第8話 陸海軍
翌々日8日
おおすみ型輸送艦『しもきた』、あきづき型護衛艦『わかつき』、第十一駆逐隊の駆逐隊『吹雪』『白雪』『初雪』の5隻が島の北端部に転移した旧横須賀鎮守府に到着した。
横須賀鎮守府司令長官の平田昇中将には山本長官が事前に無線で事情を説明していたが、万が一、陸軍などが敵対行動を取った場合に備えて『しもきた』の甲板には戦闘ヘリUH-60JAが2機待機し、前方を『わかつき』が警戒しながら航行することとなった。結果的に取り越し苦労となったが。
また平田長官とのやり取りで島に転移したのは実戦部隊の人間が殆どであり、政府関係者はほぼ居ないことが判明していた。
鎮守府の埠頭には海軍将校だけでなく、支那派遣軍総司令官の畑俊六大将、南方軍司令部の幕僚、第十四軍司令官の本間雅晴中将、第十六軍司令官の今村均中将、第二十五軍司令官の山下奉文中将、第二十三軍司令官の酒井隆中将など、陸軍関係者も集まっていた。
『わかつき』から山本長官が降り立つと、平田長官をはじめ海軍関係者が駆け寄ってきた。
「長官‼︎ ご無事でしたか‼︎」
「君たちも無事だったか。」
「いきなりで申し訳ないのですが、先日お話しいただいたことは・・・」
「荒唐無稽な話だったろうが、事実だ。陸軍もいるようだし、改めて話そう。」
横須賀鎮守府庁舎の会議室にて山本長官が事情を説明したが、その場には開戦時の駐米大使である野村吉三郎と日本降伏時の全権大使である重光葵の姿もあった。
「・・・・・・山本長官、この非常時に冗談を言うのは軍人としていかがなものでしょうか?」
「我々が未来の日本と共に異世界へ飛ばされたなど、どうすれば信じられるのでしょう。」
南方軍の幕僚などから予想通りの反応が返ってくると、山本長官と共に来ていた久永政務官が声を出した。
「信じられないのは最もでしょう。先ずは未来の陸軍兵器をご覧ください。」
『しもきた』から90式戦車が降りてくると陸軍関係者は目を見張った。いかにも重厚そうな装甲、威風を放つデザイン、圧巻の44口径120mm滑腔砲を前に陸軍将校はさながら、未知の怪物に出くわした恐怖と新たな玩具を手にした子供の興奮を足して二で割った様な様子だった。
『しもきた』に積まれていたのは富士教導団戦車教導隊第二中隊に属する一個小隊4両だった。現代日本の街並みを直に見ることが出来た連合艦隊と違い、特に陸軍はそう簡単に未来の日本やタイムスリップを信じるとは思えなかったため、山本長官と共に運ばれていた。
鎮守府から少し内陸に移動して即座に射撃演習が準備されたが、待機する戦車の後方には過去から転移した部隊の人間が所狭しと集まり、富士総合火力演習の観客席の様相を呈していた。
「皆様、これより実弾射撃演習を開始します。」
拡声器でアナウンスが流れると視線が一気に90式戦車に集まった。
「演習開始‼︎」
90式戦車の主砲の威力や行進間射撃、UH-60JAの飛行が披露された後に簡単な性能の説明がされると、陸海の軍人を問わず開いた口が塞がらなかった。
「こ、このような兵器を日本が持つのか⁉︎」
「これならば、ソ連すら打ち破れるのではないか⁉︎」
南方軍将校の中から興奮した言葉が出始めると、側にいた久永政務官が気まずそうに言った。
「皆さん、この90式戦車が制式化されるのは日米開戦から49年後、ヘリは更にその5年後に調達が開始されるのですよ。」
その言葉で陸軍の将校達は興奮した頭を冷やされた。
「これから、我々の日本が歩んだ戦争とその後の軌跡をお見せします。」