心したように、夕が話しかける。
「まあ、学校の成績は悪いほうじゃなかったからね。
もっとも、
それもいじめの原因の1つなんだけど。」
「ふーん、それで自殺したの?」
「・・・まあ。
君も?」
「違う、私が自殺なんてするわけないでしょ。」
確かに、夕の性格なら、自殺する前に
その相手をどうにかしそうなものだ。
「えーと、
差し支え無ければ『死因』聞いていいかな」
「虐待死」
夕はさらりと言ってのける。
「・・・」
不味い、どう声をかけたらいいのかわからない。
そんな不穏な空気になろうとした瞬間、
「お待たせしました。」
ナナハラさんが入ってきた。
助かった。
「お互いの近状を話し合ってたと言うことは、
仲の悪さは少しは解消できたみたいですね。
良かったです。
さて、早速ですが、
説明には目を通して頂けましたか?」
僕たちは頷く。
「ありがとうございます。
では、最後に、私から説明するのは、
貴方達の討伐対象である敵、
『悪魔』についてです。」
ナナハラさんはそこで一旦区切り、
僕たちが話に集中しているのを確認し、
話し始める。
「悪魔について、わかっていることは3つです。
1つ目、人間に憑依し、巧みに誘導し、
基本的に人殺しを実行させる。
2つ目、悪魔に憑依された人間は、
身体強化の他、見た目が変わり、
様々な特殊能力が使えるようになる。
3つ目、『チャレンジャーズ』を敵対視している。
ですので、貴方達は『悪魔と戦う』と言うよりは
『悪魔に憑依された人間と戦う』
ということになります。
説明は以上です。
では、今から下界に降りて頂きます。
そちらの扉の前に立って下さい。」
僕達は力強く頷き、座席の後ろの扉の前に立つ。
ナナハラさんは僕達に携帯電話を渡し、
ドアノブを握る。
「貴方達の担当は、大阪府鳥時市です。
着いたらその携帯電話を使って合流し、
赤鳥マンションというところ
を目指して下さい。
そこに、貴方達の部屋がとってあります。
では、3年間に任期、
どうぞ頑張ってください。」
扉が開く。
その瞬間、
僕達はすごい力で引き摺り込まれて・・・