セーラー服と乾電池と消しゴム
少女はこいが大好きなんです。
最近、世間ではセーラー服がどんどん無くなっているとテレビの番組で特集されていた。さほどセーラー服に興味はないが、確かに最近はセーラー服よりブレザーのほうをよく見る。家の隣に住んでいる従妹も中学校時代の制服もブレザーだった気がする。従妹が中学の制服が届いて試着したときに見せに来たのを思い出す。彼女は嬉しそうに似合うかどうか聞いてきたのだ。
「あの頃はまだ可愛げがあったのに…」
時がたって、あいつは市外の女子高に通っているらしい。
「そういや、高校の制服は見せに来なかったな。可愛いって評判なところだったのに」
あいつは学校から帰るとすぐ私服に着替えてしまうからそういえば見たことがない。通っている高校の制服は評判しか聞いたことがないから、もしかしたらセーラー服かもしれない。どんな制服か今からでも見に行ってやろうか、と考えていると。部屋の窓ガラスが急に開いた、体がびくっと反応する。・・・こんなことする奴は、一人しかいない。
「今、何月だと思ってやがんだ!」
と、侵入者もとい隣人の従妹に向かって叫ぶ。あいつはすかした顔をしながら、
「十一月」
「わかってるなら、玄関からちゃんと入ってこいよ。寒いだろうが!」
「久しぶりに、会ったっていうのに、怒らなくてもいいじゃない」
呆れたような口調で言われた。だがしかし
「怒られたくないなら、早く閉めてくれよ」
さっきから、開けっ放しで、冷たい風が吹き込んできてとても寒い。
「…いやよ」
「なぜ!…ッは!もしかして俺なんか変な匂いする?」
そういや昨日、風呂に入らずに寝てしまったんだった。
「別にしないわよ、…単に嫌がらせよ」
「性質が悪いな!俺が寒がりって知ってるだろう?みろ!この青白い爪を」
「…仕方がないわね」と言って、しぶしぶとだがやっと窓を閉めてくれた。あれ?ここは、俺の城なのに。なんで仕方ねえな、みたいな感じになってんだ?
あいつは、俺の部屋にある学習机用のイスに座って、黙って俺を見ている。辺りを少し見渡したそして、首を傾げて、
「お茶は出ないの?」
とまっすぐ俺を見つめて言いやがった。
「不法侵入者に出すお茶はねえよ。で?…なんの用だよ」
「不法侵入者って誰のことかしら?この窓鍵なんてかかってなかったわよ。それに、玄関から入るよりこっちのほうが近いし。」
確かに俺の窓は、家が隣にあるあいつの部屋の窓に近い。だから、がんばれば屋根をつたって、侵入できなくもない。
「だからってなあ。危ないからやめろよ。」
「心配してくれるの?」
「そりゃ、まあなぁ。」
言葉に出すと照れるな。もしかしたら顔も少し赤くなってるかもしれん。
「…照れてる?」
あいつは、ニヤリと口の端をあげた。
「そんなことはない!で、用件は」
「あぁ。ねえ、乾電池ない?」
「電池ぐらい買えよ!」
「それが今学校で人から物を貰うと、願いが叶うお呪いがあるのよ」
「ほう、例えばどんな効果があるんだ…」
しかし、お呪いという言葉は字にしてみると何だかホラーチックになるもんだな。と、関係ないことをぼんやり考えていると、珍しくあいつは俯きながら、
「…こい・・手にいれる」
声が小さくて、聞こえづらい。鯉を手に入れるしか聞き取れんかったぞ。
「はぁ?鯉?・・・ほしいのか?」
そんな、恥ずかしそうに言うことかな。変わっているとは、思うけど。最近の女子高生は爺くさい奴がいると聞くし、老後の予行演習なのかねえ。
「ええ」
「へぇ。変わってんな。」
「…?そう?普通じゃないかしら」
うん?いま鯉、流行ってんのか?いまどきの若い子ってわかんねえな。
「で、何で乾電池なんだ?」
「ちょうど、電動消しゴムの電池が無くなっていたから、これは一石二鳥だわと。」
また、こいつも懐かしいものを使ってるな、電動消しゴムなんて小学生のときに一瞬流行ったぐらいだったぞ。やりすぎるとノートに穴が開くんだよな、あれ。
「ふうん、まあ、そうゆうことなら、別にいいぞ。単四だっけ?」
「うん。そうよ。ありがとう」
あいつは、単四の電池を受けとって、俺の部屋に来たように窓を開けて、帰ろうとした。相変わらず外の風は冷たい。
「「寒!」」
見事にハモッてしまった。
「おい、早く行け、寒いだろ!」
「はいはい、じゃ、ありがと」
「おう、鯉、手に入るといいな」
「ええ」
それにしても寒いな。こんな日に、スカートで学校に行かなくてはいけない、女子中高生はすげえなあ、おらあ、できねえよ。
そういえば、こいつの高校の制服はどんなのだったかな。
「…なあ」
「なに?」
「お前の学校って、ブレザーだっけ?」
「・・・いきなりね、セーラー服よ」