3話目
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トラックにはスパコンのセットや生活用品に調理台他があり、今はないが屋内用の強化アーマーや重火器を置くスペースなんかもある。これら凶器を使うのは教団の理念に反する行為だが、諸事情によりUFや軍閥から優遇して貰える手筈になっているのだ。
(怒ってるんだろうなーあいつ) と全自動で走る『金剛フーズ』と社名の入った、大型トラックの荷台にいる俺は考えた。(最悪クビにされたら教団で働かせればいい、深く考えるのは止めよう) と脳内で結論を纏めたら、俺は椅子に座りながらテストと称して女神様にいれて頂いた、レモンティーのカップを口に当てて啜る。
警察庁のお膝元で遊ぶ度胸のない俺達は、時速200㎞まで出せる超高速道路で東に向かって走り続けている。約2時間ほど走って辿り着くのはサダクビア、漁師町なのに土地の関係から団地と漁港しかなくて、肉体系の流れ者やお尋ね者がよく稼ぎに来るから治安はあまりよくない所。
この町には金剛フーズが抱える漁船団があり、そこが確保している駐車場にタブレット上に表示される地図からトラックを誘導して停車。コスモスのテストに使う道具を持ってトラックから降りたら鍵を掛けて、昼食を食べるためにまず店をさがす事にした。
サダクビアの商店街は直ぐ近くにあり、狭くてバスやトラックが横切るたびにヒヤヒヤする道を進み、横断歩道を渡って魚の臭いに包まれた通りまでやって来る。
車止めがある道幅は3人が並んで歩けるほどで、両側には1階部分を屋台用のフリースペースとして確保してある階層建てが並んでいる。昼をとっくに過ぎたので労働者向けの食べ物がメインなここの人通りは少なく、屋台の火を落として夜用の魚を仕込だり、近くのテーブルに集まってお茶を飲んだりしている人が多い。
「こんな時間に来ても何もないよねぇ、どうしようか?」
と後ろにいるロックが声を掛けてきた。
「観光客は離れた所にある市場へ行きますから、店を構えている所も少ないんですよね」
と後ろできょろきょろと辺りを探している君宏の話しに
「安かろう悪かろうで、店へ入っても碌なのがないんだよな」
と俺もつづく。
こういう所には隠れた名店があったりもするが、それを見つけるのは至難の業。周囲から女神様へと注がれる好奇の視線やひそひそ話はほっといて、何か無いかと探して見つけた洋風の軽食を提供している露天を選択して近付いた。
海風の影響なのか塗装の剥げかけた白いテーブルや椅子が並んだ奥に、コマのついたショーケースに日よけがついた店があり、頭にスカーフを巻いてエプロンを掛けたおばちゃんが店番をしている。
その人から人数分のサンドイッチとゆで卵やコーヒーを買ってテーブルに戻り、コスモスへ椅子に座るように指示したらグシャッと木製品が潰れた。あっ、と目を丸くした俺達とおばちゃんは開いた口が塞がらず
「申し訳ありません。椅子を壊してしまいました」
と立ち上がったコスモスが、俯きかげんに謝るまで思考が纏まらなかった。
「細身でも280㎏だもんねぇ」
ロックが笑いながらこう言えばおばちゃんや通行人に怪しまれ、
「余計な話をするな別の場所で食べるぞ」
と話して立った俺は屋台にいき弁償をしてから移動する。
商店街を突っ切って港に出たら北へ進み、倉庫に係留所、競り場前を通りつつ港を抜けてから少し進むと、前を塞ぐように岩場が現れた。そこからサンダルに履き替えて波打ち際に向かったら、足を海に浸けつつデコボコしている岸壁に捕まって歩き、やがて狭小でゴミ1つ落ちていない砂浜へたどり着ける。
「隠れビーチで大人の撮影会♪」
足下が砂に代わると同時に走り出したロックは、少し離れた所から手招きをして俺達を呼び込んできた。
「元気なじいさんだな」
「高いんですから、そのカメラ壊さないで下さいよ」
「わかってる早くおいでよ」
3Dハンドカメラを頭上で振っているロックの側へ来たら、まず俺がひもで縛って背負っているビーチパラソルを降ろして地面に突き立てる。それから円形の日よけを展開してシートを敷いたら、ご飯を食べられる事への感謝を女神様に捧げた。
「撮影会をやろうよ、その為に服の下へ際どいビキニを履かせてあるんだ!」
食べ終わって直ぐに興奮して騒ぐロックの話には乗りたいが、聞き流した俺は仕事を始めるように指示をだす。
「撮影会からにしないか?」
「あのまま海水に浸けても大丈夫なんだよな?」
マックスも要望も出してくるが俺はスルーして聞きかえすと彼は
「水には浮かないが防水は完璧だ、仕事って楽しいなぁ」
と湿布を貼った顔を不満そうに歪めつつも諦めて、やる気なさそうにノートパソコンを広げて起動しする。
「早く終わらせればその分だけ遊ぶ時間は増えますよ」
「さっさと終わらせて遊びまくってやる。センサー類の確認からだ、コスモス俺の指示に従って動いてくれ」
「了解しました」
まず聴覚テストから。画面に表示される周波数特性グラフを見つつ、俺達4人の音声がちゃんと聞き分けているかを確認。それを終えたら至近距離で砂浜を歩き回ったり、針を鉄板の上に落としたり、遠くの方から話しかけたりする。
「最大200mまで音声を拾える、小型集音器の調子は問題ない。次はカメラだ」
ノートパソコンに表示される映像を見ながら、持ってきたラジコン飛行機を飛ばしてコスモスの望遠能力や追跡能力を確認。
「圧力センサーに指先や手足の調子を調べてくれ」
画面で動く数字を見ているマックスに従いつつ、ゆで卵の殻やキウイを皮をゆびや包丁で剥かせたら、全身を揉んだり叩いたりして反応を確かめ、首を360回したり手足の間接を逆方向に曲げたりして稼働領域を調べる。
最後は味覚と嗅覚で、吸い込んだり食べたりした物を肺にある小型タンクに溜めて分析する機能を使い、タバコの煙や剥いたキウイの成分を調べさせた。
「ちゃんと設計通りに動いているな、海水に入れるぞ」
「ロック博士、3Dカメラを構えてコスモスの撮影準備をするんだ」
海へはいる前には必要な行為がある。普通にやってもつまらないと指示をした俺はロックに続いてタブレットのカメラを構え、訳が分からないという連中をよそに、女神様へ波打ち際に立って頂いたら、その場で着ている服を脱いで下さるようにお願いをした。
「この変態め」
「恵愛さ~ん、見損ないましたよ」
「これは中々いいな」
「テストだテスト、これはAIと運動能力を調べるテストなんだ」
上半身から始めて頂くようにお願いすると、女神様は胸の下で絞っているTシャツを解いて両腕をクロスさせながら服の端を掴まれて、上に引き上げられていく。その下から現れるのは太陽に照らされて輝く肉体と、極小スペースしか守らない白い紐ブラ。
「いいっこれはいいよ」
「まだまだ序の口だ」
Tシャツを脱ぎ終えたらプログラム通りに女神様はそれを畳んで砂浜に置き、屈みながらジーンズの短パンに手を掛け、頃合いを見計らって俺はまたお願いをする。
「ここからは動く速度を半分にして、ゆっくり脱ぐんだ」
「了解しました」
「グヘヘヘ堪らん」
ジーンズを固定いるボタンを外したら男をじらす様にファスナーを降ろし、服に手を掛けてずり降ろし片足ずつ抜いていく。弁明するつもりではないがただ遊んでいる訳じゃないぞ。わざと不安定な格好を長時間して頂く事により、女神様のバランス感覚がどれだけ優れているかを確かめているのだ。
短パン下はマイクロ仕様、これは下着よりもやばい。ツーーと覚えのある感覚を感じたから、タブレットを使った撮影を君宏に任せてティッシュを鼻に詰める。
女神様の準備が整ったら耐水試験の開始。
まず女神様を海に入られたら光が届かない深さまで歩かせる。そのまま半時間ほど停止させたらその間に、ナイトビジョンや赤外線センサーの調子を調べて、体のどこからも浸水警報が出ていないのを確認してから呼び戻す。
「もう仕事はないよね? ねっ?」
俺達の側へ女神様が戻ってきたら、何かを期待する子供の様ようにつぶらな瞳でロックが訴えてくる。もう俺に止める理由はない。一日千秋の思いでこの日を待ち続けてきた俺達は、弾む足取りで女神様と一緒に波打ちぎわや岩場に移動したら、グラビアアイドルのような大胆なポーズをおとり下さるように頼んで撮影会に没頭していく。
※
PM8:00、どんな手を使ったのか幾ら探しても兄さんは見つからない。
周囲へ聞き込みをしても手応えはなく、高級マンションにある数少ない監視カメラを調べも、玄関ホールには兄さん以外の住人しか出てこないし、マンションの回りにもそれらしき人物は映っていなかった。
クビ確定、私は明日から無職、それならまだましで、もしかたしたら共犯を疑われて逮捕されるかも知れない。こんな事を悩んでいたら何もかもが嫌になり、夕飯を食べに行くと言って路地裏のおでん屋台にきた私は、やけ酒を浴びるように飲み始める。
堅い丸木椅子に座りながら捻り鉢巻きをしている屋台のおじさんに、ガラスのコップへ大吟醸を注いで貰ったら、職務中なのにグィッと飲み干す。
「そんな風に飲んだら体に毒だよ」
2敗目を求めたらおじさんは気遣ってくれるけど私はイッキ飲み。
「3杯目を頂戴」
ドンッとおじさんの前にコップを置いたら
「何か食べた方がいいよ」
って言ってくれたけど
「もう私なんかどうなってもいいの、逆らうなら逮捕するわよ」
と話して注がせたら一呼吸で飲みきる。
「何があったか知らないけどさこれでも食べなよ」
おじさんが湯気のたち昇る鍋から、よく煮えた大根と卵につくねをお皿に取り分けてくれた。その優しさに思わず涙がこぼれそうになったけど、私はそれを誤魔化すように4杯目を飲みそれから5杯目を求めると
「皿を空にして空にしてからでないと駄目だ、体を壊すよ」
とおじさんに拒否されるも手錠をちらつかせつつ
「お酒に溺れて全部忘れてまいたいの、私のためを思うなら注ぎ続けて」
と頼んでどんどん飲んでいく。
10杯目で一升瓶を空にしたらその先へ、もう何も考えたくない。(この体が壊れたら兄さんは心配して出てきてくれるかしら?) とあり得ない妄想を抱くぐらいに、私の心は荒みきっていた。
「……恵愛刑事部長おきて下さい」
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしく揺さぶられて目覚めた私は、手を引かれてながら車の後部座席よりそとへ出る。頭がガンガン響いて胸焼けがし、二日酔いの症状を我慢して振り返ったら私を乗せてきたパトカーそこにあった。
(どうやら逮捕されたみたいね、これから尋問されるんだわ) と諦めている私は巡査に付き添われながら、警察庁のビルへと入っていく。
警察だからって無骨な感じにしなきゃいけない意味はないわ、女は美しさが命、美しさに拘って何が悪いのよ。というマリー警察庁長官の意向の元、愛想のない外見と違って内部は女性らしさに拘った華麗な作りになっている。
長官は赤いバラが大好きなので至る所にある花瓶には、造花や本物のバラが沢山飾ってあり、壁は白じゃなくて淡いピンク色、廊下にある絨毯は赤これ以外認められない。
プライドや矜恃に拘る男の中には一見あっち系の店に見えるここが気に入らず、出ていったり理想と現実のギャップに苦しむ奴も多いけど、私はここが好き。大人の女として自分を堂々と表現しつづけるマリー長官に、尊敬と信奉を捧げる女性はウォーターポロに数え切れないほどいる。
そんなマリー様の命令を受けて兄さんの監視を続けてきたのに、脱走を許してしまうなんてもう合わせる顔がない。
「最上階で長官がお呼びです、エレベーターに乗ったままでいて下さい」
と私を床に座らせた巡査は、25階のボタンを押すとエレベーターから降りた。あの人は男嫌いなので、余程の用事がなければ側へ寄らないのがここのルール。
扉が閉まるとよくメンテナンスがされたエレベーターは、僅かな振動も感じさせずに上っていき、途中の階で止めて逃げようかとも考えたけど、逃げても何も変わらないから檻に閉じ籠もったまま私は長官のもとへ向かう。
(眠い、吐きたい、こんな惨めな私を晒す位ならいっそ泡となって消えてしまいたい) そんな思いを抱えつつエレベータが止まると、扉が開いて甘い匂いが漂ってきた。お酒くさく汚れた今の自分にこんな高貴な香りは似合わない、立とうとしたけど上手くできなくてへたり込んだら
「みっともないですよ恵愛刑事部長。部下を纏める立場にいる人がこんな醜態を晒してはいけません、さぁお立ちなさい」
とエレベーターの側で待っていたらしいマリー所長が声を掛けてくれた。
ウェーブの掛かった黄金の長い髪、大人びてあこがれる顔、腰が高く磨き抜かれて余分な肉のない白肌にあるのはおっきな胸。それを包んでいるのは男に媚びらない空色をした警察官の制服。
私なんかとは天と地ほども差がある理想の女性、それがマリー=ローズ様。
そんな人が綺麗な手を差し伸べてくれたけど、私には掴む権利なんて無い。
「刑事部長でありながら性根のねじ曲がった兄さん1人押さえつけられない、無能な私なんか放っておいて下さい」
マリー様のお顔をみる勇気もなくて横を向いた私は、ぼそぼそと小声で話す。
「情けない! それでもいっぱしの刑事ですか、立つのです」
マリー様は私を叱りながら腕を掴むと力に任せて引き起こし
「洗面台で顔を洗ってシャキッとしなさい」
と私の腕を首から肩に回して支えたらトイレまで連れて行ってくれて、そこで吐いた私は長官が渡してくれた薬を貰って飲み、顔を洗ったら毛布を借りソファに体を横たえて寝かせて貰う。
(マリー所長はこんなに優しかったっけ? 人は見かけによらないものなのね)
※
PM8:00、時間を忘れるほどに入れ込んだ男の野望を追求する撮影会、海沿いのレストランで夜景を眺めつつ美少女アンドロイドを愛でてする夕食は、今まで生きてきた人生の中で1番美味しかった。
そして俺達はいま秘密基地の地下にある通信室にいる。
「一時期はどうなるかと心配していたが完成したので一安心だ。まずはおめでとうと言っておこう」
とこう話された、床に置かれた装置から表示される等身大のホログラム映像は、金剛軍事財閥の現当主であらせられる金剛一徹様である。
もうすぐ70歳だというのに紋付き袴をきた白髪のお爺さまは、腰が曲がる所か威風堂々と立っていて、蓋世之才に溢れたその実力と影響力により宇宙連合を動かせるほどの辣腕を発揮されている凄い人なのだ。
「先日の暴走による影響はどうなっている?」
「負傷者は手配して頂いた裏病院へ入院させて治療中です。事実を隠蔽するべきかとも思いましたが、今後を考えて素直に話した方がよいという判断から、外部へ漏らさないことを条件に惑星外のメインメンバーにも説明し納得して貰いました。信者獲得への影響については全く問題はありません」
「そうか、それでいい。宗教とは教祖とその取り巻きに対する信頼関係が肝になる、その正直さを忘れるでないぞ」
「心に刻んでおきます」
この人と話しているとどうしても緊張を強いられてしまう。教団の制服は白布の鉢巻きに蛍光ピンクの法被とジーンズと白シャツ。決してふざけてる訳ではないが、政界の重鎮と向き合うのにこんな格好をしているから、せめて態度は示そうと背筋をただし引き締めた顔で話しているのだ。
「争いを止める手段として娯楽に勝るものはない、とかつて貴様は偉そうにも儂に説教を垂れた訳だが、命がけでやってのける覚悟はあるのじゃろうな?」
複数の衛生を介した亜空間通信技術で、地球からリアルタイムで届くこれはただの映像なのに、俺達へちびりそうになる威圧感を与えてくる。
「勿論です。我らAI女神信仰教団は来るべき時に備えて、太陽よりも激しく燃えさかる情熱と血の繋がりよりも強い団結力をつかい、日々努力と研鑽をつみ重ねております」
「そうかなら安心だ。所で……例の物はできておるか?」
「完成しております、それはもうとびっきりのやつが」
どんなに偉くても男は男、これは変えようがない。仕事の話が終わったら、じいさんは何かを警戒して周囲を見渡してから小声で、あのデータを提供するように求めてきた。
「ロック=ジャキーソン、今日作ったばかりあれを送信して差し上げるんだ」
「了解~、出来たてホヤホヤの写真集と動画を送信するよー」
巷に溢れるそこいらのモデルなんか目ではない。どんなに恥ずかしいのを着せても文句1つ言わず誠実にやってのける女神様の映像を、パソコンを操作しているロックがこれでもかと送りつけていく。
……暫くして
「おおお、これは中々……実によいできだ。一分の隙もないこの容姿、人間ではこうはいかん。もう1台作って儂の手元にも置きたい所だな」
とどこからか持ち出したノートサイズのタブレットを操作して、送られてきた映像を見始めたじいさんは目が輝いてくる。
「ホログラムデータは制作中だよ、興奮しすぎてぽっくり逝かないでね~」
「バカもん! 儂を誰だと思っておるか。しかしあれだな、これは目が気に入らん。視線に物憂げな表情とか全体的に固すぎる。もっとこう少女らしくしならんものか?」
と話しながらじいさんはタブレットを操作して、顔のアップやこことこれが良くないと矢印などで書き加えた写真を、こちらに送り返してきた。
それを自分ので見た俺は、
「ロボットに人間の感情を理解させ、微妙な違いを表現するのは難題の一つです。指示通りに動かすだけなら直ぐに修正できますが、彼女が自発的に学ばなければ意味がないありません。その件は時間を掛けて学習させていく事になります」
と返事をする。
「それは残念だ。しかしこれは人間とて同じこと、焦らずゆっくりとやるしかない」
「その通りです、焦りすぎてコスモスに影響を与えてはいけません。彼女がこれから学習していく人間の生活とそこから生み出される様々な感情が、人類の未来を決定します。目先の損得よりも先を見据えた行動が肝心なのです」
「若造がほざきおったな、だがそれでよい。宇宙規模の宗教団体を率いるのだ、儂1人すらと張り合えようでは話にならん」
「これからも尽きる事のないご支援と、若輩者へのご教授をよろしくお願い致します」
「任せておくがいい、お主達も努力を怠るでないぞ。それではまた連絡を入れる」
通信が終わって床から照射されていたホログラム映像が消えたら
「やっと終わったか」
と気をつけをしていた俺達は、近くにある椅子を引き寄せてそれぞれへたれ込む。
「UFを動かせるだけあって、笑っても迫力あるじいさんだよな」
「直に会ったらもっと凄いですよ」
肩から力を抜いて腕時計を見た君宏は
「そろそろ時間です礼拝堂に行きましょう」
と言うので俺達は移動を開始する。
礼拝堂と言えばお祈り、お祈りと言えばあれ、これがAI女神信仰教。
始める前にドレッサールームで女神様に専用のふくへと着替えて頂いたら、ロックとマックスに預けて、俺と君宏はスポットライトが照らすステージへ上がる。法被と鉢巻きを身につけてここに集まった人は男女合わせて200名越え。普段は植物工場の労働者として働きつつ、必要な時には信者として力を貸してくれる人達だ。
(我らながらよくここまでこれもんだ) と感慨に浸りながら、信者達の前に立った俺は両手を大きく広げつつ
「AI女神信仰教のために日夜弛まぬ努力を続けている同士諸君、ついに女神様が完成したぞ! 地下に隠れてコソコソするだけの生活はもう終わりだ。この日をもって我々は愚かな権力思想に毒された世界をネオ・ユートピアへと作り変えるべく、世界秩序への挑戦を開始する!」
と大仰かつ高らかに宣言をした。
すると場内で歓声が沸き上がるから頃合いをみて
「静まれ! 女神様のご降臨である!」
と場を納めつつ、胸に付けたマイクからマックス達へ指示をだす。
そうしたら
「了解~始めるよー」
とイヤホンから間の抜けた返事が聞こえて、数秒後にブシューっとステージの回りから煙が吹き出してきた。空気より重い煙が立ち籠めて辺りを覆い尽くし、眩しいスポットライトが中央に集中されたら中央の床が2つに割れる。
その開いた穴から昇降機に乗って競り上がるのは女神様とその付き人。光沢のあるシルクのロングドレスに身を包まれた女神様の、背中にある差し込み口にはナノマシンで作った稼働式の柔らかな翼が2枚付いていて、我が教団のシンボルである純金で作った太陽の杖を右手に握られている。
しずしずと杖をつきながら歩かれる女神様は、元旦に起きた暴走事件を忘れさせられる位の神々しいお姿で、ステージの端まで来ると高圧的な態度で信徒を見下ろしながら
「皆のもの大儀である! 今日ここに集まって貰ったのは他でもな……」
と訓辞をお話になられ始めるのだった。
「なんでだよ!」
とそれに即突っ込んだのは俺。これはマンネリ回避用の別ヴァージョン、つまりただの設定ミスな訳だが予行練習をするべきだったと後悔した。期待からくる高揚感に溢れていたステージは急速冷凍され、重苦しい雰囲気の中で200名以上からの視線を浴びながら俺は打開策を求められる。
(1、やり直す。2、笑って誤魔化す。3、ロックに責任転嫁する)
幾つか案は考えるも設定したのは彼だから
「ロック=ジャキーソンこれはどういう事だ、説明して貰えないだろうか」
と俺は後ろを振り返りつつ、舞台袖から逃走を図っている博士へ丸投げした。
「しょうがないじゃないか! 忙しすぎて細部を詰める余裕はなかったんだ、僕1人の所為にするなんて教祖失格だぞ!」
こっちを見た3色頭のロックは逆ギレで力説し、彼から変わって俺に非難の視線が集まると大変困ってしまう。
俺は教祖だからどうにかする責任がある。(何かきっかけでもあればいいのだが、どうしたものかな……) と重圧に耐えながら機会を探っていると、真面目な表情を作って俺をみた女神様が
「喧嘩をするのはよくないと判断します。トラブルの原因は私にあるようですが、私はどのように振る舞えばよろしいのでしょうか?」
と聞いてきた。
「いやどのようにって言われても困るんだが……」
「すげーなおい、あのアンドロイドは人間の仕草をみて次の動作を自分で決めだぞ。これが人工知能というやつか」
この差が分かるとはさすが教団の信徒、ステージの最前列にいる中年の男が感心して頷きながらこう言うと、回りもそれに続くように女神様へ注目する。そしてこの機を逃すまいと俺は真実を告げるのだった。
「よく見抜いたな。今までのやり取りは、女神様の完成度をみんなに理解して貰うためのデモンストレーションだ。わざとトラブルを起こして女神様がどう反応するかを見て貰ったわけだが、納得して貰えただろうか」
「おおそうだっだのか」
「確かにこれは凄い」
「さすが恵愛様、素晴らしいですわ」
ピンチをチャンスに変えるこれぞ教祖の真骨頂、批難から拍手喝采へと礼拝堂の空気が変わったら
「嘘つき」
と後ろにいるロックが小声で呟いた。
「余計な事は言わなくていいんです」
ロックを抑えてくれたのは君宏で、後はこの流れを維持しつつ早々に話を切ればよいのでだから、俺は女神様へ何もせず棒立をして下さるようにお願いし
「今日はお披露目だからここまでにする、全員熱唱の構え!」
とその横へ並んらだ声を張りあげて両足を肩幅ほどに開き、両手を組みながら後ろに回して胸を張りみんなが続いてくれるのを待つ。
そして準備が整ったらやや仰け反り気味に
「1つ、我々は相手が機械だろうと差別しない!」
と大声をだし、信徒のみんなの復唱を聞きながら順に教義を述べていく。
「2つ、我々は日々の鍛錬を欠かさず行い堂々と生きる!」
「3つ、我々は困っている人を見捨てない!」
「4つ、我々は知りえた知識と技術をみなで共有し、自らの趣味を全力でたのしむ!」
そして全員の復唱が終わったら
「いじょうで女神様の降臨祭を終了する、最後にお祈りをしてから解散だ」
と俺は指示をだし、女神様を囲むようにみんなで両膝をついたら両手を組んで
「1、2の3ハイッ」
「萌えーーーーーーー♡」
と尊敬に畏怖の念を加えた祈りを女神様に捧げたら儀式を終了する。