11話目
「うぉぉぉー」
怒号を上げながらマックスは椅子を Aries-01に振り下ろし、ただの椅子なんか屁でもないとAries-01は避けようともせずに、相手を足を蹴ろうとして近付いた。それぞれの攻撃が当たるかと思ったその瞬間、2人の間に割ってはいる者が現れる。右腕で椅子を受けとめ左足で Aries-01の足を踏んで止めたのは女神様だ。
「相手が気に入らないからと言って、力に任せて意見を通そうとするのは間違いであると判断します」
「上出来だよコスモス~」
(女神様に人工知能があるのを忘れてた。話を振ってみよう)
争いが止まったらみんなに離れるようにして壁際まで寄って貰い、女神様にじょうきょうを説明してからお言葉を待ってみる。
「目指す物が同じなのに争う理由が私には理解できません。諍いを止めて訓練を続けるべきではないでしょうか?」
円の中心にたつ女神様のご意見は至極当然、テストに出たら百点満点を取れるような模範解答だった。
「この中で現状を正しく理解しているのはコスモだけのようね。能なしで非効率なくせに文句ばかり言う人間とは大違いだわ」
マックスと妹に長官が口を開きかけた、ここで何か言わせたらまた面倒になる。だが俺にはどうすればよいのか解らない。
「頑張れ~教祖様、君にしか答えは出せないよ~」
人類の命運が掛かっているのに呑気でいられるロックが羨ましい。彼奴は簡単そうに言ってくるが、自分達は人間より遙かに優れていると確信している、Aries-01の口調を直させるのは容易ではないのだ。
(現段階ではどっちか若しくは両方に我慢して貰うしかないが……)
「この話は後回しにしよう。今は差し迫った驚異に対して全力を注ぐべきだ」
と俺は控えめに提案してみる。
「それでも教祖かよ」
「調教して鍛え直した方がよさそうね」
「超々ド変態な軟弱者、兄さんは一家の恥よ」
「こんなのに人類の未来を任せるだなんて、凄く不安だわ」
「僕は教祖様に従うだけ~」
文句は多いが後を続けないので肯定と取っておく。1人足りない、電気コンロの前でヤカンからたち昇る湯気を眺めている男に聞いたら
「……」
「返事しろ君宏」
「ワンワン」
だった。(暫くそっとしておこう)
どうにか話は纏まったがAries-01曰く
「私にすら一方的に負けるのにTaurus-01に勝てると思うわけ? 時間が許すかぎり訓練を続けるしかない筈よ。ついでだからGorillaの面倒も見てあげるわ」
なので、結局おれたちは翌日の日の出まで教皇様に扱かれる。ちぎっては投げられ、ちぎっては投げられ、コスモスすら手玉に取れるAries-01を相手に俺達は、ボッコボコにされてしまうのだった。
1/15AM9:00
「萌えーーーーー♡」
「変態ーーーーーー」
「女の敵ーーーーー」
礼拝堂で雑音混じりのお祈りを女神様へ捧げてから、サダルスウドの北側にある無人と化した交差点にきた俺達は、空から振ってきたパワードスーツに乗り込んでTaurus-01が到着するのを待っている。
ここはウォーターポロ開発初期に整備された場所で、手早く数を揃える為に作られた安くて狭い賃貸しのマンションが並んでいる地区。
経験不足から夜明けまでAries-01に負け続けた女神様について、一徹様や軍の上層部と話し合ったら、遮蔽物のない開けた場所よりは勝率があるだろうと、壊されて困る建物が少ないここが選ばれたのだ。
ハンデとして俺とマックスも戦いに加わるという寝耳に水な話もつけ足しておく。
台風でも来ればいいのに快晴の空からは太陽がサンサンと照りつけて、海から吹き上げる潮風が心地よく、UFのレディ―バードやAries-01が戦いの監視と記録をしてくれるという、絶好の決闘日和である。
「思い上がった機械野郎なんか蜂の巣にしてやるぜ」
と言ったマックスが着ているGorillaの右腕には、固定された電磁加速式回転砲があって左手でそれを支えていた。給弾装置とバッテリーを背負い、銃身だけで1.5mもある15連装のこれはCNT製、電気の力で撃ちだすのはタングステンの針で対戦車兵器としては大型の部類になる。
d 俺は両肩に小型グレネード弾が2つずつ、炸薬は効果がないので煙幕弾とフラッシュグレネードを選択した。両手で持つのは軍が開発したネットガン、バズーカ砲のような銃身から拘束用の網を飛ばして相手を捕まえようというのである。
女神様が着ているNightは剣と盾だけ、飛び道具が欲しいとAries-01に頼んでみたら
「贅沢いい過ぎよ、私は人間を甘やかすつもりはないわ」
と断られてしまう。
AM9:10 予定時間をオーバーしていつ来るか、今来るのか、と気を揉んでいたら空襲警報を思わせるけたたましいサイレンが都市中に響き渡る。外壁の修理をした方がいいマンションに囲まれるここは、軍が起原戦争時に使われた不発弾が見つかったと言う理由で住民を避難させているから騒ぎは起きない。
無線でいま起きていることを君宏に聞いてみる。
「随分と騒がしいが何があったんだ?」
「サダルスウドとそこに駐在している軍のメンコンピューターに、大規模なハッキングがあったそうです。警備や軍用ロボットが勝手に動きだして、いま警察と軍が……」
突然ぷつんと音がきれて、どれだけ呼びかけても答えてくれなくなった。
「都市にある通信の中継施設が落ちたらしいな、衛生通信に切り替えてみろ」
あっても邪魔なので大型トラックは食品工場の地下に置いてあり、話を横から聞いていたマックスの言う通りに、音声入力でGorillaに指示をだして暫く待つと
「聞こえますか恵愛さん? 返事をして下さい」
と無線から君宏の声が聞こえてきた。
「状況は?」
「エクリプス軍って凄すぎますよ。ハッキングがあって直ぐに無人で運行されていた車と鉄道関係は機能停止、管制塔が落ちて飛行機もつかえなくなりました。港へ人が殺到しかけましたが、ロボット軍団に阻まれて都市へ押し戻されています」
「警察と軍はどうしてる?」
「爆弾を詰んだロボットが人質を取ったので動けません。また戦車や戦闘ヘリと言った兵器類はウィルスでコンピューターが破壊されて鉄屑になりました。偽マリー長官のようなスパイが軍の各所にも潜伏していたようです」
「衛生軌道上に訓練と称してUFの艦隊が居るはずだ。そっちは?」
「無傷ですが、艦隊を動したら核ミサイルでサダルスウドを破壊する、とつい先ほどTaurus-01に脅かされたそうです」
「僅かな抵抗さえも許さないとは、相当入念に準備をしたらしいな」
「面白い映像が艦隊から届いたよー、そっちへ回すね~」
この状況で何が面白いというのか、ロックの呑気さには呆れ返るがコクピットにあるスクリーンへ映像が表示されると、背筋が凍りつく思いがした。
無限に広がる暗い宇宙とその下にある青く輝いた水の惑星、画像の解像度は今ひとつだがその惑星へ1隻の船が降下しようとしている。色は黒色、画面の右上にある計測値が確かなら長さ700m、幅100m 高さ20m、ヤリイカの様な船体をした旗艦クラスの大型戦艦だ。
「正気かこいつ!」
と素っ頓狂な声をマックスがあげたので理由を聞くと
「万tの船が重力のある地上へ降りてくるんだぞ!」
と大声で返事をする。
「サダルスウドに来るみたいだけど、あの戦艦が着陸に失敗したらこの都市は消えてなくなっちゃうよねぇ。怖いなぁ~危ないな~」
間の抜けた博士による補足説明を聞いたらもう死んでる気分になってきた。
「みんな臆病すぎマイナス50点。墜落を前提にして降りてくるバカが居るわけないでしょ黙ってみてなさい」
「俺は関係ありませんよ」
「連帯責任よ、言い訳したからマイナス70点追加ね」
「そうですか……ううううう」
(戦艦より君宏の精神状態のほうが心配だな)
ここへ来るというので空を見上げたまま待ってみる。澄んだ空の南東方向に朝でもよく見える火の玉のような物を発見し、眺めていると大気の摩擦熱で加熱してるらしいそれはどんどん拡大してきた。10㎝から1m、1mから10m、暫くして炎は消えたがこっちへ来る戦艦を見ていたら俺は敵前逃亡を考えてしまう。
下向きから水平へと地上へ近付くにつれて船首の角度が浅くなり、ビル群の屋上をこするようにして飛んで行く。減速はしているだろうがかなり速く、距離が足りなかったのか耳を劈くような爆音を立てつつ、目を見開いている俺達の頭上を通り過ぎ、都市の上空をグルリと一周して戻って来たら静止する。
そう静止したのである。速度を落としながら車庫入れするように進んきて俺達の頭上にピタリと止まって見せたのだ。
「あり得ねぇ」
空を見ながら呟いたマックスの意見には同意である。下からでは船の形がよく分からないが黒い覆いを頭から被された様で、船底には3連装の主砲が3つと無数の副砲があり脅迫するようにこちらへ回転する。
俺は鯨に睨まれたミジンコだ、ここでちびって泣いても誰も笑えないだろう。今すぐに兵器を捨てて平伏してしまいたくなってきた。
「あの戦艦はなんで浮かんでいられる、これからどうすりゃいいんだ?」
と呆然として戦艦を眺めながらマックスは誰かに聞く。
「重力制御装置も無いなんて人間は遅れてるわね。Taurus-01が降りてくるって連絡があったからそこで待ってなさい」
レベルが違い過ぎて笑うしかない。(戦ったら100%負ける) と相手の姿を見もせずに確信を得た俺は、(何とか口車で丸く収められないか?) と本気で考え始める。
上ばかりを向いてたら首が痛くなる。俺は死なない、俺は安全なんだ、と心に言い聞かせながら待っていると、船底のいちぶが左右に割れて中から何かが飛び降りてきた。
豪快なのかそれともただ面倒くさかっただけなのか、15階位の高さから受け身も取らずにドスンと落ちてアスファルトに足形を刻んだこれは、武器を道路に突きたてて悠然と立っている。
俺達より背が高く、金属の色をしていて左右に角が生えた頭は牛、体格はGorillaと良い勝負だが外装は作り込んであり、ハープパンツに筋骨隆々な体つき。武器はマテリアル化された身長と同じ長さがある両刃の斧で、これは伝説の怪物ミノタウロスを真似て作ったのだと直ぐに分かった。
見下ろしてる目は俺達を小物扱いしていて鼻息が荒くやる気満々。(まともにぶつかったら1分と保たないかも知れない) と頭に浮かんだ言葉を俺はひっしに追いだす。
(どうしよう? 話しかけて良いのかさえ分からない) ズリッとアスファルトを引っ掻く音がしたので右を向くと、マックスのGorillaがローラーで10mほど後退した。
「俺は重兵器を持ってるから後方より援護する。何とか隙を作ってくれ」
鍛えてあっても彼の本業はメカニック、俺は学者である。戦闘専門でもそうしたいだろうから気持ちは分かるが、だからって俺が前に立たなきゃいけない理由はない。
「あれがTaurus-01の専用機Minotaurよ。教祖様つっ立ってないで自己紹介の1つでもしたらどうなの?」
Aries-01がまた教祖様を出汁に使ってきた。
(責任、責任ですか、あれに近付けとかさすが教皇様は鬼畜ですね)
Gorillaの運動性能は低いから女神様にお願いして前に立って貰い、俺はその後ろに立って数m先にいるミノタウロスの側へと進んでいく。
「俺はAI女神信仰教の教祖を務めている恵愛之治だ、お前がエクリプス軍のTaurus-01で合っているのか?」
ああそんなに気合いをいれないで、俺は弱い人間なんです。怖くて足が震えていても気後れしないように胸を張ってこう聞けば
「ふん、その通りだ。もうすぐ死ぬ人間の名前なんか一々覚えん」
と鼻息を出しながら野太い声で返事をする。
「俺はもたもたするのが嫌いだ。直ぐに始めるぞ、準備はいいか?」
(アンドロイドはどうしてこんなに気が短いんだ)
「人間の事が知りたいならまず武器を降ろすべきだ。話し合いで解決しようじゃないか」「臆病者、それでも男なの? みっともないマイナス200点」
横槍を入れるAries-01なんか完璧無視、俺は死にたくない。
「あと10秒だからな、9、8……」
「戦う理由なんて無いはずだぞ、俺達は共存してお互いに切磋琢磨するべきなんだ」
「5、4」
「頼むから戦いを止めくれ」
「3、2」
「どうしてもなのか?」
「1」
「攻撃しろコスモス!」
「0」
命令しながら俺は両方の踵にあるバックボタンを踏み込み、Gorillaの足裏にあるローラが回転して勢いよく下がると、同時に腰から剣を抜いたNightが斬りかかる。
Minotaurは右利き、盾で防げば楽に戦えるかとも一瞬思ったが、Nightが剣を振るまえに盾に命中した刃渡り1m近くもある斧は、Nightのバランスを崩す程に強力だった。右方向へ蹌踉めて攻撃し損なったNightが立て直そうとすると、Minotaurは上段から巨大な斧を振り下ろしてくる。
「片手じゃだめ!」
Aries-01からの指示だった。カウンターを狙ったらしい女神様は左腕の盾だけで止めようとしたが、慌てて右手を添えて斧を受けるとグッとNightの両膝が曲がった。両手でさえ踏ん張らなければ耐えられない超パワー、指示がなければNightの腕は壊れていたかも知れない。
言うまでもないが、これは乗用車を片手で持てるパワードスーツ同士の戦いである。
「正面から行ったら駄目って教えたでしょ!」
「距離を取って回り込むんだ!」
指示に従って地面を蹴ったNightが後方へ飛ぶとMinotaurが追撃する。巨体の癖に俊敏な動きで迫ったMinotaurは、避ける間も与えずに斧を振り下ろした。
ガギンとプラズマを帯びた金属同士がぶつかってNightが膝を曲げる。
「人間如きが作った兵器で勝てるとでも思ったか」
Nightはお前達の兵器だぞ、というツッコミはさておき手を引いたMinotaurは右から斧を振ってきた。Nightがこれを盾で受けると左肩で体当たり、間が開いたら斧を上段から叩きつける。そして
「なんで援護しないのよ! コスモスだけだと負けるじゃない!」
と俺達は叱られてしまう。
別に傍観している訳じゃない。ネットガンとグレネードのターゲットカーソルはちゃんとMinotaurを捕らえているし、反対側の歩道ではマックスが構えている。しかしNightとMinotaurの距離が近すぎて仕掛けられないのだ。
「何とか足だけでも止められないか恵愛?」
「ネットガンは上から被せないと効果がない、これではNightごと拘束してしまう。コスモスが敵を引きつけている間に後ろへ回り込むんだ」
踏み込まれてあの凶器を振られたら俺達は死亡確定。Aries-01から10mは飛べないと聞いてるので、女神様に盾で守り続けるように指示したら、15m位の距離を保ったまま背後へと回り込んでいく。
エクリプス軍の人間軽視が許せなくなってきた。Taurus-01は俺達の動きが見えているのに防御策を講じるどころか一瞥さえくれず、Nightを狙って執拗に巨大な斧をくり出していく。貴様らの兵器はただの玩具に過ぎないから注意を払う価値すらない、とがら空きの背中が語っているようだ。
「撃っていいんだよな恵愛?」
「勿論だ、ズタズタにしてやれ」
2車線道路の交差点、その中央でマックスはレールガトリングガンを構えた。CNT製の筒についた50口径の回転砲が狙うのは、ムキムキしている金属の背中。Minotaurは盾を上から叩き続けているだけ、銃身がぶれないように筒の先にある掴みを左手でしっかり持って狙いを付けたらマックスは
「調子こきやがって。欠片1つ残さず粉砕してやるからな、喰らいやがれ!」
とトリガーを引く。
キュィィと高い音を出しつつモーターが15の銃身を高速で回し、同時に背中のバッテリーパックから高圧電流が供給される。そして回転に合わせて銃身に糾弾装置がタングステンの針をセットし数万Vで電化させると、火薬の音ではない独特の風切り音をだしながら極超音速で撃ち出していく。
しかし毎分1800発もの針の雨、重戦車の装甲を引き裂ける陸軍自慢の兵器、幾らミスリルが固かろうがこれなら勝てる! と期待されて送り出されたそれは、むなしくも装甲表面でことごとく跳ね返されてしまった。
「こんなんありかーーー」
と離れた所で刺さらずに地面へ落ちる針を見ながら叫んだマックスは、引き金を引いたまま一歩踏みだす。速度で撃ちぬく兵器だから距離が詰まると破壊力は上がる。彼の判断は正しいが、Minotaurは振り返りもせずにNightと格闘戦を続けていく。
1歩、2歩とマックスのGorillaは前進し、Minotaurはずっと盾を叩いている。数十秒間この光景が続いてレールガトリングガンが弾切れを起こすと、ようやく顔だけを俺達の方へと向けたMinotaurは、牛の顔を小さく歪めてフッと笑ってから、またNightとの戦闘に集中していった。
「あの野郎ーーーコケにしやがってぇ!」
無謀にも両足にあるペダルを目一杯踏み込んだマックスが突撃し、Minotaurの動きを警戒して彼より前にいた俺は
「よすんだマックス!」
と呼びかけながら彼のまえにGorillaを進ませて進路を塞いだ。
「どけ恵愛! あいつを殴ってやる!」
空になった銃身がある右手を振り上げたマックスを、俺は両手を広げてながら彼が右に動いたら左へ、左に動いたら右へと移動して通せんぼする。
「落ち着け、レールガトリングで傷つかない相手を素手でどうするつもりだ? 距離を取って作戦を練るんだ」
「くそーーーーーーきみひろ武器だ! 何でもいいから武器を寄越せ!」
彼がこう言うと同時にゴトンと音を立てながら、背中にあるバックパックと右腕にある兵器が地面に落ちた。続いて後ろを向いた彼はペダルを踏み込んで遠ざかり、左に曲がってビルとビルの間に入って行く。
ワープマテライザーで兵器が届くのを待つのだからあれでいい、俺は女神様を援護しながらその時が来るまで時間を稼ぐ事にする。
こうなると頼りになるのはNightの剣だけ。あの頑丈な装甲にどこまで通用するのか定かではないが、何とか一太刀だけでも浴びせようと思う。
「コスモスもう守らなくていいぞ、攻撃を再開しろ」
「了解しました」
Minotaurが振り下ろす両刃の斧を避けるようにNightが後ろへ飛んだら光っている剣を抜いた。Minotaurは斧を上に構えて、Nightは守りにくそうな左腕を狙って体をずらしていく。これならダメージを与えられるかと期待したが、Minotaurは斧を左側へもち替えて水平斬りに構える。
アンドロイドに利き腕はなく、斧と剣がぶつかるとNightが損傷するので少々マズイ。 (ネットガンで拘束するしかなさそうだが、どうすればいい?)
斧の振りは大きいので受けに回ったNightにMinotaurはなかなか仕掛けない。(攻撃だけを考えるなら盾を捨てるべきか?) と俺は考えた。
(両手持ちなら斧のパワーにも耐えられそうだが……)
俺が悩んでいるとしびれを切らしたMinotaurが切り込んで行く。
「ブモーーー」
良くできた牛の雄叫びを発しながらMinotaurは突進し、Nightは左側へ回ろうと体を動かして、アスファルトを削るぐらいの急停止をしたMinotaurは、斧を振り子のように使って体を回しながらNightを追い掛ける。
(今がチャンスだ!) と言うわけで俺は
「避けろコスモス!」
とお願いしながらネットガンを発射する。
ずっと俺に背を向けていたMinotaurはとても狙いやすく、バズーカから火薬で撃ち出されたアルミ製の弾にあるアキレウス製の網は、目標上空で起爆装置を押すとMinotaurを覆うように広がって被さる。同時に振ってきた液体は別容器に入っていた接着剤で、空気にれると短時間で固まり網をMinotaurに引っ付けてしまう。
「なめた真似をしてくれる」
藻掻き始めたあれを見て、いい気味だと思った。網の四方からバズカー砲へとCNTのロープが伸びており、銃器を持ちながらペダルを踏んでGorillaを後退させると、網が締まってMinotaurは動けなくなる。
「よくやったわさすが教祖ね。プラス80点あげるわ」
とAries-01が褒めてくれたらちょっと嬉しい。
ギシッと音がした。Minotaurが網を引き千切ろうと前進したら、その負荷に耐えかねたGorillaの足が音を上げたのである。フルパワーで後退するGorillaを引きずって行こうとする超怪力
「ブモーーーーーー」
と雄叫びをあげた猛牛が頭を下げて進むと引き倒されそうになった。その横にいる女神様は棒立ちして動かない、これは俺の命令を守っているからだと理解したら
「コスモス、俺が拘束している間にMinotaurを攻撃するんだ!」
とお願いをする。
「了解しました」
動き始めたNightがMinotaurの前に回って剣を振る、その威力は予測通りだった。どちらもプラズマを宿すから温度差による切断は不可能で、力で叩き潰すしかないが片手で振られた剣は破壊力が足りない。攻撃は右肩を数㎝きり込んだだけに終わり、Nightが剣を引いたらプラズマを放出している傷口は直ぐに再生し始める。
「そんな柔な剣では俺を切れないぞ」
前進するMinotaurに合わせて後退しながら、Nightは胴を突いたり腕を狙ったりと数回斬りつけたがどれもこれも切り込みは浅く、傷を治すために集まってきたミスリルが次々に直してくいく。
「攻撃力が弱すぎるぞコスモス、盾を捨てて両手で剣を持つんだ」
「了解しました」
ガコンと音がして左腕に固定されていた大型の盾が地面に落ちる。ロングソードを両手持ちに変えたNightが右肩を狙って振ると、今度はさっきよりも傷が深くて人間でいう骨の辺りまで切ることが出来た。
Gorillaで網を引っ張りながらこれをみた俺は
「同じ場所を狙って攻撃しろコスモス、腕を落としてしまえ!」
と女神様にお願いをする。
「調子に乗るな人間!」
Minotaurが怒声混じりにこう言うと、とつぜん奴の体がゴウッと燃え上がった。巨体を包みこむ目を焼きそうな炎に気を取られ、頭の理解が追いつかずにぼうっとしたら
「逃げなさい恵愛! 来るわよ!」
とAries-01から警告がきた。炎の中で網は焼き尽くされてほぼ反射的にペダルを踏んでバックすると、ジャンプしたらしいMinotaurが5m程まえに降りてくる。
「目障りなハエめ、貴様から叩き潰してくれる!」
剥いた目は俺を睨んでいて地面を揺らしながらMinotaurが走ってきた。モニター越しに激高するミノタウラを見て股間の縮む思がした俺は、バックしながら煙幕弾とフラッシュグレネードを連続発射する。そして道路が眩しい光と煙に埋め尽くされたらそれで身を隠しつつ、俺はマックスが隠れているビルとビルの間へ入って行った。
「下手くそ! 追撃したコスモスまで巻き込んだわ、マイナス50点よ」
(そんなに言わなくてもいいじゃないか……) Aries-01に怒られつつやって来たここはパワードスーツ1機がどうにか通れる狭い路地、前にはマックス乗るGorillaがつっ立っていて動きそうにないから何をしているのか聞いてみる。
「UF艦隊から試作兵器が転送されるのを待ってるんだ」
「それは無線で聞いてる、なぜ援護しない」
ガキンとかギィンという音を背景にはなしを聞いていたら、なんかこうモヤモヤした気持ちが沸いてくる。
「丸腰で何ができんだよ」
「ライフルとかミサイルとか転送して貰えばいいじゃないか」
バックミュージックがなぜか止まってしまった。
「レールガトリングガンを黙殺した奴にそれ以下の兵器で何をするんだ? 待っているだけの俺だって精神的にかなり辛いんだぞ」
「試作兵器の準備が整うまで銃を撃って注意を引く位はしろよ」
戦闘中なので強くは言わないが、しかし……
「コバエ共そんな所にいたのか」
声に驚いて振り返ったらMinotaurがそこに立っていた。
「網を焼き切るためにプラズマを解放したから、再チャージされるまでミスリルの能力が大きく下がってチャンスよ。っていいたい所だけどもう復活しちゃったわ、人間ってほんと役に立たないわね」
「コスモスは?」
「あの子はすごく純真で器用よね。教祖様のいい加減な命令通りに肩ばかり狙って反撃されそうになったから、危険を感じた下僕がちゃんと停止命令を出していたわよ」
俺達はローラーで後退しながら話をしている。斧を構えて進んでくるMinotaurへ煙幕弾などを使ってもよいが、正面は抜けられるだけの道幅がなく、後ろにはお約束通りの袋小路があるのだ。
女神様へTaurus-01を援護をお願いしたらTaurus-01に交渉を試みる。(俺はやり残した事がいっぱいある、こんなアホな状況で死んでなんかいられない)
「俺達がお前に劣っていないことは理解したはずだ、傷つくだけの無益な戦いなんかやめて平和的に物事を解決していかないか?」
「降参して服従を誓うなら命だけは助けてやる」
「に、人間を甘く見てると後悔するぞ! これが最後の警告だ、戦いを止めるなら今しかないぞ、後で泣きを見たくないなら武器を降ろすんだ」
「死ね」
斧を上段に構えた銀色の巨牛は前屈みになった、あのパワーに当たられるだけで大怪我を負いそうである。最初にふっ飛ぶのはマックスの前にいる俺、こんなの嫌だ。
「させません!」
(俺はここまでか、短い人生だったな) と諦めかけたその時に、天から女神様が降ってこられた。3m越えの体を飛び越えたNightを見てピンと閃くものがあり
「体当たりだコスモス、斧を掴んでMinotaurに振らせるな!」
と命じた俺は、同時にペダルを踏み込んでGorillaを猛ダッシュさせる。
「なにぃ」
巨漢のMinotaurをNightが押し、その後ろに俺とマックスのGorillaが続く。
「こしゃくな真似を!」
「前にある道路まで押しだせ!」
「ブモーーーー」
Minotaurが持つ桁違いのパワーを俺は改めて認識した、こっちはNightを含めた3機がかりなのにあいつは耐えているのだ。力負けすると潰されるから、ペダルを目一杯踏み込んで腕を使い、Gorillaを形作っているチタニウム合金のナノマシンが加熱してモニターに警告表示が出るぐらいに、全力をだし続ける。
体感時間だが30秒は続いたと思う。Gorillaの耐久力が限界に近づいきてこれ以上はまずいなと感じてきたら、ズルッと機体がまえに動いた。3対1ではさすがに耐えきれなかったようでズル、ズルリとMinotaurが後ろに下がっていく。
「相手が怯んだぞ、もう一息だふん張れ!」
と声を掛けはしたがこっちも一杯一杯。これでもかと力を込めて前進し、先にある道路までどうにこうにかMinotaurの押し出しに成功した。




