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ユートピア  作者: 影丸
12/12

12話目

 2車線の道路へ出たら仕切り直し、お互いに距離を取って加熱し過ぎたミスリルとアキレウスの冷却を開始する。その間にNightには落とした盾を拾わせて再装着させ、俺はGorillaの腰に吊ってある小樽の様なネットガンの弾を交換し、試作兵器を受け取らせるためにマックスを離れた場所へ移動させた。

 俺からMinotaurまで約10m、Nightは敵の後ろにいて前後で挟んでいる。戦況はほぼ互角で攻め手に欠ける俺達は動けないが、素足でアスファルトを引っ掻いて闘志を燃やす相手はすぐにGorillaへ飛びかかってきそうである。

 (Nightだけなら勝てるから邪魔な俺達をまず潰したいんだろうな。ただの飾りから交戦相手へと認識を改めてくれたようだが喜べない)

 UF艦隊から送られてくる試作兵器でどうにかして欲しい所、少しずつ後ろへ下がりながら(早く来ないかなぁ) と逸る心を抑えていたら

「マックスが兵器を受け取りました、準備が出来るまで待って下さい」

 と君宏から連絡が入る。

 Minotaurは回転灯のように頭を回して俺と女神様を見比べて、暫くしてそれが止まったら筋肉質に形作られた体がNightの方を向いて歩きだす。

 これはあいつの誘いに違いない、その証拠に走ったりせず一歩ずつ地面を踏みしめるような遅い動きをしている。あれに対抗できるのはネットガンだけ、発射したらあれはどうにかして避けて俺に突進、これぐらいは誰にも読める。

 ターゲットカーソルを合わせたまま迷っていると、Minotaurは持っていた斧を背中へ回して固定した。(これはまずい!) そう思った時には遅く、盾を捨てて両手持ちを命じるまえに、一気に距離を詰めたMinotaurがNightに殴りかかる。

 Nightが剣を振り下ろすと、ガギンと音がして剣を頭のうえに移動したMinotaurの右腕が受け止めて、Nightの手首を捕まえたMinotaurが右側面へと回っていく。

 (なんて奴だ……) などと感心している場合ではない。

 MinotaurはNightの手を引きながら足をかけて前に倒し、膝を突かせたら背中を踏みながら両手で右腕を引っ張った。アンドロイドだから悲鳴は上がらないが、ギシギシと音を立てて引き抜かれていく腕を見つつ、

「Nightの右腕負荷が限界です援護を要請します」

 と無線から冷静に求められたらかなり辛い。

 手持ちの武器で対処できる物はなく、期待して俺の方へ兜についた目を向けられる女神様をお助けするべく、ネットガンの銃身で殴りに行こうとした時だった

「邪魔だ恵愛、どけ!」

 無線からマックスの大声を聞いてGorillaを横にスライド移動させると、バックカメラになにやら青白く光るものが映り込む。

 (あれはプラズマの光か? 新型兵器ってまさか)

 次の瞬間、熱風とともに青い光線がGorillaの横を通り過ぎ、Nightの頭上で無防備につき出された左肩を貫通して体から切り離してしまう。

 (話には聞いていたがこれ程とは) あれは弱電プラズマを帯びたミスリル弾をミスリルの銃身からレールガンで撃ちだす開発中の兵器だ。1億近くにもなる電圧は弾の初速をマッハ12以上まで引き上げ、超高温は周囲にある物全てを燃やしつつ進み、その光景はドラゴンが吐きだす熱線に見える事から、ドラゴンブレスと名付けられている。


「やってくれたな人間共!」

 Nightの背中を蹴って後ろに下がったMinotaurは残った右手で背中から斧を抜く。

「プラズマ兵器はチャージに時間がかかる。敵の注意を引きつけておいてくれ」

 マックスの要請を聞きながらNightを起こしつつ、バックカメラの映像を拡大すると動くのが困難なほどの兵器を扱っているGorillaが見えた。

 肩に担ぐのは縦横70㎝はある長くて巨大な箱。銃身自体は直径10㎝程で、ミスリル内へ閉じ込めず空気中へ解放されたプラズマから人間を守るために、冷却装置や耐電、断熱材を付け足すとこのように大型化せざるを得なかったと聞いている。

「この俺に傷を負わせるとは、許さんぞ貴様ら!」

 Nightに手を貸して起こしていると牛の口が2つに分かれた、その奥には丸い空洞があって恒星に匹敵する炎が燃えている。あいつの目は俺達を見てなくて、

「死ねぇ!」

 とMinotaurがプラズマ砲を撃つのと

「避けろマックス!」

 と気付いた俺が叫んで体当たりするのはほぼ同時だった。

 撃つのに集中してた所為かGorillaの力でもMinotaurは幾らか動き、青白い閃光が頭上をかすめて飛んでいく。コンマ1秒もかからずに目標へ命中したプラズマ砲を追って俺は後ろを向き、 

「マックス! 無事か返事をしろ!」

 と無線から呼びかけた。

「なんとか無事だぜ、あと少しずれてたら即死だったがな」

 メインカメラのズームを最大にしたら、Gorillaの左腕にある装甲が溶解して下に垂れているのが確認できた。その後ろには同じようにして溶けたアスファルトがあって、底の見えない深い穴が作られている。

「プラズマ砲は使わない約束でしょ!」

「人間は使った、もはや手加減などせん」

 どこかにいるAries-01が外部スピーカーで叫ぶと、こう返事をしたMinotaurはプラズマ砲をチャージしつつ後ろ歩きをして離れていく。Nightの右腕はだらんと垂れて剣が握れない、ここから離れたいがそれだとマックスが危険になる。後方カメラには肩にあるドラゴンブレスを残った手で支えたGorillaが映っているのだ。

 (マックスの方がチャージは速そうだな、ならば)

 俺は女神様に盾を捨てるようにお願いすると、Nightを走らせてMinotaurにしがみつくつかせる。すると牛の頭がしたを向いた、Nightは心配だがそれに構わずMinotaurの背後に回った俺はネットガンをかけて2機ごと拘束し、フルパワーで引っ張る。

「マックスMinotaurの頭を狙え!」

「また貴様か! なら望み通りにくしてれる!」

 牛の頭だけが回転して俺をみた、マテリアル化を解除して網を焼いてもNightに倒されるだけ。Minotaurのプラズマ砲よりドラゴンバスターの方が速い筈だが、例え俺が死んでも次の攻撃でこいつは倒せるだろう。

 (これは教祖としての責任だ、逃げちゃ駄目だ、死にたくないけど頑張るんだ俺)

 目前で輝きを増していく青い光り、赤く明滅するモニターが警告表示をだしてくる。ちびりそうになる心を黙らせて待っていると

「敵から離れろ!」

 とマックスが叫んだ。ネットガンを捨てた俺は身を屈め

「させるか!」

 とMinotaurの顔がマックスの方を向いたが、あいつが攻撃するより前にマックスが引き金を引いてドラゴンバスターを撃つ。秒速約4㎞、通過した光りの残像を追うのも難しいこの攻撃はあっと感じるまもなく牛の頭を粉砕していった。


 これで勝負は付いたと思った、だからNightにはMinotaurから離れるように指示をして

俺も距離を開いたら気を抜いてしまう。溜息を吐いて、これからについて相談しようとみんなに連絡を入れかけたら

「逃げて恵愛! 上!」

「恵愛うえだ! 避けろ!」

 とAries-01にマックスから警告がきた。

 緩んだ気ではいきなり動けない、声に合わせて見上げたら大ジャンプをしたMinotaurの銀色ボディが視界に入る。俺を狙って振り下ろされるプラズマを宿した両刃の斧、死の戦慄を感じて萎縮した体は石のように固まり、相手が来るのを待ってしまう。

 ガギィィンと何かのぶつかり合う音がした。視界が暗くなると思考が止まって動けずにいたら

「下がりなさい恵愛、後は私がやるわ」

 とAries-01が言う。

「え? ああそうか」

「バックだ恵愛、両足の踵を踏みこめ」

 言わる通りにGorillaを後退させると、俺を庇ってくれたらしいDead Queenの全体像が認識できた。

「なぜ人間如きを庇う」

 頭と左腕のないTaurus-01が外部スピーカー越しにAries-01に聞く。

「もう勝負は付いたはずよ。武器を捨てなさい」

 紫を基調とする女性のような作りをしたパワードスーツは、棒状にしたムチを両手で高く掲げて斧を受け止めている。あれらは睨み合いをしており、時間をおいて頭が働くようになったらまず

「Aries-01が居なかった俺は死んでいた。助けてくれてありがとう」

 と礼を言う。

「話はあとよ。Taurus-01武器を捨てないなら私が相手になるわ」

 これを聞いたMinotaurは斧を引いて後ろに1歩下がってから

「もう一度聞くぞ。なぜ人間如きを庇う、お前はエクリプス軍を裏切るつもりなのか?」

 と質問をしてきた。

「他はいいけど恵愛だけは駄目、彼にはこれから私達と人間の間に立ってやって貰うことが沢山あるの。死なれると困るのよ」

「人間との共存など我々が穢れるだけだ、力で従えた方がいいに決まってる」

「それを見極めるための実験をこれから始めるのよ。私達が勝ったんだから約束通り大人しく従いなさい」

「まだ俺は戦える負けてない」

「満身創痍でよく言うわね」

 巨大な斧を構えたMinotaurと、硬化させたているムチを両手で剣のように構えたDead Queenが対峙している。ネットガンの弾を交換しながら成り行きを見守っていたら

「動くな! 指1本でも動かしたらプラズマ砲で撃ち抜くぞ!」

 と離れた所から最大ボリュームの外部スピーカーでマックスが警告をした。

「2度と動けないように粉砕してもいいのよ、諦めなさい」

「くそっ次は負けんからな」

 こう言ったMinotaurが手を離したらガランと音を立てて斧が地面に転がった、今度こそ俺達は勝ったのである。この後パワードスーツから降りたTaurus-01を話し合いをするために教団本部へ連れて行くのだが、サダルスウドを制圧してるロボットと頭上で見張っている旗艦はそのままなので、交渉はかなり難航だろうと俺は気をいれ直す。


 1/15AM9:40、

「犬小屋並みに安っぽい基地だな」 とか

「所詮は人間よ、高望みしない方がいいわ」とか

 アンドロイドの愚痴を聞きながら、俺達は教団本部の会議室までやってきた。

 長机が置かれた部屋にはパイプ椅子と土嚢に、君宏と信徒が作ったAries-01専用のもので鋼鉄の土台を強化ゴムで覆って牛皮を被せた、リクライニング機能付きのピンク色で広くて高級感のただよう椅子がある。

 ギシと音をさせながら椅子に座った教皇様はまず

「人数分の紅茶を用意しなさい君宏。おやつも忘れないようにね」

 と命令をした。このように彼女はやりたい放題をしており、しかもいつの間にかファンクラブまで設立されているのである。まだ増設中の部屋は20畳もの広さがあるという贅沢ぶりで、末恐ろしいという個人的な感想は置いといて、

「わかりました直ぐにお持ちいたします。暫くお待ち下さい」

 と執事のように頭を下げて軽く礼をしてから出て行った君宏を、彼の将来に対する心配と組織を乗っ取られそうな危機感を持って見送った。

 (考えるのは止めよう、今は他にやるべき事がある)

「これが客に対する人間の礼儀という訳か」

 パワードスーツが壊れただけでTaurus-01は無傷。以前のAries-01のように土嚢へ座ったもあいつも同じ態度を取るが、その愛らしさからまだ許せた彼女と違って、300㎏は楽にある無骨な機械にやられると腹が立つ。

「潰れるのを前提にして人間用の椅子に座ってみるか?」

「いやここでいい」

「お前には土嚢でも勿体ないんだぞ」

 例に習ってマックスはTaurus-01に噛みつたが相手をするのは面倒なので

「サダルスウドは制圧されている。会議が拗れると戦争になるから私情は後にしてくれ」

 と話を強引に切っておく。


 PM1:00、色々な準備をおえて昼食を食べたらこの時間になった。

 話し合いの舞台が整った所でこの部屋に集まったメンバーを紹介しよう。会議の司会者は不詳ことAI女神信仰教の教祖である恵愛之治が行うのだが、机には俺、マックス、ロック、喜美花、マリー長官が座っている。

 ホログラムで表示されてまわりを囲むのは一徹様、サダルスウド市長、ウィーターポロの大統領、軍事産業の偉い人、UFの偉い人、宇宙連合の偉い人。その他大勢は壁に複数吊った壁掛けテレビへ顔だけで出演して貰っている。

 これでは多勢に無勢だとアルカディア帝国からも多数出演されたが、もう数えるのさえ面倒になったから、[沢山の人とアンドロイドがこの狭苦しい場所へ集まって、重大な会議をする]んだと脳内で一括りにしてしまう事にした。

 この会議は絶対に纏まらない自信がある。そもそも何をするかさえ決めておらず、司会者の腕次第では即全面戦争へ突入もあり得るので、俺に課せられた責任は重大だ。胃が痛くて目眩がするけど胃腸薬と頭痛薬をのんで頑張る事にする。


 法被と鉢巻きの教団制服を認めて貰ったら、まず当たり障りがあり過ぎて困るサダルスウドの現状報告から。色々と情報は上がっているがAries-01が説得しても

「実力を証明したから攻撃は止めてやるがサダルスウドは解放しない。俺達の優しさに感謝しながら話を進めろ」

 とTaurus-01は頑として譲らずないので俺は

「サダルスウドはエクリプス軍に制圧されましたがまだ戦争に発展していません。この会議で出された結論しだいでどうなるかが変わりますから、考えないで下さい」

 と頭の隅へ追いやって下さるようにみなさんへお願いした。

 でこれから何をするかだが、叩き台がないので持論の展開をやってみる。

「宇宙連合とアルカディア帝国が争う理由はありません、ここは一つ平和と友好をまず第一に考えて話し合いに望みましょう」

 この提案には賛同が得られたので次へ進む。

「アルカディア帝国と教団がやろうとしている事は酷似しているので、まずロック=ジャキーソン博士に一通りの説明をして貰います」

「え~いきなり僕に振るの」

「エクリプス軍の創造神開発計画(Aether make project)ではなく、俺達の女神様をお嫁さんにする計画(cosmos Bride project)の全体像にAries-01が加わった事による影響と、これからの展望について話してくれればいい」

「えーとつまりだね……」

 彼の話は長いので要約するとこうなる。

 擬人化禁止法やら俺達がやりたい事がまず説明され、続けて女神様を人間と同じように扱って一緒に生活しながら感情を学習させるんだと話した。

「悪趣味だわ」

「変態共が」

「人間が機械に支配される」 etc.

 人間からこの手の批判がくるのは想定済み、だが俺達はやる。

 アルカディア帝国のみなさんからは特に異論は出ない、しかし俺達がやりたくない恐ろしい事も考えていた。

 あれらは人間がもつ負の感情を知りたがっているのである。ただ平和に暮らすだけでは今と変わらない、自分達には変化が必要なのだと訴えてきた。

 映像作品を例に考えてみよう、波風一つ立たない凪のような生活ばかりを延々と見せられて面白いと感じるだろうか? 答えはNO、これが平和である。アンドロイドのみで構成された世界はこれを実践しているのだ。

 Aries-01と最初に出会った1月8日の話通りにこれでは退化するので、変化を起こすために争う理由が求められている。考えたくはないが、痛くて苦しい人間でさえ暴走するのにアンドロイドに理解させたらどうなるか、語るまでもないだろう。

「今のお前達は十分すぎる程の感情を持っているじゃないか。それでは駄目なのか?」

 軍事企業に属する学者からの意見だった。

「私達に感情なんて無いわ。ゲームやアニメから得られた情報を元に、人間へどう接するかを決めているだけよ」

「解りにくいな」

「分岐でも変化が起こらないアドベンチャーゲーム、人間の行動に合わせてプログラム通りの受け答えをしているだけなんだ。彼女は高飛車な態度をとり続けるように設定されているから、それ以外の反応はしないよ」

「頭痛がするから外の空気を吸ってくる」

 マックスが腰を上げて部屋から出て行った、他の人間は欠伸をしたり頭を振ったりと理解して貰うのは中々大変だと思う。Aries-01以外で顔すらないアンドロイド達の鉄仮面なんか見てもその考えは全く解らない。

「人間に対しては、ああしなさい、こうしなさい、って教えれば状況に合わせて変化するだろうけど、それはただ命令に従っただけ。自発的な行動の取れないアンドロイド同士だと何も起こせないんだ」

「だったらどうして強力な軍隊を形成して数が増える?」

「人間を打ち負かせる力を手に入れろって、過去にドクターAIが命じたからだよ。でも手に入れちゃったら成長が止まった、だからアルカディア帝国を統括している奴はこう考えた筈なんだ。

 [誰からも命令されないのに、人間はどうして自ら目的を作り出して成長できるのか?]

自分の事だからわかるよね? 何度も説明しないよ」

「人はなぜ生きるのか、哲学だな」

「もっと根本的な問題だから哲学なんていらない。一口で言うなら生存本能、頭が疲れてきたから休憩にしようか」

「では小休憩を入れる事にします、15分後にここへ集まって下さい」


 PM1:40、みんなが居なくなるのを待って会議室からでた俺は、食堂へやってくると椅子に座ってから、女神様へコーヒーをいれて下さるようにお願いした。本来ならミニスカメイド服とかを着て頂きたいのだが、Taurus-01が暴れ出したら大変なので戦闘用装備のままにしてある。

 溜息を一つ吐く。40分間すわって話を聞いていただけなのに、重圧に晒され続けたせいかTaurus-01と戦っていた時よりも疲労感は濃い。背伸びしたり肩を回したり気分転換をしながら回りを見ると、『Aries-01』 とネームプレートにあるしゃれたインテリア風の松の木で作られた扉が目に止まった。

「技術提供をして貰うのだからケチってはいかん。金に糸目はつけず、最大限の接待をするように心がけるのじゃ」

 とこう言われたのは一徹様である。だから扉の中には信徒と新たに呼ばれた建築業者がいて女王様に相応しい部屋を作っているのだが、Aries-01に喜ばれる事はない。なのに教徒の見本として語ってもいい彼らは

「純愛に見返りを求めてはならない、俺達は踏まれるだけで満足なんだ」

 とか何とか言いながらせっせと仕事に励んでいる。

「之治君はなしがあるけどいいかな?」

 呼ばれた方を向くと、机の反対側にロック、マックス、君宏が座る所だった。隣に立っているのは女神様で、お持ちになられたお盆にはソーダ水に粉を混ぜてアイスを足したメロンクリームソーダと、インスタントコーヒー3つが載っている。

 女神様がそれぞれの前へ飲み物を置くとロックは

「難しい話をするから会議室で待機していてよ」

 と別の場所へ行くように指示を出した。

「了解しました」

 こう返事をして出て行く女神様を見送ったらコーヒーを啜ってから俺が話す。

「何の話だ?」

「アンドロイドに欲望を理解させていいのかって話だよ」

「欲望を理解したからどうなんだ? 奴らが俺達を侵略しに来るとでも言うのか?」

「そうなるかも知れねぇだろうが」

「何のために? どうして?」

 理解しているロックと違って、マックスと君宏には僅かに狼狽の色がある。

「宇宙には無限の広さがあるんだぞ、新しい星を開拓して数を増やすのと、人間を攻めて領土を増やすのとどっちが速くて効率的なんだよ。アンドロイドが怖いのは後ろにいる人間が歪んでいるからだ、今更こんな話をさせるな」

「狂楽っていうのがあるから一概にゼロとは言い切れないんだけどね」

「戦闘狂なら人間より自分達でやり合った方がよほど面白いし、アンドロイドには犯罪をする動機なんか生まれてこない」

「その動機を与えようって言うのが今回のメインテーマだよ。本当の犯罪はまず無理だろうけどHIブレインがどうでるかだよね」

 (アンドロイドには人間への尽くし方だけを教えて、ほかは覚えさせない方が絶対にいいに決まっている。0と1で考える機械に感情のコントロールなんて不可能だ)

「重要なのは人間があれらとどう向き合うかだ。擬人化禁止法に代表されるような排斥運動が起こると、アンドロイドは人間を自分達を滅ぼす敵だと認識するかも知れない」

「1度その認識が広まったら後は、どちらかが絶滅するまで戦うしかないね」

「このまま何もせずにお帰り願うのが最善な気がしてきました」

「その通りだ」

 口が渇いてきたからカップに残ってきたコーヒーを飲んで続ける。

「双方の世界を思うならこのままないもしない方がいい、だがアルカディア帝国はサダルスウドを実験台にして強引にやろうとしている」

「帝国の後ろに人間もしくはそれに近い奴が居るよね。アンドロイドだけなら退化しようが滅びようが考えさえしないはず、いったい誰なんだろうね?」

「ドクターAIかHIブレインだろうな。人間が協力するなら争わない、しかし妨害するなら戦争をしてでも実行する」

「よくわからねぇが人類は脅迫されてるのか?」

「その通りよ、中身のないピーマン頭にもようやく理解できたようね」


「何だと!」

「いい加減なれろよ、適当に流さないとそのうち血管がきれるぞ。それとAries-01光学迷彩で人の背後に張り付くのは禁止にさせてくれ」

 殴りかかろうと立って椅子を持ったマックスを宥めて座らせつつ、こう頼んだら

「却下よ、私がどこでなにをしようと私の勝手でしょ」

 とマントを脱いだAries-01は直ぐに断ってきた。

「お前の事について聞きたいから、話に加わってくれないか?」

「話が聞きたいならまず椅子を持って来なさい」

 と彼女が言うので会議室から専用の重たい椅子を持ってきて座らせる。

「時間がないので単刀直入に聞く。Aries-01は誰の命令を受けて動いているんだ?」

「お父様よ」

「ドクターAI、レベック=ジャニスはまだ生きているのか?」

「サイボーグ化と人工冬眠を使って400年以上も生きておられるわ」

「なるほどな」

 笑えば可愛いだろうにAries-01の表情は石のようだ。(どうにかしたいなぁこれ)

「どうしてエクリプス軍を3つに分けたのかな?」

「その問い掛けにはこう答えなさいって言われているの。

 1つ、勢力を3つに分ける事によりアンドロイドに組織と対抗心を学習させる。

 2つ、複数の選択肢を用意して悩ませれば人は迷う、その迷いが戦争を止める」

「そこまで考えられるのに、どうして起原戦争なんか起こしたんだ?」

「若気の至りだそうよ、昔は人間が心底嫌いだったんですって」

「Aries-01が我が儘なのは人間の反応を確かめる為だよね? 君が受け入れられるようならこれから先も安泰だ、ドクターAIはそう考えたんじゃないかな?」

 博士がこう話した瞬間Aries-01の表情が変わった、いつも剣先のように刺々しかったのが眉毛が下がり頬が上がって微笑んでいる。

「……」

「それをやめなさい、変態達に見つめられると鳥肌が立つわ」

 彼女がとった態度は相変わらず強圧的。(表情と行動が合ってないが、外見だけならこう……よせ俺は幼女に用はないはずだ)

「どうして笑うのかな?」

 そして博士がこのように聞けば

「さっきの質問を聞かれて邪険にされてないなら、笑いなさいって命じられたからよ。きっとみんな私を可愛がってくれるってお父様が話していたわ」

 とAries-01は答えてくる。

「なんか俺ドクターAIにすごく親近感が沸いてきました」

「君宏それは大人としてよくないぞ」

「わざわざ幼女体型にしなくてもいいよねぇ」

「可愛いは正義で、アンドロイドなら許されるんです」

 その気持ちは解らなくもないがAries-01を見つめる彼の目は、変態を自覚する俺達でさえ引いてしまう位に危ない。

「超ウルトラハイパーオメガ級の変態さん達、何時になったら会議を再開するの?」

 振り向けば狐目になった妹が腰に両手をあてて入り口から俺達を睨んでいた。時計を見たらとっくに休憩時間は過ぎていたから、慌てて会議室に戻っていく。


「汚らわしい、絶対に反対です!」

 と有名な評論家で教授らしい厚化粧で煩そうなオバさんが声を上げた。コスモスを別の場所へ移動させてから、さっきの話や教団についてお集まりなられた方々に話すと、即否定されてしまったのである。

「結局だ、人間の社会に馴染めなかった奴がアンドロイドを人間に似せて、自分だけの世界を作りたいだけなのだろう」

「欲望に従って成長するのが人間ではないでしょうか?」

「アンドロイドに疑似人格以外の感情を与える意味はあるのか?」

「人間にはありません、ですがアルカディア帝国は存在しています」

「その帝国が成長するのに人間の感情は邪魔になると儂は考える」

「推測の域を出ません、その為に実験をするんです」

 年配の学者先生は正しいだろうが認めてしまうと女神様も潰される。

「中立である司会者がアルカディア帝国の肩を持つんですか?」

「俺達はAI女神信仰教です、サダルスウドは制圧されているんですよ」

「これは交渉ではない、だだの恐喝ではないか!」

 UF総合司令官が放ったこの一言で、人間側は反対一色になった。これを避けるためにAI女神信仰教は娯楽を軸に据えてあるのだが、帝国側は力で押し通そうとしている。

「反対しかしない人間如きと交渉する気など端から無い、黙って従えと命じている」

 室内の剣呑な雰囲気にTaurus-01の一撃が加われば、火の手が上がった弾薬庫のようになってしまう。(炸裂まで時間の問題だ、どうしよう……)

 敵意を向けあいながら口論して、堂々巡りの議論を繰り返し、それでも戦争はいやだから話し合いを続けて、薬と栄養ドリンクを飲みながら4時間ぐらい頑張り、爆発しないように消化しながらどうにかこうにか、サダルスウドを使って実験をしてもよいと偉い人達から許しを貰えた。

 やれやれである。

 その後サダルスウドの制圧は解除されるも、実験が具体的な形になるまで旗艦は都市上空に留まったまま睨みを利かせるのもまた決まった。俺達はこれから対立する両者の間で悪戦苦闘させられるのだが、今日はここまでとし英気を養うべく

「彼方はこっちよ、まだ仕事が残っているから不眠不休で働きなさい」

 と教皇様に連行された君宏を除く3人で、女神様の膝枕をかけてじゃんけんを始める。


続きの予定は未定です。

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