第24話 砲火3
帝国軍がハバル砦から15キロ程の地点に差し掛かった時、既に砲兵隊の攻撃準備は整いつつあった。
八九式十五糎加農砲ならば最大射程が18000メートルに達するが、ミノタウロス兵から成る砲兵隊の練度不足などから最大射程での砲撃は見送られた。
航空基地では海軍軍人や自衛隊員が緊張感を漂わせながら機体の点検や弾薬の詰め込みを行っていた。
防衛計画は砲兵隊の攻撃に合わせて山本長官座乗の戦艦4、空母2、駆逐艦3から成る第1任務艦隊による艦砲射撃を行い、撃ち漏らした敵兵を海軍基地航空隊と二航戦と陸自の航空戦力によって揉みつぶすというものだ。
「間も無く攻撃が開始されます。」
砦の食堂に設置された合同司令部にて特務派遣隊司令の古林陸将補が宣言する様に言った。
十五糎砲の第一小隊2門は本職の陸軍軍人が、第二小隊2門はミノタウロス兵が砲撃要員として編成されているが、観測や計算など他の必要な部分は陸軍と陸自が行っている。
「敵部隊、予定地点に到達しました!」
観測班からの報告を受け、中隊本部から各砲に命令が発せられた。
「撃ててぃ‼︎」
4発の砲撃音が砦一帯に響き渡り、観測員が着弾までの時間を時計を見ながら確認する。
「だんちゃーく、今‼︎」
行軍する帝国軍の周囲に爆煙が発生した。
*****
「何だ今のは⁉︎」
帝国軍の隊列の中心付近で驚愕する女性の声が放たれた。
声を上げたヴィーラ・アルデ・アレクサンドは部隊の名目上の総指揮官として馬上に居たのだが、行軍する帝国軍の前方や左右の地面が突如爆発したことに動揺した。
「亜人達の攻撃か⁉︎」
ヴィーラの疑問に対して、実質的に軍を指揮している貴族達が即座に否定した。
「そんなばすはありません、ヴィーラ様。奴らの砦までまだかなりの距離があります。亜人共にあの様な力は無いはずですぞ。」
「そうですとも、連中は人間の配下となるべき低俗な存在です。我々より優れているはずが・・・」
より近くで再び爆音と土煙が帝国軍を襲う。
「部隊を分散して進撃だ‼︎ 急げ‼︎」
下士官が咄嗟の判断を下し、一つの塊になっていた帝国軍は幾つかに分かれて駆け出した。
「お、おい‼︎ 何を勝手に・・・」
部下の勝手な行動を咎めようとした貴族は直後に砲撃の爆風を食らって落馬し、帝国軍は100〜200人単位の部隊に分散した。
*****
「長官、陸での戦闘が始まりました。」
「そうか、此方も仕事を始めるとしよう。」
『長門』の艦橋にて参謀から報告を受けた山本長官は地上の帝国軍に対する艦砲射撃を指示した。
『長門』『陸奥』『比叡』『霧島』の戦艦4隻は西に向かって単縦陣にて航行しつつ、各々の主砲を例外なく右舷に旋回させる。
また二航戦の5隻は対地攻撃を行う戦艦群から離れ、発艦に向けてのプロセスを始める。
その一方で特務派遣隊司令部に艦隊の砲撃開始を無線で通告する。
「こっちは陸の連中より砲門が断然多い。倍以上の結果が無ければ示しがつかんぞ!」
「「「はっ‼︎」」」
砲撃に向けて各砲塔が着々と手順をふむなか、参謀の一人が発破をかける。
上空の観測機も準備が整い、いよいよ大艦の巨砲がその力を後世の人間に見せる時が近づいて来た。
「攻撃始め‼︎」
山本長官の声を合図に眩ゆいばかりの閃光と爆音が放たれ、砲口が火を吹いた。
「これが・・・戦艦・・・」
『長門』に乗船していた自衛官が呟いた。
現代戦に対応した護衛艦では見ることの無い41センチ連装砲による対地砲撃。
かつて自ら航空機の優位性を証明しておきながら大艦巨砲主義を捨てられなかった帝国海軍だが、戦艦という存在に魅了されてしまっては無理もないと思えてしまう。
そのように見惚れている間にも41センチ砲と35.6センチ砲の砲撃は間断なく続けられる。
*****
「山口司令、山本長官より攻撃命令です。」
陸と海の二方向からの砲撃が始まってから凡そ3時間、敵戦力の主軸に痛手を負わせたと判断した特務派遣隊司令部はより正確な敵の撃滅を図るため、計画通りに航空戦力の投入を決定し、山本長官に対して基地航空隊と第二航空戦隊の攻撃参加を要請した。
山本長官からの攻撃命令を受領した山口多聞は口元がニヤついていた。
「よし、腕の見せどころだぞ。年上になっちまった息子や孫達に俺らの戦争を見せつけてやれ!」
「「了解‼︎」」
『飛龍』の艦橋は活気に満ち溢れていた。
「全機発艦、始めー‼︎」
命令が伝声管を伝って艦内に響き渡る。
風上に進路を取りつつ全力航行する『飛龍』『蒼龍』から次々と零戦、九九式艦爆、九七式艦攻が空へ舞い上がり、銀翼を連ねて陸地へと飛び去った。