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異文化交流

 浜辺で一人、水平線を望む男を見つけたらご用心。

「・・・・・・なぁ、ウル。これってどういう意味だと思う?」

 水の底で、泡を水面に飛ばしながら言葉が紡がれた。

 泡を生んだのは体の前半分が鱗で覆われた馬、後ろ半分に魚の尾を持った種族だ。ケルピーと呼ばれる種族の彼の名はピンナ。鱗の色が薄い青なのが特長だ。ピンナは近くで作業していた同じ種族の友人、ウルラートに問いかける。

「どれだ?」

 ウルラートは作業を中断すると、ピンナの側に漂ってくる。

 ピンナの手元には石板があり、水流に表面をかなり削られているが、一部だけ明確に読み取れる文字列がある。

「浜辺で一人、水平線を望む男を見つけたらご用心・・・・・・か」

「何か知ってる?」

 ウルラートはこのあたりに住むケルピーの中でも1、2位を争うほど知識の深い人だ。そんな人が、このあたりで住むケルピーの中で最も頭が悪いと噂される自分とどうして仲良くしてくれるのか。ピンナは時々わからなくなる。

「いや、ここにそんなものがあるだなんて気がつかなかった。やっぱり知らないところに来るときはピンナと一緒じゃないとダメだな。俺は本棚ばっかり気にしてたけど、ピンナはあちこち気にして俺には見つけられないものを見つけてくれるから」

 あちこち気にするばっかりで落ち着きがないって学園では先生に怒られます。

 ピンナは褒められたことで照れ笑いを浮かべた。

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 ウルラートはピンナに柔らかな笑みを返す。

 こうやって笑いあう時間がピンナは好きだ。学園の同級生たちみたいにすぐに競争で優劣を決めようとしたりしないから。

「でも浜辺って言われてもなぁ・・・・・・。浜辺はたまに見に行くけど、波打ち際まで近付いてるような人はあまり見ないな。あとは一人で浜辺にいるのも見ないなぁ」

「ピンナは浜辺を見に行くのかい?」

「え?うん」

 隣でウルラートが驚いた声を出す。普段落ち着いている印象の強いウルラートが、驚いた声を出すとは思っていなかったので、ピンナの方も驚いてしまう。ウルラートが驚いたということは何か自分はいけないことをしてしまったのだろうか。水面まで駆け上り、そこから息苦しい、水のない世界を覗いていただけなのだが。

「そうか。ピンナはもう外の空気を吸ったんだね」

 石板を見ているはずなのに、どこか違う場所を見ているウルラートを見て、ピンナの尻尾を不安が煽る。不安になった時特有の、尻尾を煽る感覚が、ピンナの尻尾を左右に揺らす。

「とにかく海から顔を出してみればいい。浜辺に一人でいる男がいるかもしれない」

 確かに水面から顔を出して浜辺を除けばそういう人が一人ぐらいはいるかもしれないな、と思ったピンナは頷く。

「だったら今から行こう!」

 次の行動が決まればすぐに動きたがるのはピンナだ。ウルラートは苦笑いを浮かべながらもピンナの後ろから何かと助けてくれる。

「あぁ・・・・・・。ごめんよ、ピンナ。俺はいけないんだ」

 今すぐにでも水面に向かって駆け上ろうとしたピンナは、予想外の泡の群れを聞いて困惑する。

「ど、どうしてだい?」

 ピンナの視線の先で、ウルラートの尻尾が落ち着きなく揺れる。

「このあとちょっと学院の方に顔を出さなくちゃいけなくてね。ピンナに付き合うことはできない」

 落ち着きのないウルラートの尻尾とは反対に、ウルラートの言葉は落ち着いている。あの動きは良く知っている。自分の言葉と本心が一致していない時の動きだ。

「あ、そうなのかい?じゃあ先生によろしく言っておいておくれ」

 ピンナは早口で告げるとウルラートの反応を見ないように急いで水面に向かって駆け上った。



 水面から顔を出すと、空気の壁と大きな太陽が出迎えた。

 水の底で暮らすピンナにはわからないが、地上で住んでいる人たちは月と太陽で1日の動きを決めるらしい。

 水面から浜辺を見渡す。今日は人の姿がない。

 少し残念に思いながら、波打ち際まで泳いでいく。

 波打ち際について、沖からでは発見できなかったものを見つけた。浜で大の字になって寝転がっている人間だ。浜辺で一人の男がいたことに驚き、先ほどの石板の文字を思い出す。一瞬身を硬くしたが、そういえばこの人間は水平線を見つめていないな、と緊張を解く。

「もし。そんなところで寝ていると波にさらわれてしまうよ」

 海に長年住んでいるものとして、ピンナは潮の動きがまるで体の一部のようにわかる。そろそろ水の精霊たちが眠りから覚め、海の水の量が増える頃だ。

「おや、海の中から声がする。俺もついに盗まれる側になってしまったか」

 男が上半身を起こす。

「あなたは誰?」

「俺か?俺は盗人さ。今さっきもそこの」

 頭を振って後ろを示す。

「魚市場でちょろっと飯を取ってきたところだ」

「そうかい。もうその魚はたべてしまったかい?魚は新鮮なうちに食べた方がいいよ。魚は新鮮なうちに食べないと損した気分になるから」

 死んでしまった魚など臭くてとても食べれたものではない。盗人は魚を持っていないので、もう食べてしまったのだろう、とピンナは思う。

「当然だ。とったものを後生大事に抱えて捕まるなんざバカらしいからな」

 盗人の言葉にピンナは首をかしげる。どうして魚をとったら捕まるのだろう?魚をとって捕まるなら、ピンナは捕まってしまう。

「それもそうだね。じゃあね。もう息が苦しくなってきたからもう帰るよ」

 ピンナは盗人の言っている意味がよくわからなかったが、話がわかっていない、と思われるのが嫌でこの場を後にすることにした。



 水の中に全身を浸すと、水が全身を包み込んでくれる。

 全身を水が覆ったことで、やっと呼吸が楽になる。

 口から泡を出しながら海底に帰っていく。ピンナの頭の中は盗人の言った言葉がぐるぐると回っていた。

 家に帰り着いてからも、ピンナは盗人の言った言葉を考えていた。

 魚をとったら捕まるというが、一体何に捕まるのだろうか。そもそも、ピンナの周りの人たちは皆魚をとって生きている。魚をとってはいけないなら、これからいったいどうすればいいのか。

 食事の後、両親に魚をとったら捕まってしまうのは本当か、と聞いてみた。

 ピンナの言葉を聞いた両親は大量の泡を生み出して笑った。魚をとって捕まるなんていうのは初めて聞いた、と父はいう。母もそれに同意した。

 自分の部屋に帰ったピンナは、それからもずっと考え続けた。

 考えて、考えて、考えた。

 それでもわからなかったピンナは、水の精霊が落ち着いたらウルラートに聞きに行こう、と思った。水の精霊が起きている間は、水流も激しく、水流に流されて全く知らないところに行ってしまうこともあるからだ。

 それからもピンナは魚のことについて考えた。考えているうちに眠ってしまった。

 魚に捕まって食べられる夢をみた。



 目が覚め、家の中から外を見る。

 水の精霊は少しずつ眠りについているのか、水流はだいぶ穏やかになっている。

 ウルラートのところに行こうとしたが、昨日の別れ際のことを思い出し、ためらう。

 ピンナは顔を上げると泳ぎだした。

 行き先は昨日盗人に会った浜辺だ。


 水面から顔を出し、浜辺の方を注視する。昨日の盗人を探すが、沖からではやはり見つけることができない。今日は昨日と違い人も多い。なんとなくだが、昨日の盗人は人が多い時にはいないような気がする。

 ピンナは水に一度潜ると、浜辺に向かって泳いで行った。

 浜辺の様子を伺いながら、しばらく泳いでいると、岩に腰掛けて居る一人の男を見つけた。

 ピンナは水面から顔を出す。

「おや、ケルピーが自分から顔を出すとは珍しい。これは吉兆の印かな」

「あなたは誰?」

「私かい?私は商人だ。その先の魚市場でこれからセリが行われてね。そこで魚を買い付けてよそに持っていくのさ」

「ふーん」

 ピンナはセリ、というものが何かわかりませんでしたが、魚をとってよそに持っていく、ということはわかった。

「魚をどうしてよそに持っていくの?魚をとったらその場で食べればいいじゃない。そうじゃないと魚の味がしなくなるよ」

 ピンナの言葉を聞いた商人は笑いました。

「よそに持って行ってそこにいる人に売るんだよ。そうやって私は生活している」

「そんなことをしてるんだね。じゃ、もう息が苦しくなったから帰るよ」

 味のわるくなった魚を他の人にあげるなど、なんと酷いことをする人だろうか、と思ったが、商人が魚をあげようとしている人はきっと商人の嫌いな人なんだ、と思って海のそこに潜って行った。

 しかし、ピンナは安心した。商人の口からは魚を取っても捕まる、というような話は出なかったからだ。昨日の盗人は自分の分を取っているだけで捕まる、といい、今日の商人は他の人にあげるといった。

 他の人にあげる商人が捕まらないのに、自分の分しか取っていない盗人が捕まるわけがない。

 きっと昨日の盗人の言葉は、ピンナをからかっただけなのだろう。そう思うと昨日ずっと考えて、魚に捕まる夢を見たことすらも馬鹿らしくなった。

 そういえば昨日食べた魚は、魚を取って捕まる、ということにばかり気をとられていて、ろくに味わっていなかった。

 帰ったら昨日の分まで味わって食べよう、と思う。

 そう思うと家が恋しくなった。

 家に向かって泳ぐ速度が自然と上がる。その日の魚はいつも以上に美味しく感じた。

お題は商人、盗人、海、でした

うーん。文体が安定しない。登場人物に地文を左右されるなぁ

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