第26話 後処理
初めて色恋的な場面を書いてみましたが、あまり期待はせずにお読み下さい。
「ここにきてユーティアル軍とのイザコザが起こるなんて・・・」
「ですが我々に非はありません。むしろ現地軍の暴発を防いだと思えば・・・」
「それもそうだけど、これはどういう事なの・・・」
杉浦防衛相は頭を抱えていた。
コミテルン帝国軍を完膚なきまでに叩きのめし、捕虜の捕縛を完了して戦場の後処理を実施している最中にそれは発生した。
*****
「捕虜の総数は?」
「想定より若干多めです。我々自衛隊の収容所で収まらない分は砦で管理してもらう方が得策と考えます。指揮官クラスを渡すわけにはいきませんが。」
「それは向こうも同じだろう。総指揮官の身柄だけは譲れないと言ってきている。」
「いっそのこと捕虜に関しては共同管理として尋問も砦側と共同で行うというのは?」
「それであの美人司令官殿が納得するでしょうか?」
「難しい、だろうな・・・」
「面子の問題もあるだろうが、メリアール殿は帝国への憎しみが予想以上に強い。考えたくは無いが、捕虜に対してリンチでもされれば最悪外交問題だ。」
特務派遣隊の司令部にて幹部クラスの自衛官や軍人達が捕虜の取り扱いや今後の方針を議論していた所に、平野一尉が大慌てで駆け込んで来た。
「た、大変です‼︎ メリアール司令官が全捕虜の処刑を行うと言ってきました‼︎」
会議室に後頭部を殴られた様な衝撃が走った。
「何⁉︎」
「ばかな⁉︎ 正気か⁉︎」
「すぐ止めさせろ‼︎ 今残ってる隊員を総動員してもだ‼︎ 帝国軍の遺体を処理してる連中も呼び戻せ‼︎」
司令部が慌ただしく動く中で、古林陸将補は平野一尉を呼び止めた。
「メリアール殿は外か?」
「はい。」
「案内してくれ。」
「はっ!」
*****
「メリアール殿、これは一体どういうことですか?」
「どう、とは?」
「捕虜の処遇については未だ協議中の筈です。にも関わらず一方的に処刑を行おうとする理由を説明して頂きたい。」
司令部から砦の広場に出た古林陸将補は息つく間もなく問いただした。
「・・・戦闘前にも申し上げましたが、私は部隊の指揮権を移譲した訳ではありません。」
メリアールは反論する間も与えずに主張を続けた。
「また捕虜についても、そもそもこれはユーティアルの戦争です。本来であればニホンが関わることの方が筋が通らないのではありませんか?」
「しかしユーティアル王国と我が国の取り決めでは、少なくとも捕虜の取調べに関しては我々も関与するとしています。メリアール殿の行動はユーティアルと日本の協力関係を損なうものだと言わざるを得ません。」
ほとんど水掛け論に近いやり取りがメリアール司令官と古林陸将補の間で飛び交っていたが、メリアールの鉄面皮だった表情は次第に苛立ちを含んでいった。
「どうしても処刑は取り止めないと?」
「何を言われようと私は己の信念を曲げるつもりはありません。連れて来なさい。」
メリアールは部下に命じて捕虜となっていた一人の帝国人を出させた。
「は、離せ‼︎ 私を誰だと思っている‼︎ お前達のような亜人風情が触れて良いとでも・・・」
「黙りなさい。」
「ぐっ!・・・」
メリアールは帝国軍総指揮官だったヴィーラの頭を掴み、地面に叩きつけた。
「そうだ!」
メリアールは部下にヴィーラの拘束を任せると、動揺する自衛官達に向かって妙案を思いついたとばかりに笑みを浮かべた。
「首を落とす前にこの女を好きにしても構いませんよ? 私がそうされたように、どうぞ性のはけ口になさったら良いでしょう。あなた方ニホン人も帝国人と同じヒトなのですから。」
バシィィ‼︎
駆け寄った平野一尉がメリアールの頬を平手打ちした。
「・・・な、何を・・・⁉︎」
「いい加減にしろ‼︎ 戦闘はとっくに終わっている。今更殺したって意味は無い‼︎ 何故こんな事をする‼︎」
「何故、だと・・・・何故だと⁉︎」
メリアールは平野一尉の胸倉を掴んだ。
「お前達が・・・お前達が私の復讐を台無しにしたからだ‼︎」
その顔は普段の彼女からは想像出来ない程に感情がこもっていた。
「こんなものが私の復讐であってたまるか‼︎ この手で帝国の奴らを殺す事だけが私の復讐で生きる理由だ‼︎ それを・・・こんな簡単に・・・」
悔しさなのか悲しさなのかメリアール本人も分からなくなっていた。
「・・・ならせめて、この女には私と同じ屈辱を味合わせてやるんだ。部下だった肉塊の傍らで女としての尊厳をぐちゃぐちゃにしてやらねば気が済まない‼︎」
「ふん‼︎」
ガコッ!
「がっ⁉︎・・・」
平野は自身の胸倉を掴むメリアールに頭突きを食らわせ、彼女はその勢いで尻餅をついた。
「さっきから聞いていれば、まるで不幸自慢だ‼︎ 自分はこんなに不幸なんだと言いたいだけじゃないか‼︎」
平野は更に声を荒げながら続けた。
「過去を無かった事には出来なくても、幸福を求める事は出来たんじゃないのか⁉︎」
平野の言葉に一瞬ポカンとしたメリアールは、直後に嘲るように笑い出した。
「ははっ・・はははは・・・幸福?・・・幸福か・・・そんなものを私が手に入れられると貴様は本気で思っているのか?」
メリアールは笑いながら涙を流していた。
「帝国人に体を弄ばれた私が、幸せなど・・・・・・・・・何処に求めればいい? 誰に求めればいい? 何が私を救ってくれると言うんだ・・・」
「それは分からん。自分の事は自分で何とかするしか無いからな。でも一緒に考えることは俺にも出来る。」
「一緒に・・・考える?・・・」
「もう少し他人を頼っても良いんだよ。あんたの部下の女達だってあんたの悩みだったら全力で寄り添うだろう。慕われているから皆付いてくるんじゃ無いのか?」
「・・・・・・・・・」
無言であっても、これまでメリアールが押し殺してきた感情が決壊寸前である事が容易に分かった。
「泣きたいなら泣けばいい。その間ぐらいなら側に居るから。」
「う・・・うう・・・っ・・・」
啜り泣く声が静かに響いていた。