<自殺高校生のその後>
目を覚ますと、
僕は知らない部屋でベッドに寝かされていた。
あれ、何でこんなことになったんだ・・・
僕は起き上がり、頭の中の
記憶の引き出しという引き出しをひっくり返して理由を思い出そうとする。
答えには、あっさり行き着いた。
(ああ、そうか。僕屋上から飛んだんだっけ・・・
いじめで何もかも嫌になって・・・)
僕は学校で凄まじいいじめにあっていた。
殴られたり、蹴られたりはまだ序の口。
お金を取られたり、冤罪をふっかけられたりは
日常茶飯事。
虫を食べさせられ、
意味もなくみんなの前で土下座させられ、
持ち物は全て壊され、
机いっぱいに誹謗中傷の言葉が刻まれ、
階段から落とされ、
トイレの水を飲まされ・・・
上げていくときりがないが、
僕に死を選択させるには、
十分すぎる内容だったとだけ言っておこう。
母と妹に先立たれ、
鬱のようになっていた父
も無干渉だった。
そのせいで、いじめはさらにひどくなった。
それから逃げるために、僕は死を選んだ・・・
つもりだった。
しかし、どうやら奇跡的に助かったようだ。
その時、僕の心の中では、
助かったという安堵の心と、
まだあの地獄を味わわなければならないのか
という絶望の感情が渦巻いていた。
その時、ガチャリという音と共に
黒いスーツに黒い眼鏡をかけた男性が入ってきた。
そして、入って来るやいなや、
隣にあった椅子に座って、
喋り出した
「初めまして、賢治様、
私、天国天使育成部部長のナナハラと申します。
まずは、自殺の成功おめでとうございます。」
・・・今なんて言った? この人。
その細身の男性がにこやかに発した言葉に、
僕は驚愕する。
「あ・・・あの・・・、ここはどこなんですか?」
まさかそんなことあるわけない。
天国なんてないはずだ。
しかし目の前とスーツの男性は
不思議そうな顔で
「先ほど申し上げました通り、
天国でございます。」
と返す。
この答えを受け、僕は
真実を知るため、率直な質問をした。
「ここが天国ということは、僕は死んだんですか?」
「はい、お亡くなりになられました。
11月13日ですね。
今日が11月14日ですので、
命日は昨日です。」
日付までぴったりと当てられた。
そして、僕が死んだことをを真実とする
最大の証拠を、
ナナハラさんは
僕に見せた。
ナナハラさんが差し出した
タブレットに映し出されていたのは、
葬式の動画だった。
そして、遺影の中で笑っている青年は、
紛れもなく、僕そのものだった。
普段はこんな類は
全く信じず、徹底的に疑っていたが、
なぜかその時は素直に自分の死を納得した。
少しの沈黙の後、
僕は、
「・・・そうですか」と呟いた。
だが、納得したと同時に疑問がわいてきた
「あの・・・、質問があるのですが」
「はい、何でしょう。」
僕は疑問をぶつける。
「僕はこれからどうなるんですか?」
「はい、普通は仏としてここで生活していただくか、
もしくは、生まれ変わりのどちらかになります。
お好きな方をお選びください。」
「わかりました・・・」
僕が俯いていると、ナナハラさんは、
ぼくの顔を覗き込んだ。
僕の丸い目と、
ナナハラさんの曲線のような目があう。
「不満そうですね。」
「そんなことありませんよ」
「もっと生きたかったですか?」
「いいえ」
「嘘はいけませんよ」
「本音です」
「本・当にそうですか?」
ナナハラさんが口調を強める。
本当ですよ。
そう言おうと思った。
だけど、出たのは声だけではなく、
大粒の涙も一緒だった。
そして顔をくしゃくしゃにしながら、
語る。
「じがいまず」
「でしょうね」
「ばい」
「もう一度聞きますよ。
あなたは・・・」
「もっどいぎだがっだでず」
僕は涙を流しながら
本音を語った。
「ふむ」
ナナハラさんはしばし迷うような仕草をした後、
言った。
「では、もう一度生きてみますか?」
「・・・え?」
顔をくしゃくしゃにしたまま
ポカンと口を開ける僕を尻目に、
ナナハラさんは続ける。
「私は最初に
あなたの今後について「普通の2つの選択肢」を
提示しましたが、
あれだけではありません。
最初に言いましたよね。
私は『天国天使育成部部長』だと」
「あ、はい、
覚えてます。」
「あなたは天使といえばどのような
イメージをお持ちですか?」
突然の質問に、僕は泣くのも
忘れて考える。
「なんか人を天国に連れて行くもの、
みたいな感じですかね」
「ちょっと違いますね、紅茶飲みますか?」
ナナハラさんはそういうと、
ドアの外側から
紅茶の入っているらしい容器と、
ティーカップを2つ持ってきた。
「あ、はい。
違うというと?」
僕のこの問いに、
ナナハラさんは紅茶を淹れながら
振り向きもせずに答える。
「あなたがさっき言ったようなことは、
私たち天国の職員の仕事です。
天使の正体は傭兵です。
人間に仇なす外の世界の怪物と命懸けで戦い
人間を守る兵士。
そして、天使は
あなたのような死人がなるものです。」
ここにきてからビックリする事が多すぎて、
「天使が僕みたいな死人」というくらいでは
驚かなくなっていた。
「それで、何が言いたいんですか?」
ナナハラさんは紅茶の入ったティーカップを
僕に渡しながらいう。
「天使になってみないか、
という事ですよ。」
僕は驚きながらも冷静を装い、
質問をする。
「それ、僕にどんなメリットがあるんですか?」
このとき僕は、かなりこの話を警戒していた。
だが、次の言葉は、
僕の警戒を完全に解除させ、
この話に飛びつかせるのに十分な
威力を持っていた。
「もちろんただではありません。
天使として人間世界で
3年間の任期を終えたものには、
報酬として、
『黄泉がえり』の権利が与えられます。」
ナナハラさんが
さらりと言ったこの言葉は、
僕の全身を貫いた。
僕は確認する。
「それほんとですか?」
ナナハラさんは紅茶を飲みながら答える。
「嘘ついてどうするんですか。」
ナナハラさんのその答えに、
僕は決意を固めた。
「・・・やります。やらせて下さい。」
その言葉に、ナナハラさんが
真剣な表情で答える。
「いいんですか、命懸けですよ。」
僕はナナハラさんは見つめたまま言った。
「あんな絶望のうちに人生を終えるくらいなら、
自分で幸福を掴むことに挑戦して 、
死ぬほうがずっといいです。
やらせてください。」
ナナハラさんはニコリと笑い、言った。
「そう言ってくれると思っていました。
さすがは『あの方』のご家族です。
そうそう、貴方の様な無謀な挑戦をする方々を
あるものは蔑みの意味を、
あるものは尊敬の意味を込めてこう言います。
『挑戦者 <チャレンジャーズ>』と。」
僕は呟く。
「<チャレンジャーズ>・・・」
「いい響きでしょ」
「ええ、最高です。
今から『挑戦』する僕に
ふさわしすぎる通り名です。」
僕はニヤリと笑いながら答えた。
この時から、
僕の「第2の人生」か始まったんだ。
皆様こんにちは、尾弍木玲斗です。
さて、今回から本編に入っていきましたが、
いかがだったでしょうか。
この作品は、0話より楽しんで書けた気がします。
なんでもいいので、
感想をコメントに書いていただけると幸いです。