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モンスター、魔物使い、日本刀

「魔物使い?」

 夜、森の中。通常であれば決して森の中にはないものがそこにはあった。

 火だ。

 火の周りには人がいた。老人と青年。二人だ。

 二人は焚き火を中心にして対峙している。

 時折二人の間には言葉が交わされる。

「ほう・・・・・・。お前さんはまだあったことがないか・・・・・・」

「ご老人。魔物使いとはどのようなものだ」

 老人は、右手でそのあごひげを撫でる。目を細め、青年を見つめる表情には、孫を見るような慈しみの感情がうかがえる。

「魔物使いとは、文字通り魔物を使役するもののことだ。未熟なものはせいぜいが日常生活でしか役立てることはできないが、習熟したものは戦闘にまでその能力を活用することができるという」

「ご老人。その言い分ではあなたも戦闘に魔物を使っている魔物使いは見たことがないのか?」

「わし、戦闘にはあまり出たことないからのぉ」

「よく言うぜ・・・・・・」


 青年が老人と出会ったのは森の外側で狼型のモンスターに襲われている時だ。

 得物の短剣ではどうすることもできず、どうにかして狼から身を守っていると、森の中から青年の頭二つ分ほどの火球が飛んできたのだ。

 顔の高さに飛んできたそれを、慌てて伏せることで回避。直後、青年の後方で狼の悲鳴が耳に届き、生き物の毛の焼ける嫌な臭いが鼻をついた。

 伏せた状態で振り返ると、炎のなかで狼が悶えているところだった。

 炎のなかで悶える狼からどうにか距離を取り、その様子をただ呆然と見つめる。

「若いの。どうにか命拾いしたの。それにしても・・・・・・あの程度のモンスターを相手にできんようでは、この先に進むのは困難だと思うがの」

 ゆるゆると首を動かし、声のした方を向く。するとそこには土色のローブを着た老人が、杖をついて立っていた。


「で?その戦闘にあまり出たことのない魔法使い殿が、どうして魔物使いのことを俺に話したんだ?」

「ただの気まぐれ、と言ってしまえばそれまでじゃがなぁ」

 老人が再びあごひげを撫でる。

「あの狼、野生の狼に見えたかの」

 話の流れで、先ほどの狼の正体を知った青年は目を見開く。

「まさか、あの狼は魔物使いに操られていたのか?!」

「操られていた、というと少し語弊があるのぉ」

 老人はそういうが、襲われた青年にとっては同じことだ。青年は首をかしげる。魔物使いのことをどうして自分に話してくれたかはわかったが、なぜ自分が魔物使いに襲われることになったのか、その心当たりが全くなかったからだ。

「お前さん、純粋な人間じゃなかろ」

 青年は焚き火から距離を取る。穏やかに話す老人を、警戒心の混ざった瞳で伺う。

「そう怯えんでもえぇ。別に首輪付けて売り飛ばしてやろうなどと考えておらんわい」

「考えてないならどうしてそんな言葉が出てくる」

 老人は幾度か瞬きをした。

「それもそうじゃ。お前さん、見た目によらず以外と鋭いのう」

「バカにしてんのか!!」

 ホッホッ、と笑うだけで、老人は何も返さなかった。それが何よりの返事となっているようで、青年は腹をたてる。

「どうせ俺はバカですよ!!・・・・・・まぁいいや。どうせあんたに救われた命だ。そう。俺は4分の1獣の血が入ってる。じいやんが狼男だったんだ」

「なるほどの。おそらく魔物使いの狙いはお前さん自身だろうの」

 言っている意味がよくわからず、首をかしげる。

「魔物使いは魔物を使役する。だからこそ魔物使いなわけじゃが、では人間は使役できるのか。答えは否じゃ。その原因がどこにあるのかはわかっておらん。じゃが、そこに少しでも魔物の血が混ざれば話は別じゃ。おそらく今回の魔物使いはお主を使役できるようになりたいんじゃろ」

「そんなことしてどんな得があるんだ・・・・・・」

「若いのぉ」

 老人は魔物使いの目的までわかっているようだが、青年はその目的を知ることに激しい抵抗を覚えた。

「あんたから見れば大抵の者は若いだろうさ」

「いやいや、そんなことはないぞ?世には数百年を生きる種族もおる。そんな者に比べれば、儂なんぞ子供同然」

「さいで・・・・・・」

「ところでお前さん、狼男の血を引くというなら、何か特別なことはできるのか?」

「いや、何も。せいぜい普通の人よりも体が頑丈なぐらいかな」

「・・・・・・何も?父親はどうだった?」

「俺、狼男のじいやんは父方のじいやんだって言ったっけ?」

「何を言うとる。狼男の子供なら男になるに決まっておろうが」

「・・・・・・そういうもんなの?」

 老人がため息をつく。そんな態度を取られても、これまで気にしたことがなかったので気がつかなかった。

「で?父親は何か出来たのか」

「記憶にはあまりないけど、時々森に入って出てこなくなることがあったな。もしかしたらあの時なにかやってたのかも」

「まぁ、まず間違いなくその時であろうの」

「で?そんなこと聞いてどうするんだよ」

「いや、もうよい。お前さんにはもう用はない」

 そういった老人が、右手を上げる。それを合図に、青年の背後から人影が飛び出した。振り上げられた両手で日本刀を持っており、青年の脳天向けて振り下ろされた。

 老人が右手を挙げた直後、背後に人影が飛び出したことで、両者に何かしらのつながりがあると確信した青年は、体を焚き火に向かって転がす。青年が元いた場所には日本刀が振り下ろされ、地面に突き刺さっている。

「あ、危ないだろうが!なんのつもりだ!」

 焚き火から抜け出した青年がそう吠える。

「4分の1ほどに血が薄まると狼男としての能力は何も残らんのか・・・・・・。残念じゃ。が、それがわかったことが今回の収穫じゃな。お前さん。さっきの一撃を避けたことは褒めてやろう。そしてそのとっさの判断に免じて今回はその命見逃してやろう」

 老人が立ち上がる。焚き火と青年に背を向けて歩き出すと、先ほど青年に攻撃を加えた人影もその後をついていく。その時になってわかったことだが、青年に一撃を加えた人影は鱗をその体表に纏っていた。尾をもって二本足で移動する種族はリザードマンだ。

 その時になってようやく老人が魔物使いであると悟った。

「勘弁してくれよ・・・・・・」

 闇の中に姿を消した老人に向けてそう呟く。

 当然、闇の中から老人の返事はなかった。

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