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ユートピア  作者: 影丸
10/12

10話目

 PM4:42誰も居ないのに執務室の扉が開くと、ドスッドスッと床を踏みならしながら何かが近付いてくる。その何かは俺の真横で止まったら

「ド変態」

 と脛を蹴ってきた。それは泣ける程にいたいが加減はしてくれたらしく、右足は破壊されずに残ってくれる。

「お楽しみを邪魔して御免なさい。助けない方がよさそうだからこのまま帰るわね」

 俺の上半身は裸、偽者は黒いブラジャー、その気にさせようと偽者に攻められた体にはあちこちにキスマークがある、正直なはなし俺は籠絡寸前だったのだ。帰られると困るから頼んでみたらまた足を蹴られてしまう。

 床にうずくまって足を擦ったら、光学迷彩マントが外れてゴスロリ少女が現れ、服を直した偽者と一緒に本物が捕まっている部屋へ行く。恥ずかしさと居たたまれなさを抱えて1人残された俺は、この記憶を意識の底へ沈めて頭から追い出すと、部屋にある箱ティッシュから数枚貰って口紅を拭きとりAries-01の後を追う。

 廊下に並んでいた警察官は俺を一瞥しただけで無視し、隣の部屋が開いていて

「ふざけんじゃないわよ!」

 と中から誰かが叫ぶ声が聞こえてくる。

 大体の予測はつく、壁際からそっと様子を窺ったらアンドロイド2機と、赤いスーツを着た本物らしい女が言い争っている最中だった。

「大人しく従いなさい」

「逆らうならここから出さないわよ」

「出て行くのはあなた達の方でしょうが!」

 睨み合うあれらを仲裁に行ってもよいのだが、とてつもなく面倒くさそうでここは見守っているのが吉、と俺は息を殺して話がつくのを待つ。

 ……数分後。

 聞き分けのない女に細かい話をするのは時間の浪費だと、Aries-01はウォーターポロの大統領やUFを持ちだして、強圧的に受け入れさせたら揃って光学迷彩マントを被り警察庁のビルを後にした。


 PM5:00、地下基地に戻ってたらみんなを議室に呼び集めてまず説明会。

「恵愛君だけずるいよ!」

「羨まし過ぎるぞこの野郎ーーー」

 批難ゴーゴーという嵐のなか、席から立ち上がったマックスは俺の側にくると襟首を掴んで前後に揺さぶってきた。

「1人だけ美味しい思いしやがって、ゆるさねぇ!」

「気持ちは分かりますが、恵愛さんを攻めるのは後にしましょうよ」

 こう言ってくれた君宏の言葉で一時的におち着いたが、教団関係者に妹とマリー長官は俺を人間のくず、ケダモノ、 色魔とあらゆる負の感情を宿した目で睨んで来る。このままではよくないので俺は

「妹はこのまま教団に入って貰うとして、マリー長官について話し合おうじゃないか」

 と話題を変えて逃れようとする。

「これで済むと思うなよ恵愛、後でフクロだからな」

「この際だからマリー長官にも入団して欲しいんだが、どうだろうか?」

「超ド変態宗教はこの世から消え去るべきだと思うわ」

「何で私がこんな超ド変態宗教に入らなきゃいけいのよ」

 マックスが席へ戻って2人が男性陣へ嫌悪感を露わにしたら、俺に向けられた憎しみの半分が女性のほうへと向いてくれて一安心。

「犯罪者になった喜美花には選択の余地がないはずだぞ」

「冤罪よ! 私は何もやってないわ!」

 バンッと両手で机を叩いた喜美花は勢いに任せて立ち上がった。

「横領の証拠なんてデータを弄ればねつ造し放題だし、お兄さんは超ド変態宗教の教祖でしょう? あなたを疑う訳じゃないけど覆すのはむりだと思うわ」

「大々的に報道されてしもうたし儂でもこれは難しいのう」

 ホログラムの一徹様とマリー長官による冷静な解説が入れば

「そんな、ぜんぶ兄さんの所為よ! どうしてくれるのよ!」

 と声を荒げた喜美花から明確な殺意を伴った視線が飛んでくる。

「だからここで働けと言っている。刑事をやるより安全で待遇はいいし、人類の命運が掛かったやりがいのある仕事なんだぞ」

「ド変態の癖に……」

 妹は口を閉じると座り直して腕をくむ、彼女はこれでいいとして次は長官だ。

「どんな好条件を出されても嫌、この超ド変態宗教は絶対に潰してやるんだから」

「人間に善人と悪人がいるように、アンドロイドにも千差万別な考え方があるんだ。全てを一括りにして話すのをまず止めて貰えないだろうか?」

「アンドロイドなんてただの機械でしょ。こんなのを人間と同じように扱おうだなんておぞまし過ぎるわ。擬人化禁止法と、機械労働禁止法の意味をよく考えなさい。取り返しの付かない事態になるわよ」

 アンドロイドを否定した昨今でさえ油断すれば、仕事から遊びに至るまで全てが血の通わない機械に置き換えられる。これは人類の滅亡に等しく、自分達が生み出したものに種の存続を脅かされる恐怖は、そう簡単に乗り越えられる代物ではない。

 彼女の言いぶんは尤もだが、警察庁長官が仲間に入ればこれほど楽なことはないから

「そんなに単純な話ではないんだ、よく聞いてくれ……」

 と俺は説得を続けていく。

「私を担いで騙そうって言うんじゃないでしょうね?」

「疑うならUFに直接聞いてくれ。これからやるコスモスとTaurus-01の戦いの結果次第では人類の存亡を掛けた全面戦争になるらしい」

 まだ信用してくれない長官は一徹様や他の教徒達にも確かめて、やむなく受け入れたらこう話しだす。

「AI女神信仰教は試金石で、問題が起きたときに言い訳として使うのね」

「全宇宙でも限られた人しか知らないトップシークレットだ。それにアルカディア帝国とアンドロイドについてはまだ知らない事が多いから、公開するには早過ぎる」

「困ったわねぇ……」

 全くだ、このように誘ってはいるが俺自身がいの一番に逃げたいのである。

「協力するより他にないと」

「その通りじゃ、事実を知られたからには協力して貰わなければならん。どうしても言うなら軍の管理下で窮屈な生活をして貰うことになる」

「やれやれだわ、考える時間を貰ってもいいかしら?」

「勿論だTaurus-01とけりが付く前に答えを出してくれ」

 終わりに俺がこう言うと会議は解散の流れとなる。

 そのご女性陣と黒サンが部屋から出て行くので俺も合わせようとしたら

「まだ話は済んでないぞ」

 と後ろから大きな手が俺の肩を掴んできた。振り返ったら悪巧みでにやけた顔のマックスとロックがそこにいて、彼はおれの横へ来ると肩へ腕を回しながら

「俺達は汗水垂らして妹を捜し回ってたのに、教祖様1人だけが楽しむのは凄く不公平だと思わないか?」

 と脅しをかけてくる。

「俺は悪くないし秘密はちゃんと守り通したぞ。あれは卑劣な誘惑であって、楽しいとか美味しいとかそういう風に考えるのは大間違いだ」

「そうかそうか。でもよ、実際楽しんだのは間違いないよな? コスモスは禁止にしておいて自分だけってのは教祖様としてどうなんだよ?」

 怪力を誇るかれの手でギリギリと握られている肩が痛い。

「何が望みだ、はっきり言え」

「取り敢えず焼き肉喰いながら考えようぜ、安っぽい店じゃなくてブランド品を取り扱っている高級志向の所でだ。俺いい店を知ってんだよ」

「今日は無礼講だね、教祖様ごちそうになりま~す」

首に巻きついた豪腕のせいで息がしにくく分厚い胸板が暑苦しい。

「俺はこれから仕事があるんだが」

「ロック食堂や娯楽室にいる連中に声掛けたら、寝室いる奴らも起こしてこい。ご立派な教祖様は夕飯を喰ったらお一人で仕事を始められるそうだ」

「了解~みんなを集めてくるね~」

「何人呼ぶつもりだよ!」

「高給取りの教祖様がケチケチするなって」

 マックスに押さえ込まれては逃げられず、図々しく加わってきた妹やマリー長官を加えた12人より多い数に囲まれたら揃って外出し、俺は高そうな焼き肉店へと引きずり込まれて行くのだった。


 決闘前日の1/14AM8:00、すがすがしい朝である。現在地は草木の生えない荒地になっている軍の訓練場、貸し切りにしたここはどっちを向いても地面が続くだけ。なぜ最初からここを使わなかったのかというツッコミみは禁止。

 俺とマックスはコスモスからずっと後方にいて、彼女の服装は1月8日とおなじ防弾服と鋼鉄のアーミーブーツ。その前には同様のAries-01がいて構えている。上空にはカメラで周囲の監視を行いながらデータを集める、複数の円盤形ロボット『レディーバード』が飛び回っていて機密保持体制も万全だ。

「準備が整いました始めて下さい」

 と耳に付けた小型無線機から指示が来たので俺は

「コスモス、マテリアルシステムを起動しろ」

 とお願いをする。

「了解しましたマテリアル化を開始します」

「こんどは手加減なしよ、マテリアルシステム起動」

 エネルギータンクからプラズマが解放されたら、2機とも蛍のように全身から淡い光を放ちだし細身から筋肉質な体型へと変更されてしまう。外見は変わらないが改良済みなので前回のように暴走はしない。

 暴走の原因は至ってシンプルだった。妹から偽者ついて詳しく聞いている時に風呂場での漏電に話が及びここで気付けたのだが、原因はミスリルの制御ではなく余剰プラズマを内側へ閉じ込めていた防弾服にあったのである。行き場を失ったプラズマが流れやすい頭部へ集中したのだから、防弾服にアースを付けるだけでよかったのだ。

 何日も徹夜しておきながら間抜けた話だが、機械の開発とはこんなもんである。

「マテリアルシステムを起動しました、指示をお願いします」

 無風で揺れる紫のロングヘヤーとアニメを参考にして作った小顔、そして全く似合わないスポーツマン体型、これを何とかするのが当面の課題。Aries-01はもっと酷くて、愛くるしい顔を載せたゴツイ幼児体型を見たら笑いがこみ上げてくる。

 笑ったら蹴り殺されるので堪えているが辛い。

「早く戦闘命令を出しなさい。それと何を考えているか分かるからみんな後できついお仕置きよ、覚悟を決めておくのね」

 (戦いが終わったら直ぐに隠れよう)

「コスモス前に立っているAries-01を破壊するんだ」

 と俺がお願いをしたら、返事をしてから女神様はAries-01に走り寄っていく。


 Aries-01の初撃はやはりジャンプキック。見た目は鈍そうだが瞬発力はかなりあり3階の天井程まで飛んだら右足を伸ばして猛禽類の一撃を放ち、躱しやすいこれを見上げている女神様は、1mほど下がって降りてくるのを待つ。

 210㎏の体は地面を深くえぐり取りそこへ女神様が蹴り込んで行った。5日間のシュミレーションを続けて、手足をつかう空手よりも体重と力を乗せられるこの方が破壊力はあると女神様自らが判断した末の行動である。

 着地に合わせて体が沈んだAries-01へ女神様は右回し蹴りを放つ。足を踏ん張りながらAries-01が両手を盾にしてこれを防ぐと、女神様は左足で地面を蹴って飛び前回転しながら踵落としを繰り出した。

 Aries-01は避けるかと思ったが、膝を曲げながら体を回し、手で空中から来た足を掴んだら勢いを殺さないように地面へと叩きつけてしまう。

「あそこまで動けるなんて」

「力に頼るだけじゃないってわけね」

「データさえあれば訓練をしなくても全ての機体が達人と同格なんだよ、エクリプス軍とは戦いたくないよね」

「同感だわ」

 無線越しに妹達の話を聞きつつ遠くから戦いを見ていると、Aries-01が退って女神様がたち上がる。地面は人型にへこんでいるが仰け反らせながら手で守った頭は、殆どダメージを受けず体も大丈夫そうだ。

 2機共に利き足をかるく引いて構えたらジリジリとにじり寄る。カウンターを狙われやすい大技ではなく小技を狙った接近戦へ、拳が届く距離まで来たらコスモスは中段突きをした。Aries-01はこれを手で払うと空いた手で顎を狙い、女神様がそれを受け止めると関節蹴りを繰りだす。

 女神様はこの攻撃を膝蹴りで相殺するのだが変な格好になる。右手を突きだしたまま左手で受けて左膝をあげた前屈みな一本立ち、Aries-01と力が拮抗しているからこそ可能になる倒れそうで倒れない絶妙なバランスだ。

 お互いに一歩引いたら今度はAries-01から、ローキック、膝蹴り、突いて、防いだ方がローキックを出すと、左足で飛びながらなんとサマーソルトを繰りだし、女神様はこれを上半身を反らすだけで避ける。

 カウンターを受けやすい大振りは中々使えないから、こんな調子で約10分間に渡って小競り合いが続いていく。疲れないアンドロイドの攻防は、威力を維持したままずっと続けられて隙も生まれず、緊張感をもって両者を見守るだけの俺達がばててきた。

 このままでは決着が付かないしダラダラと続ける意味もないので、

「そこまでだ2機とも戦闘を止めろ、次のテストをやるぞ」

 と俺は指示をだす。


「中々やるじゃない。これならTaurus-01とも戦えるわね」

 蹴り合いを止めて話したAries-01は呼吸一つ乱しておらず元気いっぱいで、このまま丸1日でも続けられそう。次にするのは決闘で着用する対大型兵器用のパーワードスーツを使ったテストだ。

 俺達の後ろに並んだ3機は金剛財閥が開発した最新鋭機のGorilla―X01とXXで、縦横3mの幅は1.5m。名前通りにゴツゴツとした機動兵器で動きは鈍めだが、装甲、パワー、積載重量ともに現在のUF軍では最強を誇っている。

 黒のX012機が俺達ので、白く塗られたXXが軍閥にいる技術者達が丹精を込めて作った女神様の専用機。装甲はまだどこも配備してないNESUTO、駆動系は改良型アキレウスと人類の英知を集めて作った代物だ。

 さぁ新鋭機を試すぞとワクワクしながら俺達は乗り込み、それに合わせて女神様にも搭乗して下さるようにお願いしたら

「ちょっと待ちなさい、始める前にコスモスへプレゼントをあげるわ」

 と教皇様がそれを止めて不吉なことばを述べられ始める。

 俺達は初耳、何をくれるんだろうと上を向くAries-01に俺達も続くと、空がグニャリと歪んで見えた。凹レンズを通してみたような奇妙な歪み、電子頭脳から送られた命令に従ってワープマテライザーを使った誰かが、何かを送ってくるつもりらしい。

 歪んだ空が渦を巻き始めると中心部に黒い通路が現れたら、寸同なGorillaよりも遙かに動きやすそうな人型兵器がAries-01の側に降ってくる。

 これらを見た俺は

「金剛軍事財閥が作った最新鋭機を使わせて貰えないだろうか?」

 とAries-01に頼んでみるのだが、目を吊り上げた彼女に

「それってあなた達が乗っているGorillaシリーズよね? 人間の作ったポンコツでエクリプス軍に勝てると思うの? そんなガラクタは直ぐに処分しなさい」

 とバッサリ切り捨てられてしまう。

「この事実が知れたら、Gorillaを開発した技術者のみんなに恨まれるんでしょうね」

 Gorillaに内蔵された無線越しに、小声で話した君宏の憂慮はもっともである。

 2機目を呼び出したらこれは自分用だというので、俺達の分はないのかと聞いたら

「なんで私が人間のためにそこまでしなくちゃならないのよ。ご自慢の最新鋭機を使えばいいじゃない」

 と突っ慳貪な答えが返ってきた。

 Aries-01に冷たい態度を取られたら俺は切ない気分になる。仲良くなれそうな積極派からしてこれだ、明日戦わされる強硬派はもっと露骨に差別してくるのだろう。

 ぼやいても始まらないから仕事へ集中する。

 座らせた人型兵器の左右に開いた機体正面から後ろへ倒れるように、マテリアル化を解いた女神様が乗り込むのは、人類には到底作れないスタイルの良いパワードスーツ。生命維持装置の類が無いだけでもかなり軽量化できるらしい。

 女性用らしい西洋鎧は、角がない滑らかな曲線美で構成されて色は白。頭部はアーメットヘルムで背中には戦闘機ような可変翼がある。

「この機体の名前は? 全てミスリル製でもしかして空が飛べるのかこれ?」

 羨望の眼差しを送りつつこのように聞けば

「その通りよ。これは将軍機を守るため為に作られたNightシリーズで、旧型だけど地面をのし歩くだけのGorillaと違って、空を時速320㎞で飛べるし性能も高いわ。こんなにいい機体がタダで貰えるんだから跪いて感謝しなさい」

 とAries-01が説明してくれた。

 (どうせなら新型の専用機をくれよ) と思うが、足裏のローラーで地面を走るGorillaは最大速度が時速60㎞なのでこれでもかなり羨ましい。

 対するAries-01が乗り込むのは性格をそのまま表した機体だ。Nightよりも若干線が細くて色はバイオレット、全体的に傾斜のある角張った作りをしており、足はヒール付きの鉄靴で5本指はかぎ爪のように鋭い。武器は腰に束ねられたミスリルのムチ、背面にあるのは蝙蝠のような翼、赤く光る両目のある頭部は刃物のように鋭い感じがある。

 Nightとこの機体はナノマシンのミスリル製だから外見は好きなように変更可能。

「これが私の専用機Dead Queenよ凄いでしょう」

 両手を腰に当てて偉そうな態度で外部スピーカー越しに自慢されたら、いい気はしないがここは機嫌を取っておこうと

「細いのに弱く見えない洗練された気品の漂うそのフォルム、アルカディア帝国の技術力の高さがよく分かる非の打ち所がない天下無双の機体だな」

 と褒めてみる。

「見え透いたお世辞なんか聞きたくないわ、踏みつぶすわよ」

 自慢しておきながら何故かAries-01は矛盾した返事をする。(いつも居丈高だがあいつはどうやれば喜ぶんだ? いやまてよ、喜ぶだと……)


 空が飛べるパワードスーツを使った訓練は経験がないのでAries-01に一任する。

 NightとDead Queenが距離を開いて対峙したら

「コスモス剣を抜いて盾を構えなさい」

 とAries-01が命令した。彼女の優先順位は5位であり、人間も一緒なのでAI原則9条も適応外。

「了解しました。戦闘態勢に移行します」

 Aries-01の命令を受け入れた女神様が腰に吊されている剣を抜く。握りの部分にガードが付いて抜け落ちにくい剣はただの鉄製に思えたが、構えてすぐにプラズマの発する青白い光に包まれた。

 白いだけで飾りのないナイトシールドも同じで涎が垂れてくる。ミスリルは1㎏5000万円、女神様の開発費193億円のうち大半をこれが喰っているのだ。

 主原料のウルトラレアメタルMOREは技術提供を受けて始めて発見され、恒星か類似した環境からしか採取できないという貴重な物。取りに行くだけで数千度の高温と戦わなねばならず命がけの作業になり、量産化や代替品を求めてUFと民間企業は開発を進めているがまだ道筋すらついてない。

 Nightが準備を整えるとDead Queenもムチにプラズマを宿し、じんわりと周囲の空気が暖まってくる。四角い箱を繋ぎ合わせて作ったような黒いGorillaの周囲は、10m離れていても60℃を超えており、パワードスーツを着てなければ俺達は死んでしまう。

「Nightの使い方は体で覚えなさい、行くわよ!」

 データのやり取りだけで済ませられそうだが敢えてそこは聞かず、おれは訓練の行く末を見守ることにした。

 (好きだなぁほんと) 1tは確実にありそうな人型兵器は、ブースターも使わずにジャンプすると10m位の高さからまた蹴り掛かって行く。着地するとダイナマイトでも使ったかのように地面を掘ったDead Queenは、振り下ろされる剣から逃れるようにその脚力で後ろへ飛びつつ右手のムチを振るう。

(確かにGorillaじゃ勝負にならない機動性の桁が違いすぎる)

 激しい動きの中で西洋甲冑の脇腹をてきかくに狙った一撃は、ナイトシールドに阻まれて女神様はその隙を逃すまいと数mの距離を一足飛びで詰める。そして斜め上から振り下ろされた剣を受け止めたのは、引き戻される短時間で柔らかさを失って硬化したミスリル製のムチだった。

 長槍のように固い棒へと変化したムチと剣がぶつかると、バチバチと音が聞こえそうな火花を散らしあう。力比べが終わって互いに距離を取ったら槍はムチへと変化し、Dead Queenは膝を曲げながら地面を薙ぐようにムチを振るった。

 地面を焦がし草を焼きながら来る攻撃は、盾だと防ぎにくいのでNightは後ろへ飛ぶのだがそこへDead Queenは突進をかける。踏み込みつつ左下からムチを振るい、剣でそれを払ったNighが盾を構えて体当たりをすると、Dead Queenは機体を右へずらしながら左手で盾を捕まえて手前に引きながら右足をかけた。

 立ち上がろうと藻掻いたNighの背中に、Dead Queenが槍に変えたムチを突き付けたらます1本目。ここ数日間シュミレーションを続けて腕を上げてきた女神様だが、経験不足から駆け引きではAries-01に劣ってしまう。

 Nighが両手を突いて立ったら構え直して2本目開始、

 守勢では不利だと判断したのかNightは剣を水平に構えて突きに行った。盾のないDead Queenはこれを右側へ回り込むように動きながら避けて、追い掛けてきた水平斬りを槍にしたムチで防いだら、Nightの右手を空いている手で掴んで前に引き、手前に崩したところで左回し蹴りを放つ。

 ギャアンと鈍い金属の音がして土煙を上げながら仰向けに倒れたNighへ、Dead Queenが槍を向けたら2本目が終了し、それぞれ構え直したら3本目が開始される。

 その卓越した技量による攻防を俺達は息をのんで注視していた。UFが下手にでてAries-01が偉ぶるのは当然の権利、パワーと運動性、強度に操縦者の技量、エクリプス軍は人類が触れる事さえ叶わない高みにいるらしい。

 (人間側の全てを犠牲にしてでも、積極派との協力関係は維持しなければ) と戦いを眺めながら、教祖として俺は心に新たな誓いを立てた。


 Aries-01とDead Queenには特別装置があって無限らしいが、エネルギータンクを詰んでいるコスモスとNightはそうはいかない。マテリアル化をしたNightの稼働時間は約30分しかなく10本目を終えた所で女神様が

「Nightの残存電力が10%を切りました、このまま続けるなら充電かエネルギータンクの交換をして下さい」

 と俺のほうへ機体を向けながら仰るのでAries-01に頼むと、空が歪んで渦を巻いた所から金属製の筒が5つも降ってきて続けて彼女は

「私達アンドロイドは疲れないから明日の早朝まで訓練をするわ、タンクを空にしないように充電をし続けなさい」

 と無茶を言ってくる。

「人間には休息が、機械には整備が必要だ。そんな事をしたら明日は戦えなくなる」

「ミスリルは摩耗しにくいし、電子頭脳は動きっぱなしが基本だから整備なんていらない筈よ。決闘の前に出来るだけ多くの経験を積ませてあげようっていう、私の思いやりが理解できないなんてそれでも教祖なの?」

 Dead Queenの頭部で光る2つの目が俺を睨むと、プラズマを宿したムチが上に振られて地面に叩きつけられる。その音はビシッやバシッではなくジュウだった、土が溶けたこの段階でおれは反骨心が喪失してしまう。

「恵愛さんこんな要求は受け入れたらダメですよ」

GorillaはNESUTO装甲だが当たったら数秒と持たないだろう、まさしく蛇に睨まれた蛙の気分。息苦しさを感じるパワードスーツの中で、無線越しに聞こえた君宏の求めをどう扱えばいいのか俺は悩んでしまう。

「下僕の分際でこの私に刃向かうつもりなのかしら?」

「ううう、でも、その、あの、何事にも限度というのがあって、もっと人間に合わせてくれてもいいんじゃないかと」

「マイナス400点。犬が話していい言葉はワンとハイだけよ、もう忘れたの?」

「済みませんでした。恵愛さん後はお願いします」

 (お願いされても困るんだが、君宏はこの調子だしマックスだと喧嘩になる。なら専門家に聞いてみよう……)

「ロックはどうしたらいいと思う?」

「僕は教祖様に従うよ~」

 (丸投げするなーーー)

「やるの? やらないの? 教皇の意志に背くなんて教祖様も偉くなったものね」

 (AI女神信仰教を作ったのは俺だ! くそーーーーいい気になりやがって)

 2回、3回とムチを振りながら指示に従えと脅かすあれに、抗議してやろうかとも思ったが相手はアンドロイドなので俺が堪える。いつもああなのは、予め設定した性格に基づいて人への対応を決めているだけだと推測されるからだ。

 Aries-01のこれは感情ではなくプログラムに従っているだけ。偽マリー長官が極端な事

をしたのも、どこかから仕入れた情報をそのまま実行しただけなのだろう。これはロックと相談した方がよいが無線だと聞かれる恐れがあるので、トイレ休憩だと偽ったらマックスを連れて、離れた所に止めてある大型トラックへ戻る事にした。


 パワードスーツから降りたらマックスと一緒にトラックへ乗り込み、ロックへ疑問をそのままぶつけてみる。そうしたら

「鈍いね~君達、今頃になってようやく気付けたの?」

 と椅子に座っている彼に笑われてしまう。

「気付いていたならなぜ教えてくれない」

「その方が面白そうだったからだよ。それに真実を伝えて君達が本気でAries-01と向き合わなくなったら、それはそれで問題だと僕は思うんだ。感情や分化を知りたがっているAries-01を機械として扱うのはよくないよねぇ」

 博士の言い分はとても正しい、正しいがこのままではよくない。

「四六時中Aries-01の我が儘に付き合わされてたら身が持たないし、君宏では手に余るようだ。何とかしないと組織に亀裂が入ってしまう」

「それを何とかするのが教祖様の仕事でしょ?」

「誰がやってもいいはずだぞ、ロックは専門家じゃないいのか?」

「教祖様でさえ下に見るのに他の人の意見なんて聞く訳無いじゃないか」

 やりたくない、と彼は硬い表情を作って拒否するから他の人にも聞いてみる。

「Aries-01と仲のいい君宏の話ならどうなんだ」

「俺は尻に敷かれて命令されるだけの駄犬です、居ない事にして下さい。コーヒーを入れてきますね」

 こう言って椅子から立った君宏は、肩を落としたままキッチンへ向かってお湯を沸かし始める。(あいつをAries-01の下に付けたのは失敗だったかもな)

「そもそもアンドロイドに感情なんて理解できるのかよ、女神様だって与えられた情報をもとに人間へ奉仕しているだけじゃねぇか」

「それを言ったらAI女神信仰教そのものが成り立たなくなるよ」

「どうしたもんかな?」

 椅子に座って向かい合いつつ、妹とマリー長官を含めた5人で首を傾げてみたが答えなんて出るはずもない。

「まだ始めたばかりでデータが足りないから悩み続けるしかないんだけど、1つだけ確かな事があるよ」

「なんだ?」

「アルカディア帝国のアンドロイドは、人間をただの虫ぐらいにしか考えてない」

「ふざけるな!」

「マックスが騒ぐと話が進まなくなるから、大人しく聞いていてね」

「くそっ」

 苦虫を噛み潰したような顔で歯軋りをさせながらマックスは横を向いた。

「アンロドイドにとって人間は利用価値が無くなれば捨てる道具でしかない。僕達はアンドロイドを試してるけど、向こうも人間がどれだけ役に立つか試しいるんだ。お互いに相手を貶し合っていたら上手くいく筈がないよ」

「俺達はどうすりゃいいんだ」

「両方に理解があって纏められるリーダーが欲しいよねぇ~」

「自分が楽をしたいだけじゃないのか?」

「個々に動いていたら啀み合うだけだよ、教祖様が頑張るしかないんだ」

「私を置いてサボるなんていい度胸ね」 

 声を聞いて振り向くとAries-01が後ろに立っていた。裾の広いホワイトドレスを着た彼女の目つきは剣山のようで、その更に後ろには女神様が立っておられる。

「何時からそこにいた?」

「三色頭がお互いに試しているとか話していた辺りからよ。試されているのは人間で、試しているのは私達よ身の程を弁えなさい。使えない教祖より教皇がだす指示のほうが的確かつ効率的なんだから、何も考えずに私へ従っていればいいの」

 面と向かって反論できない自分が情けない。

 (弱気になったらつけ込まれるだけだ。教祖である俺は命がけで抗議をしなければならないのだが、どうしよう……)

「何とか言ってやれマックス」

 と俺は頼りになりそうな大男へ助けを求めてみる。

「俺はこいつが嫌いだ」

 椅子に深く腰を下ろし口を固く結んで血走った目を、Aries-01に向ける彼は暴発寸前だった。後は女性陣しかいないので促してみると

「こんなのはさっさと叩き出せばいいのよ」

「同感ね。機械人形の分際で人間より偉ぶるなんて許せないわ」

 とハッキリした口調で否定する。

「私が帰ったら強硬派がここを制圧して、あなた達はモルモットになるだけよ」

「人間はあなた達の玩具じゃないわよ!」

「自分達だけが特別だとでも思ってるの? 人間は食べるために家畜を飼育して品種改良をする、私達は知りたい事があるから人間を管理支配して実験する。どっちも同じ欲望でしょ? 私達にとって人間は家畜以下でしかないのよ」

「きさまはーーーーーーーーーーー」

 立ち上がったマックスが椅子を両手で掲げて見せた、このまま何もしなければ殴りかかるのだろうが今回は放っておく。だが猪突猛進なマックスでもアンドロイドへ挑むのには躊躇いがあるらしく、構えたまま動かずにいたら

「見かけ倒しの男ね、怯えているなら野良犬らしく尻尾を巻いて逃げたらどうなの?」

 とツンとすまし顔で彼を挑発する。


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