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第6話 帝国海軍2

12月6日 午前0時50分



連合艦隊司令長官・山本五十六は戦艦『長門』の艦橋で目を覚ました。


 窓の外には煌々(こうこう)と輝く瀬戸内海が広がっており、周囲には多くの見張り員や幕僚達が倒れていた。何事かと思っていると倒れていた一人が起き上がり始め、山本長官は直ぐに駆け寄った。


「おい! 大丈夫か!?」


「う・・・・・長官!? し、失礼しました!!」


「君は気を失っている者を叩き起こしてくれ。」


「了解!!」


山本長官は再び外へ目を向けた。


「狐にでも化かされた気分だな。」


改めて見ると、艦橋から見る夜の瀬戸内海はとても面妖だった。



「長官!! 一体これは・・・・・・」


意識を取り戻した幕僚達が集まってきた。


「俺にも分からん。」


 しばらく呆気に取られていると、見張り員が声を上げた。


「10時方向!! 船舶接近!!」










「嘘だろ・・・・・・・・」


 第六管区海上保安本部・呉海上保安部所属:とから級巡視船『くろせ』艦長の井上辰巳いのうえたつみは混乱していた。


 深夜、瀬戸内海を航行する船から大型船がいきなり現れたと通報を受けて現場に向かうと、船首に菊の御紋を付けた船舶が停泊していた。しかも巡視船のライトで照らし出されたそれは、かつて連合艦隊旗艦を勤めた上に敗戦まで生き延び、最後は水爆実験の標的として沈んだ戦艦『長門』だった。


 唖然としていると『長門』の艦橋に光が灯り、我に返った井上艦長は拡声器で呼び掛けた。


「こちらは海上保安庁の巡視船『くろせ』である!! 乗船を許可されたい!!」











「ど、どうしましょう?・・・」


「受け入れるべきではないか?」


「「「!?」」」


予想外の山本長官の言葉に皆驚いた。


「長官!? しかし・・・・・・」


「外を見たまえ。どう考えてもあの光溢れる陸地は我らの知る瀬戸内海の光景ではない。まず何が起きたか確かめるべきだろう。」








 甲板から下ろされた梯子を登り、井上艦長と他3人が『長門』に乗艦した。


「巡視船『くろせ』艦長の井上三等海上保安監です。」


「三等海上? 聞いたことは無いが・・・連合艦隊司令長官の山本だ。」


「・・・山本・・・長官・・・」


 予想はしていたものの、乗艦した4人は動揺を隠せなかった。


「どうかしたかね?」


「い、いえ! 軍神と呼ばれた方にお会いするなど、思ってもいなかったもので・・・」


「軍神? 俺がか?」


「?・・・ええと・・・長官は真珠湾攻撃の報告を受けましたか?」


井上艦長の言葉に幕僚の一人が殺気立った。


「貴様!! 何故作戦を知っている!? 英米の間諜か!?」


「つまり、開戦前ということなのですね。」


しかし井上艦長は怯むことなく言葉を返し、山本長官は彼の返事に疑問を持った。


「どういうことかね?」


「信じられないでしょうが、今は日米開戦から79年後の2020年なのです。」


「・・・・・・確かににはかには信じ難いな。だが、少なくともここが昭和16年の瀬戸内でないことは確かだ。」


 軍人としていかなる現実も直視すべきという姿勢と、やはり簡単に信じることが出来ないという思いが山本長官の中で綱引きをしていた。


「ともかく、あなた方は80年近い時を越えて来たということを理解して頂きたい。」


 井上艦長にはそれしか言う言葉が残っていなかった。


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