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 塔には不思議なところがたくさんあった。天井はあるのに雪が降る部屋があったり、虹色に光る氷の壁でできた部屋があったり。

 なかでも、薄いベールのような氷が幾重にも重なっている入り口を抜けた先にあった不思議な空間に、私はとても魅了されていた。


 ほの明るい青白い光を放つその部屋の中央には、立派な台座が置いてあり、そこからその神秘的な光が発せられているらしかった。しかし、遠くからではそこに設置されているものがなんなのかわからない。私はその台座の上にあるものの正体を見極めようと、ゆっくり近づいていった。


「待つのだ。人間」


 後方から声をかけられ、そちらを振り向くと、あの雪だるまが私をじっと見つめながら立っていた。


「それに近づいてはならぬ。それに触れたらお前のような貧弱な人間は、たちまち凍りついて死んでしまうだろう」


 それを聞いた私は目を瞬かせた。


「そこにあるものはいったいなんだ? とても強い魔力を秘めたもののようだが」


「白雪の宝石。その宝石のなかでは、絶えることなく雪が降り続いている。その宝石は、女王様の力の源であり、この地の冬を司っている。お前のようなものが触れることなど、許されるものではない」


 私はセシルが以前に見せてくれた宝石のことを思い出していた。ふいに彼女が見せてくれた不思議な宝石。雪の降り続ける宝石は、とても幻想的であまりにも美しかった。

 その宝石が、今この部屋にある。

 つまり、それこそが王から命じられたもの。この冬を終わらせるために私が手に入れなければならないものなのだ。

 しかし……。


「人間が触れることはできない。だが、彼女ならそれに触れられるわけだ。なぜなら彼女は冬の女王だから」


「ああ。女王様なら、この宝石を自由に扱うことができる。宝石を使って冬をもたらしているのは、他でもない女王様なのだから」


「やはり、この長く厳しい冬をもたらしているのは、セシル自身の意志なのだな。彼女がそのようにこの宝石の力を行使したから……」


 私は俯き、ぎゅっと己の拳を握り締めた。


「彼女がそうするに至ったのは、私が原因なのかもしれない。彼女の怒りや悲しみが、この厳しい冬となって、現れているのかもしれない」


 やはり、彼女に会って話し合わなければならない。その凍てついた心を溶かさなければならない。たとえ彼女が私を嫌いになってしまったとしても。


「雪だるま。きみに頼みがある」


「雪だるまじゃない。ノークだ」


「ではノーク。頼む。もう一度、セシルに会わせてくれ。きみの女王様に」


 私が懇願すると、ノークは雪でできた顔を強張らせていた。






 一度部屋に戻り、私は一人暖炉の前に座って待っていた。ノークはしぶりながらも、セシルに私の意志を伝えてくれる役目を受けてくれた。

 彼女が閉ざしてしまった心を、私は再び開くことができるのだろうか。私はまだ、こんなに彼女を愛しているということを、どうすればわかってもらえるのだろう。

 氷の中で揺らめく不思議な炎の色を、私は祈るような気持ちで見つめていた。

 しばらくして、部屋の扉が開く音がした。そちらに目をやると、ノークが入り口のところで立っていた。私は立ちあがり、ノークのところに近づいていった。


「人間。女王様にお前の意志を伝えたぞ」


「ありがとう。……それで返事は?」


 少し緊張して、私はノークの言葉を待った。


「駄目だ。女王様は会わないとおっしゃっている」


 胸を潰されたような思いがした。


「そんな! どうしても?」


「ああ。今の女王様にはお前がなにを言っても通じないだろう」


 私は暗く重い気持ちでそれを聞いた。けれど、ここであきらめるわけにはいかない。彼女がどんなに嫌だと言っても、私は彼女に再び会わなければならないのだ。

 それから私は、毎日のようにノークを通してセシルへ訴え続けた。


 会いたい。会いたい。会いたい。

 けれども、すべて返ってくるのは拒絶、拒絶、拒絶。


 私はそれを聞くたびに絶望しながらも、絶対にあきらめないと心に誓い続けた。




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