<人食いの弓矢、不死の黒鬼>
<天器>
『チャレンジャーズ』が天国から支給される、
力を宿す武器。
普段は装飾品で、
保持者が自身の意思で武器に変換する。
装飾品は、
生前からある程度馴染みのものである
場合が多い。
身につけるだけで身体能力強化があり、
常人の数倍の身体能力強化を得られ、
武器に変換すれば、
その他に固有の特殊能力を使うことができる。
なお、武器になるのではなく、
保持者自身を何かに変身させるものもある。
そのタイプは稀にしか見られず、
使いこなすのも難しいが、
そのぶん、
他の天器より身体能力強化が大きく、
特殊能力も強力である場合が多い。
いきなりの戦闘命令に、
僕がとまどっていると、
夕が不思議そうな顔で語りかけてくる。
「どうしたのよ。
早く天器出しなさいよ。
持ってんでしょ。」
「え、いや、持ってることは持ってるんだけど、
使い方が・・・」
「わかんないのね・・・
わかった、何にもわかってない
あんたを攻撃するのもアレだし、
最初で最後の情けよ。
教えてあげる。」
夕はそういうと、
20メートルほど後ろに下がり、
ズボンのポケットから
赤い十字架のついたネックレスを取り出し、
胸の前に構える。
「こうして天器に触りながら、願う。
内容はなんでもいいから、強く・・・」
次の瞬間、ネックレスは、
夕の背丈ほどある、真紅の弓矢へと変わる。
夕はニコリと笑い、矢をつがえ、
構えながら、言う。
「説明終わり。
はい、殺し合い開始♪」
矢が放たれる。
猛スピードで飛んでくる矢は、
常人なら
避けることなんて絶対に出来ないだろう。
・・・常人なら。
残念だが、僕はもう常人じゃない。
訓練したから。
矢を避ける。
意外とあっさり避けられたことに少し驚く。
どうやら『天器』は、身につけるだけで
ある程度の身体能力強化がされるらしい。
夕が新しい矢を放つ。
だが、そのスピードも
天器のおかげで、目で追えない程じゃない。
避ける。
この調子なら、
天器の特殊能力なんか使わなくても、
なんとか勝てそうだ。
そう安堵した時、
「・・・うわあ!」
右足に激痛が走る。
慌てて右足に目をやる。
僕の目がとらえたのは、
「右足」、そして、
「それに食らいつく
先端に牙の生えた口のある矢」だった。
「なんだこ・・・」
れ!と言い切る前に
ドン!と2本目の矢が右足に食らいつく。
そして、
グチャバキグチャ!
噛みちぎった。
「ぎゃあああああああああ!」
痛い!痛い!痛い!
血が止まらない、いや、それより、
右足がなくなっている。
僕は涙を流して痛みにのたうちまわる。
夕が呆れた顔で言う。
「うるさい」
また矢が放たれる。
今度は右手を食いちぎる。
痛みが増す。
天器天器天器天器!
戦わなきゃ戦わなきゃ戦わなきゃ!
僕は残った左手にはめられた指輪に願う。
(あいつを・・・ぶっ殺したい!)
しかし、天器は発動しない。
なんで!?
再度強く願う、けれど指輪は無反応。
「なにそれ、発動できないの?
弱すぎでしょ。
せいぜい弱かった自分を恨みなさい。
じゃーねー♪」
矢が放たれる。
今度は頭を狙って。
そこで僕は意識を失った。
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目の前に母さんがいる。
ぼくもまだ子どもだ。
走馬灯というやつだろう。
母さんが僕の肩を指輪をした手で抱き、
語りかける。
「賢治、いい?
貴方は近い将来、
きっと大きな力を手に入れる。
それは、人を簡単に殺せるような力。
でも、同時に沢山のひとを救える力。
もし、その力が必要になって、
その力を使うときは、
敵を倒したいではなく、
こう願いなさい・・・」
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・・・生きたい。
その瞬間、僕の身体に力が溢れる。
眼を覚ます。
目の前に牙が迫る。
かろうじて避ける。
左足を食いちぎられる。
だが、
夕は驚きの表情。
「な、何よその姿・・・」
僕は鏡を見る。
そこに映し出された僕の姿は、
それが自分であると認識するのに
数秒の時間を要するようなものだった。
黒い角、口に生えた牙、赤い瞳。
手には指先が鋭く尖った黒い手甲。
それは、人に似て、人ならざるもの。
それは、遥か昔、
人々に人喰いとして恐れられたもの。
それに酷似した僕の姿を見たものは、
きっとこう認識するに違いない。
「・・・鬼?」
極度の驚きを露骨に表現しながら、
僕は『右手を床につき、立ち上がった。』
その行為が不可能なはずだと、
僕は立ってから気づく。
再生している。
僕は少し考えた後、
どうやらこれは僕の天器の能力
によるものらしいという
結論にたどり着いた。
『自分の体の失った器官を再生する能力。』
・・・好都合だ。
夕の方を向く。
その瞬間、
全身にあふれる力。
「・・・いける!」
僕は踏み込み、
夕との距離を一気に詰める。
一回の踏み込みで、10メートルは跳んでいる。
とてつもない身体強化だ。
「こないで!」
夕が矢を放つ。
左手に当たる。
ちぎれる。
痛みを覚悟するが、
その覚悟は無用なものとなった。
『なくなったという感覚』はあるが、
『痛み』と呼べるようなものは
一切押し寄せて来なかった。
ただ、かすかに違和感があるだけだ。
再生。
「なんなのよあんたの力!
不死身だっての!?」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
僕は咆哮しながら拳を放ち、
夕の目の前で止めた。
風圧で、鏡がすっ飛び、
夕も吹っ飛びそうになるが、
僕はそれより早く彼女の手を掴み、
それを防ぐ。
風圧が止む。
僕が手を離すと、
夕は脱力したように、ペタンと地面にへたり込んだ。
僕はニコリと笑う。
「僕の勝ちだね。」
「・・・なんで止めるの?」
「女の子は殴りたくない。
まあ、君の場合は報復で
寝てたら刺されそうだから。」
そんな柄でもないギザな台詞を吐き、
しまった、カッコつけすぎたなと思ったのは、
僕が突然の強烈な脱力感によって
後ろ向きに倒れて頭を強打し、
痛みに悶絶するほんの数秒前だった。
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<天器>捕食者の弓矢
保持者:『チャレンジャー』夕(16歳)
能力:「敵を喰らう」生きた矢の発射。
矢は自動追尾で夕が敵と認識した物を
狙い、
攻撃力も
人をバラバラにできるようなレベル。
先端には牙の生えた食虫植物のような
口が付いており
これが敵を追尾して、
『刺さる』というよりも『喰らいつく』
ような攻撃を行う。
難点としては、
そのぶん動きが少し鈍く、
康太のような大きな身体能力強化
があれば、真正面からならそこまで苦もなく
回避することができる。
また、一定期間追尾しても
目標に当たらなかったり、
相手の回避行動によって別のものにあたった
場合、矢は追尾効果を失い、消滅する。
<天器>黒鬼の鬼輪
保持者:『チャレンジャー』康太(18歳)
能力:黒鬼に変身する。
変身しなくても
他の天器より
高い倍率の身体能力強化が得られる。
変身時は、
痛みをほとんど感じなくなるほか、
特殊能力として
絶命しない限り身体のあらゆる器官や組織を
瞬時に再生する
「超再生」の能力を得る。
(ただし心臓や脳など、破壊されれば即死にいたるような重要器官は再生不可能)
弱点としては、
変身には自身が他人からの攻撃によって
傷ついている必要がある他、
変身を解除した際には、
立っていられなくなるほどの
猛烈な脱力感に襲われる。